「...あいしてる」
「お父さん!早く早く!」
「分かってるってば。そんなに急かさないでよ」
「久子さん、ちゃんと録ってますか?」
「んーん、私は録らないから、悪いんだけど純くん録っておいてくれる?」
「分かりました」
「何で録ってあげないのー?」
「カメラ越しより、直接見たいの」
「変なの〜」
「ふふふっ、麻子ちゃんも、お母さんになったら分かるわよ」
久子はそう言って麻子の頭を撫でた。
カメラ越しじゃなく、二人の姿をしっかりと目に焼き付けたい。親心とは、そういうものなのかもしれない。
教会のドアが開き、白いタキシードを着た由良が一人でバージンロードを歩いた。
純はカメラで由良を録りながら、小声で話しかけると、由良は横目に薄っすら笑った。
「由良にぃにかっこいい...」
「麻子もいつか由良くんみたいなかっこいいお婿さん貰うんだよ?」
「うん!」
「ちょっ、やめて寂しいから」
ドアの向こうでは、ウェディングドレス姿の秋乃と、スーツ姿の雅彦がいた。
雅彦の腕に秋乃の腕が絡められていて、二人は緊張した顔をしている。
「そろそろなので、準備はいいですか?」
ウェディングプランナーのスタッフがそういうと、二人は同時に頷いた。
ドアが開けられるその前に、秋乃は雅彦に一言だけ添えた。
「...おと...さん」
「ん?」
「...あり...がと...」
「...ああ」
扉が開けられ、二人はゆっくり、ゆっくりとバージンロードを歩いた、由良の待つ祭壇まで。
「秋乃ねぇねもキレー...」
「本当ねぇ」
そして、雅彦の手を離し、由良へとその手は繋がれ、二人は神父の前に立った。
戻って来た雅彦に、久子は声をかけた。
「お疲れ様、蹟かなかったわね」
「当たり前だ」
「ふふふっ、緊張してるのが見てて分かったわよ?」
「始まるぞ、ちゃんと見ててやれ。俺たちの子供の結婚式だ」
「そうね。ちゃんと見ててあげなきゃね」
二人は神父の話を聞いて、指示通り動いた。
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい」
「........(コクリ)」
由良は声に出して返事をしたが、秋乃は出来なかったので頷いて返事をした。
前もって神父には言っておいたので、やり直しは無かった。
「では指輪の交換を」
そう言われて、由良と秋乃は指輪の交換をした。
キラキラ輝く指輪を、秋乃は眺めていたが、由良に次行くぞと言われて我に帰った。
色々手順を終わらせていって、誓いのキスをする事になった。
「では、誓いのキスを」
「........(コクリ)」
「ちょっ...と待て秋乃...!お前からじゃない!俺からするの!」
「........?」
「こういうのは、新郎からするの!お前からじゃない。格好つかねぇだろ」
「........」
「何だその、『じゃあ早くしてよ』みたいな顔」
秋乃は豪快に由良を手繰り寄せてキスをしようとしたが、寸前で由良がそれを止めて説教をした。
そんな二人のやり取りを見て、二人を知っている者達は二人らしいと笑ってしまった。
「ったく、しまらねぇなぁ」
「二人らしいね」
「由良にぃに顔真っ赤〜」
「ふふふ、微笑ましいわね」
「泣いていた俺がバカみたいだ」
結局やり直して、無事に『戸塚 由良』と『戸塚 秋乃』の結婚式を終えた。
披露宴も終えて、全員戸塚家に集合した。
「だぁ〜疲れた〜」
「お疲れ様、カッコよかったわよ由良」
「息子と娘に同時に巣立たれた気分だ」
「しゃあねぇだろ」
「由良にぃにと秋乃ねぇねすっごい格好良かったし綺麗だったよー!!」
「おう、サンキューな麻子」
「...あり...がと...」
由良と秋乃は麻子の頭を撫でながらお礼を言った。
「にしても、二人が遂に結婚かぁ〜。長かったなぁ〜」
「そうでもねぇよ、なぁ?」
「........(コクリ)」
「てか秋乃、お前神父が喋ってる間寝てたろ?」
「........(フリフリ)」
「嘘吐くな、頭カクカクなってたぞ」
「...だって、...おはなし...ながい...」
「え?マジで寝てたの?」
「なんかユラユラしてたからまさかと思ってたけど、本当に寝てたのね...」
「ダメよ〜ちゃんと起きてなきゃ」
「........」
話は、二人の新婚旅行先の話になった。
「どこに行くかとか決めてんの?」
「うん、京都行くかな」
「へぇ〜渋いね」
「海外じゃないの〜?」
「遠いし、金かかるし、秋乃が心配だしな」
「あ〜ただでさえ喋れないのに、外国は無理だわ」
「誘拐されそうだよね」
「どっちにしろ気を付けて行って来なさいね」
「おう」
「そう言えば、二人とも子供は?」
純が何気なく聞くと、二人とも顔を赤くして取り乱した。
「きゅ、急にそんなこと聞いてくるな!!」
「........(コクコク)」
「あ?おいおいお前ら中学生じゃねぇんだから、大事なことだろ?」
「そうよ、孫はいつ見れるのかしらね〜?」
「名前は決めているのか?」
「親父まで...」
全員に聞かれて、由良は慌てて秋乃に助けを求めた。
「あ、秋乃!お前もなんか言ってやれ!」
「...ゆら、あきの...いつでも...いいよ?」
「わぁお」
「秋乃ちゃん大胆」
「何言ってんだお前は!?」
「由良〜うかうかしてらんねぇなぁ〜おい」
「さっさと孫を見せてくれ」
「くっそ!味方はいねぇのか!」
「名前は?決めてるの?」
「決めてねぇ!「決めてる」何で言うんだ!」
「え?まだシてないのに決めてんの?」
「由良が一番ヤル気じゃん...」
「気が早すぎるだろ」
「なんて名前?」
「...あきのの、あき...と、...ゆらの...ら...で、...あきら...」
「ふぅ〜〜!秋良か!良いねぇ!!かっこいいじゃ〜ん」
「二人の名前から取るタイプね」
「私たちもそうすれば良かったわねぇ」
「この話はもう終わりだぁーーー!」
由良は秋乃を連れて外へ逃げた。
取り残されたみんなは後を追うことなく、その場に留まった。
「ったく、世話の焼ける」
「あんな取り乱した由良くん見るの初めて」
「ま、これで何もしなかったらあの子を玉無しって呼びましょう」
「えげつないっすね、久子さん...」
由良は秋乃を海に連れて行って夜の砂浜に来ていた。
「はぁ...超疲れた...」
「........?」
「ったく、秋乃が余計なことばっか言うから」
「........」
(まぁおかげで決心着いたけど...)
由良は砂浜に座り込んだ。
秋乃はその由良の足と足の間に座った。秋乃のいつもの特等席だ。
「秋乃、改めてだけど...」
「........?」
「結婚してくれてありがと...」
「........(コクリ)」
「二人で色んな所行って、色んな物見ような」
「........(コクリ)」
すると、由良と同じ方向を向いていた秋乃が、由良と向かい合わせに座って、キスをした。
そして、耳元で小さく何かを呟いた。
由良はその言葉に微笑んで、頷いた。
「俺もだよ」
「........(コクリ)」
二人はおでことおでこを合わせながら笑い合った。
これにて『あいしてる』はお終いです
。
短かったですね。
私なりの引き際だと感じたので、グダグダと続けて、書く気を無くすよりは、二人の結婚という晴れ舞台を書いて終わりたいと思いました。
最後に私の我儘に付き合っていただき、ありがとうございました。




