4話
今日は工房は休みで、由良と雅彦と久子は家でテレビを見ていた。
「........」
「あら、おはよ〜秋乃ちゃん」
「........(ペコリ)」
秋乃が眠そうに目をこすりながらリビングにやって来た。
由良と雅彦は一瞥しただけだったが、久子はちゃんと挨拶をしてあげた。
だが秋乃は挨拶を済ませた後、また部屋戻ろうとした。
だがそれを久子が止めた。
「あ、秋乃ちゃん?どこ行くの?」
「........」
「部屋に戻ろうとしてるならダメよ!秋乃ちゃん昨日お風呂入ってないでしょう?」
「........(コクリ)」
「ダメよ〜女の子なんだから〜」
久子は秋乃を風呂場へ連れて行って風呂場に連れて行った。
だが秋乃は頑なに風呂を断った。風呂など入らなくても自分の価値は変わらないとか、自分ごときがお風呂になんておこがましいとか、そんな事を思っていたのだろう。
だが久子はそれを許さず、力づくで秋乃をシャワーで丸洗いした。
「........」
「何でちょっと疲れた顔で出てくるんだ...」
「大変だったわぁ〜」
「........」
「あの、まぁ...お疲れさん」
「アイスコーヒー飲む奴いるか?」
雅彦がキッチンでアイスコーヒーをガラスのコップに注いでいたので、秋乃以外の二人が挙手をして意思を示した。
「秋乃ちゃんどう?アイスコーヒー。嫌い?」
「........」
秋乃は困った様に俯いてしまった。
すると、由良が秋乃にある事を伝えた。
「なぁ、秋乃。嫌なものは嫌、そう言っていいんだ。お前はもう、俺たちの家族なんだから。だからさ、好きなものは、ちゃんと好きって言って欲しい。我慢なんて、して欲しくねぇんだ」
「........!」
秋乃は優しくそう言った由良を見て、涙目になって、また目を逸らした。
そして、ゆっくりと控えめに、右手を挙げた。
「ん、全員で飲むか」
「そうしましょっ!秋乃ちゃん!こっちおいで?座って座って!」
「ちょっ...俺が落ちる...」
久子が秋乃を座らせようと由良をソファから落とした。由良は仕方なく床にクッションを引いてそこに座った。
アイスコーヒーが全員の手に渡ったのだが、秋乃は全く飲もうとしない。
「........」
「どしたの?飲んでいいのよ?」
「........」
「...飲むの初めて、とか?」
「........(コクリ)」
「ええ!?」
「冷たっ」
久子はとても驚いてコーヒーを少しこぼした、雅彦の服に。
「飲んだ事、ないの?」
「........(コクリ)」
「美味いぞ、飲んでみ?」
「........」
秋乃は恐る恐るコーヒーを少しだけ飲んだ。すると、
「〜〜〜!!」
「あら、苦かったかしら?」
「ブラックだしな、ガムシロ取ってくる」
「あ、お母さんの分も〜」
由良はガムシロップと一応ミルクを渡した。
ガムシロップとミルクを入れてもまだ苦そうだったが、さっきよりマシだったみたいで、少しずつ飲んでいた。
「お風呂入って気付いたけど、秋乃ちゃんの髪すっごい綺麗ね〜」
「........?」
「確かに、毛先まで綺麗だわ」
久子に言われて由良も秋乃の髪を見てみたが、確かにとても綺麗だった。
ボサボサだったので、これは意外だった。
「ちょっといじっていい?」
「........(コクリ)」
久子は秋乃の綺麗な髪をアレンジしたかったらしく、秋乃に許可を得た。
櫛、髪ゴム、髪留め、色々持って来て秋乃の髪を弄り始めた。
秋乃は相変わらず無表情にテレビを見て好きにさせていた。
「あ、そうだ。秋乃ちゃん。今日秋乃ちゃんの歓迎会するから、好きな食べ物教えて?」
「........」
「何が好きなんだ。カレー?ハンバーグ?焼肉?パスタ?ピザ?オムライス?」
由良が喋らない秋乃のために色々候補を出して挙げた。料理名を言っていくと、オムライスのところで由良の方を見た。
「オムライスか」
「........(コクリ)」
「じゃあ今日はオムライスね!」
秋乃は無表情だったが少しだけ嬉しそうに見えた。
そんな事をしていると、秋乃の髪は久子によって可愛くなっていた。
「前髪分けた、ゆるポニーテール!どぉ?可愛いでしょ!」
「........」
「いんじゃね?」
「もぉ〜可愛いって言ってあげなさいよ!」
秋乃の髪は前髪も長く、それをそのまま顔に垂らしていたので分けて顔を出した。後ろ髪はシュシュを使ってゆるく髪を結った髪型にした。
出てきた顔は、とても小さく可愛らしかった。
綺麗な二重に、細く少し高めの鼻、薄桃色の唇に、白く綺麗な肌。スペックは高い方だ。
「あぁ〜秋乃ちゃん可愛すぎ〜!お嫁に出したく無いわぁ〜!」
「出さなきゃいいだろーが」
「秋乃ちゃんにだっていつか好きな人出来るでしょ!?はぁん...変な男寄らないようにしなきゃ...。うちの大事な看板娘なんだから」
「は?おい、秋乃を店で働かすのか?」
「そりゃそうよ〜家で一人じゃかわいそうじゃない。大丈夫よ、ちゃんと仕事出来るようにさせるから〜」
「大丈夫かよ...」
今のところ秋乃が喋ったところを一度も見たことが無い由良は、ちゃんと接客とかが出来るか不安になった。
それから夕方まで過ごしたところで、久子と雅彦は秋乃の好物のオムライスを作るための材料を買いにスーパーに買い物に行った。
由良は家にいたが大してやる事もなかったので部屋に戻ることにした。
家を出て離れの部屋に入ろうとしたところで、後ろの方で窓が開く音がした。
窓が開いたのは秋乃の部屋で、窓から秋乃が由良のことを見ていた。
「........」
「........」
お互いがお互いを見ているが、声はかけない。秋乃は喋らないので、由良が秋乃に話しかけた。
「何かあったか?」
「........(フリフリ)」
秋乃は由良の部屋である平家を指差した。平家が何故あるのか知りたかったみたいだ。
「ここ?俺の家、家っつーか部屋だな」
「........?」
「離れて暮らして、一人暮らしに慣れるためにここで一人で住んでんの」
「........」
「...来るか?こっち」
「........(コクリ)」
秋乃は部屋の奥に消えた後、すぐに由良の家に来た。
「ん」
由良はドアを開けて秋乃を先に入れる。秋乃はたどたどしく家へと入っていった。何かに怯える様に入っていく秋乃が少しだけ面白く、試しに驚かしてみた。
「わっ!!」
「........!!」
秋乃は驚いて由良の顔を見た。由良はその時の顔が面白くてケタケタ笑った。
「あははは、ビビり過ぎだろ」
「........」
「いて、いてっ、分かった分かった、驚かしてごめんて」
馬鹿にして笑う由良にムカついて、秋乃は由良の脛をゲシゲシと蹴って怒りを表した。
こんなに感情を表に出す秋乃は珍しくて、蹴られてるけど少し嬉しいと由良は思った。
とりあえず部屋を案内することにした。
「ここがキッチン、あんま使わないけど、料理はする」
「........」
「んでここがシャワールームってか風呂場だな。湯船が無いだけ」
「........」
「くらいかな、大したもんはねぇだろ?」
由良はベッドに仰向けになって寝転んだ。
「いてもいいけど、物は壊すなよ〜」
「........」
由良はそう言って眠りについた。
一時間ほどして由良が目を覚ますと、秋乃が目の前にいて、由良の顔をとても近くで見ていた。
「........」
「...あの、何してんだ?」
「........」
「ずっとここにいたのか?」
「........(コクリ)」
「あー...暇だったろ?帰って良かったんだぞ?」
「........(フリフリ)」
「あそ...今何時だ?...19時か、そろそろ家行くぞ。飯だし」
「........(コクリ)」
秋乃は由良の後ろをちょこちょこ足音が聞こえそうな可愛らしい歩き方でついて来る。
こんな可愛い子を、どうして虐待出来るのだろう、由良は久子に今度原因を聞いてみることにした。
オムライスが人数分テーブルに並んだところで、全員で秋乃の養子入りを祝った。
「秋乃ちゃん!」
「いっらしゃーい」
「よく来た」
「........(ペコリ)」
秋乃は恥ずかしそうに頭を下げた。
これからもっと仲良くなって、秋乃が喋ってくれる日をみんなで楽しみにした。