22話
「........(むふー!)」
秋乃が由良の部屋に来て自慢げに新品のスマートフォンを見せて来た。
由良はどういう反応をすればいいのか分からなかったが、とりあえず買ってもらえて良かったねという旨だけ伝えた。
「あ...うん、良かった...ね?」
「........(コクコク)」
「買ってもらったんだ?」
「........(コクリ)」
秋乃は先ほどまで、久子と一緒に携帯ショップにスマートフォンを買いに行っていた。
『秋乃ちゃん最近お仕事頑張ってくれてるから、ご褒美に携帯を買ってあげる!!』
と、久子が言っていたので買いに行った。
『ご褒美』というのは建前で、先日ガラの悪い男どもに絡まれた話をした瞬間に携帯ショップのカタログを取りに行ったり、パソコンで調べ始めたので、本音は秋乃に何かあった時のための連絡手段だ。
そんな事も知らずに秋乃は、帰って来て早々に由良の元に向かい、買って貰った事を自慢しに来たらしい。
「........」
「あー...いつまで見せてるつもり?」
「........」
秋乃は今の所携帯を目の前から降ろそうとしない。
何故なのだろうと思っていたら、秋乃は携帯の電源を付け始めた。
慣れない手つきで携帯を操作して、自分の携帯の電話番号とメールアドレスが画面に映っていて、ようやく由良は秋乃の気持ちを理解した。
「ああ、交換したいってことか」
「........(コクリ)」
「いいよ」
由良は携帯の赤外線機能を使って交換しようとしたが、秋乃はやり方が分からないらしくモタモタしている。
由良はしょうがなく自分でやろうとしたが、秋乃は自分でやりたいのかそれを拒否した。
見守りながら見ていると、ようやく出来たのか嬉しそうに由良に携帯を差し出した。
由良も赤外線機能でアドレスを交換すると、秋乃は早速メールを送って来た。
『かってもらった』
「うん、だろうな」
秋乃が送って来た言葉に、普通に喋って応えた由良。
だが秋乃はメールで返した欲しかったらしく不満そうに由良を叩いた。
「いや、てかこんな近くにいるし、喋らなくても基本お前が考えてる事くらい分かるし...」
『そうだけど...でもつかってみたかった』
「じゃあ、もう喋ってはくれないんだな...」
「........?」
「俺たちはお前が喋ってくれるのを楽しみにしてたけど、もうメールすればお前の気持ちは分かるもんな...」
「........!」
由良が意地悪でそう言うと、秋乃は先ほどまで大事そうにしていた携帯を放って由良に抱き着いた。
そして泣いているのか震えながら謝って来た。
「...ごめ...なさい...」
「...ううん、俺もちょっと意地悪言った。ごめんな?」
「........(フリフリ)」
「だって話したかったんだ。こんな機械に頼るんじゃなくて、お前の気持ちを、お前の声で聞きたかったんだ。ごめん」
「...がんば...る...!」
「うん、待ってる」
由良は抱き返しながら、秋乃の頭をポンポンと優しく撫でた。
秋乃は気持ちよさそうにしてその手を受け入れた。
そろそろ秋乃は眠る時間になったのだが、秋乃はまだ由良の部屋から出ようとしなかった。
このまま部屋で寝てもらっても構わなかったのだが、やっぱり部屋に帰って貰わなきゃと思い、由良は眠そうな秋乃を帰そうと促した。
「秋乃、そろそろ部屋戻って寝な」
「........(フリフリ)」
「寝落ち寸前じゃねぇか...。秋乃」
「........っ!........(ギュッ)」
寝落ちしそうな秋乃は、由良の声にいちいち起きて由良にしがみ付いてまだイケるという意思を伝える。
呼び掛けなければ完全に寝落ちするくせに。
「ったく、しゃあねぇなぁ」
由良は秋乃をお姫様抱っこして部屋まで運んであげた。
ベッドに寝かして、部屋から出ようとすると、秋乃が由良の名前を呼んだ。
「...ゆら...」
「ん?」
「........」
秋乃は由良に手を伸ばして来た。
由良はしょうがなく秋乃のその手を握って、ベッドの横に座ってあげた。
秋乃が寝るまで一緒にいてあげることにした様だ。
「...ゆら」
「ん」
「...ゆら?」
「ん」
「...いっしょ...いて?」
「一緒いるよ」
「...うん」
秋乃は嬉しそうに由良の手を口元に持って来て、大事に両手で由良の手を握り締める。
微かに息が当たって、くすぐったいが、我慢してあげる。
(細くて、小さい...こんなにも、弱々しい)
由良は秋乃の手を握ってあげる。
いつもは冷たい手が、寝る時だけは暖かくなる。小さい子供のようで、少し笑ってしまう。
しばらくすると、秋乃は本当に眠ってしまった。
スルリと握られていた手を離すが、起きては来なかった。
「おやすみ...秋乃」
そう言って秋乃の頭にそっとキスをしてあげた。
部屋を出る時に、由良が買ってあげた熊のぬいぐるみが目に入った。
大事そうに丁寧に置かれてて、そんな良い物でも無いんだけどな、とか思いながら由良は部屋を出た。




