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あいしてる  作者: 粥
25/28

25話

朝、いつもの様に秋乃が起きて来ると、リビングには雅彦しかいなかった。

雅彦はキッチンで朝ごはんを作っていた。


「あ、おはよう秋乃」

「........(コクリ)。........?」

「ああ...、久子の奴風邪引いちまってな...。今日は店はやらないでって言ってたぞ」

「........」

「まぁ、風邪くらい誰でも...秋乃?移るから久子には会いに行かない方が...行ってしまった」


秋乃は久子の部屋に行った。

久子は辛そうにベッドに横になっていて、部屋に入って来た秋乃に気付いた。


「あ、秋乃ちゃん?ダメよ入って来ちゃ。風邪が移っちゃう」

「........(フリフリ)」

「あと、お店は今日開けなくて大丈夫よ。一日くらい休んでも...」

「........(フリフリ)」

「やる気があるのは素晴らしいけど...」

「...や、やる...。あきの...がんばる...」

「秋乃ちゃん...」


秋乃は真っ直ぐ久子の目を見ている。

久子はどうしようかと迷っていると、


「じゃあ、俺と一緒に店を開けりゃいい」

「........!」

「っ!由良...」


起きて部屋から出て来た由良が、雅彦から事情を聞いて提案した。

確かに由良なら店の回し方も分かるし、秋乃のフォローも出来る。教室だけ開かなければ大丈夫だ。幸いにも、今日はガラス教室の予約は入っていないので、どうにか出来そうだ。


「由良がいれば安心ね...。じゃあ、お願いするわ」

「おっけ、じゃあ早く飯食って店開けんぞ秋乃」

「........(コクリ)」

「あ、秋乃ちゃん。ちょっと待って、一言だけ」

「........?」


久子は秋乃を呼び止めて、言いたい事を一言だけ言った。


「いつか、またこんな状況になった時、秋乃ちゃんに任せられる様に、早くなってね?」

「........(コクリ)」


久子なりに、信用していないのではなかった。期待している、だが実行出来るのは今では無い。久子なりの決断だった。

秋乃はそんな久子の思いをしっかり受け止めて、いつも以上にやる気が起きた。


朝ごはんを食べたあと、由良と一緒に掃除をしてから、店を開けた。


「足りないのは...無いな」

「........」

「客来るまで待機だな」


由良と秋乃は二人でもって店で待っていると、お客が入って来た。


「いらっしゃいませ」

「........(ペコリ)」


入って来たのは若い女性二人組で、由良よりも年は下の様。

二人は由良を見た瞬間に少しニヤけて、ボソボソ小さい声で喋っている。

きっと由良がかっこいいという事を話しているのだろう。

そんな二人に興味も無い由良は一人で作業をして、秋乃はそんな由良と女性二人組をチラチラ見ていた。


すると、女性二人組が由良の元へ歩いて、おすすめなど、どうやって作っているのかなどを聞いてコンタクトを図った。


由良はいたって普通に説明をした。が、その顔は愛想笑いの一つもしない。秋乃には見せるあの優しい表情も、今では仏頂面で口角は1ミクロンも上がらない。


そんな事を気にせずに女性客はずっと楽しそうにペラペラ喋っていてうるさいので、由良は逃げる様に裏に作業をしに行った。


女性客は満足して、商品を買って帰って行った。

その後うんざりした顔で由良が裏から戻って来た。


「帰ったか...」

「........(コクリ)」

「ちっ、だから店は嫌なんだ...」

「........(シュン)」


秋乃は自分のせいで由良が工房ではなく店に出る事になってしまったので、責任を感じて、由良のその言葉に落ち込んだ。

由良はそれに気付いて慌ててフォローをした。


「いやっ!元はと言えばお袋が風邪引いたのが悪りぃから!別に秋乃と仕事すんのも嫌じゃねぇから!」

「........?」

「ほんと!」


秋乃はそれなら良かったと思ったのか、落ち込むのをやめた。



時間も大分経って、そろそろ閉店の時間になったところで、一人の男性客が入って来た。

男性は由良と同い年くらいで、なかなかカッコいい顔をしている。性格も真面目そうで、仕事も出来そう。

秋乃と由良を見た時に愛想笑いもしてきた。


無愛想で仏頂面でガラス大好きで、良い所は家族には優しい所とイケメンってだけの由良とは違うタイプだ。


男性はゆっくりガラス細工達を見て、気に入った商品をレジに持ってきた。

由良は閉店の準備で裏に行ってしまい、秋乃と男性二人きりになってしまった。


「........」

「あの人は、君の彼氏さんかな?」

「........?」

「いや、そう見えたんだ。違うのかな?」

「........(コクリ)」

「そっか、なら...」


その男性は商品を包んでいた秋乃の手を取って微笑んだ。

急に手を掴まれ驚く秋乃に、男性は構わず続けた。


「君に一目惚れをしてしまった。良ければ僕と交際してくれないか?」

「........(フリフリ)」

「おや、僕では器量不足かな?でも僕はこの近くの会社の社長だ。この歳にしては結構出来る男だと思う。顔も悪く無い。僕は君に相応しいと思うんだ」

「........」


秋乃はとりあえず握られて不快だった手を振り払った。


「君の綺麗な顔、艶やかな髪、そして奥ゆかしさのある無口な所。最高だ、僕とお付き合いしてくれないか?」

「........(フリフリ)」

「大丈夫、苦労は...っ!?」

「お客さん悪りぃけど、うちの秋乃は非売品だ」


突然由良がシャッターを閉める為の棒を男性の顔に向けた。

由良の顔には怒りの表情がむき出しだった。

男性は驚いていたがすぐに持ち直し、由良を見返す。


「僕は彼女が欲しいんだ。買いたいと言ってるわけじゃない」

「どっちにしろ、秋乃はやらねぇって言ってんだ」

「君と交際はしていないと言っているが?」

「だけどこいつは俺の家族だ」

「妹さんかな?シスコンは引いてしまうな...」

「ああ゛!?」

「........!」


由良の怒りの沸点に到達したのか、大きい声で威圧すると、秋乃がビクッと体を震わせた。


「ほら、君が野蛮だから彼女が驚いてしまった」

「秋乃...ごめん」

「........(フリフリ)」


秋乃は大丈夫と首を振るが、由良は秋乃を初めて怖がらせてしまったことがショックで、男性に向けていた棒を下ろした。


「さて、茶番は終いにして...。秋乃さん?と言うのですか?名前は。秋乃さん、僕とお付き合いをして下さい。こんなひっそりとした寂しいお店では無く、社長である僕を家で支えて頂きたいのですが?」

「........」


秋乃はさっきまですぐに首を横に振って断っていた誘いを、今度は男性の目を真っ直ぐ見てから、由良の元へ向かった。


由良は秋乃が何処かへ行ってしまいそうで怖かった。と、同時にそれも仕方ないと考えていた。


だが秋乃は由良に抱き着いて、抱き着きながら男性を見た。


「...ゆらが、いい」

「っ!」

「ふむ...」


秋乃は真剣な顔で男性にそう言うと、次は由良の顔を見た。由良は意外だった展開に驚いて、秋乃を見つめていたので目が合った。

すると恥ずかしそうに顔を赤らめて、由良の胸にグリグリと顔を埋めた。


「良いのですか?そんな野蛮で、仏頂面の彼で」

「...きらい」


秋乃は話しかけて来た男性にそう言うと、由良の背中に隠れた。

もう顔も見たく無いし口も聞きたく無いのだろう。


「んじゃ、閉店で〜す」


由良は男性を店から追い出して、店を閉めた。



仕事を終えた由良は今日は疲れたのでベッドで横になって休んでいると、秋乃が部屋にやって来た。


「........」

「おう、秋乃。いらっしゃい」


秋乃は由良の元へ小走りで走って来て、由良の足に乗って、向かい合わせで抱き着いた。


「どした?」

「........」

「嫌だった?あいつ」

「........(コクコク)」

「うん、俺もあいつ嫌だ。秋乃が取られそうだったから」

「........」


秋乃は由良のおでこに自分のおでこを合わせた。

でも目をちゃんと合わせてくれる。


「...あきのは...どこにも、いかない...よ...?」

「...ほんと?」

「........(コクリ)」

「ん、じゃあ、どこにも行かないで。...俺の近くにいてくれる?」

「...うん」


秋乃はそう言うと、由良の頰にそっとキスをした。

どこで覚えたのか気になったが、何故だかとても嬉しく思った。

それと同時に、胸が苦しくなって、秋乃にもっと触れたいと感じた。

だから秋乃をギュッと抱きしめた。


「なんであいつの誘いを断ったの?」

「........?」

「いや...なんか気になって...。別に言いたくないなら良いんだけど」

「........」


秋乃は頰を膨らませて、不機嫌そうな顔をした。

ほとんど無表情の秋乃がこんな顔をするのは珍しかった。


「...あのひと...ゆら...の、わるくち...ゆった...。だから、あのひと...きらい...」

「俺の悪口言っただけで、あんな金持ちの誘いを断ったのか?」

「........?...あと、あと...!...ゆらの...ほうが、あきの...すき...!」


秋乃は由良に少し恥ずかしそうにそう言った。

由良は、一度秋乃を体から離して秋乃と喋っていたが、もう一度抱きしめたくなったのでギュッと抱きしめた。

秋乃も嬉しそうに抱き返して来た。


(“コレ„の名前を、俺は知っている。知っているけど、認めたくない...。認めたらお前が、いなくなりそうだから...)


由良は秋乃を抱きしめながら、そんな事を考えていた。

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