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あいしてる  作者: 粥
21/28

21話

「じゃあ今日一日お願いね」

「りょーかい」


由良は久子に頼まれて秋乃の部屋に向かった。

秋乃は部屋で小さい頃由良が持っていた絵本を借りて読んでいる所だった。


「........?」

「秋乃、出掛けようぜ」

「........(コクリ)」

「準備出来たらリビング来いよ」

「........」

「いや、流石にショーパンに俺のパーカーで街はあかんて」


秋乃は仕方なく着替え始めた。

由良はリビングで待っていると、秋乃が着替えて降りてきた。


黒のストッキングに灰色のワンピース、その上にデニムジャケットというカジュアルな格好でやってきた。


「ん、じゃあ行くぞ」

「........(コクリ)」

「行ってくる」

「行ってらっしゃい」


久子に見送られて、二人は車でこの前行った街へと向かった。

だが由良は街へ繋がる道を走らず、別の道を通っていた。あの日から何度か行ったので、若干道を覚えていた秋乃は道が違うことに気付いた。


「........?」

「ああ、ちょっと行くとこがあんだ」


由良は寄り道で純と伊織が経営している喫茶店にやって来た。


「ういっす」

「お、いらっしゃい!二人とも」

「........(ペコリ)」

「伊織いるか?」

「うん、奥にいるよ」


由良と秋乃は店の奥の部屋に入って、伊織に会いに行った。

店の奥には伊織が立っていて、目の前には椅子が一つ置いてあった。


「伊織、来たぞ」

「あ、来た来た。おいで〜」


伊織は秋乃を見て手招きしている。秋乃は戸惑っていたが、由良に促されて伊織の元へ進んで、椅子に座らされた。


「あと頼む」

「はいよ〜」


由良はそう言って部屋から出ようとしたが、秋乃が不安だったのか由良の服を掴んで離さなかった。


「髪いじって貰うだけだから、この前の団子ヘア気に入ってたろ?」

「........(コクリ)」

「俺はその間店でコーヒー飲んでっから、終わったらすぐ戻ってくりゃ良いだろ?」

「........(コクリ)」


由良は秋乃の頭を撫でてあげてから店の方へ戻っていった。

そして伊織は早速秋乃の髪を可愛くしにかかった。


「これからどっか行くんでしょ?どこ行くの?街?」

「........(コクリ)」

「ふふふっ、じゃあ目一杯可愛くしないとね?」

「........?」

「だって由良くんとデートなんでしょ?」

「........?」

「あれ?違うのかな?」


秋乃はデートという言葉が分からなかっただけなのだが。伊織にはデートなのか分からないという意味で首を傾げた様に捕らえられてしまった。

だからと言って訂正はしないのだが。


しばらくして秋乃のゆるふわのお団子ヘアが完成した。

お団子の部分は下の方へ、フワッとした髪と前髪は触覚ヘアで七対三に分けたタイプだった。

伊織はヘアスタイルが得意なのかもしれない、なかなか上手くできていた。


「よしっ!出来た!早速由良くんのところに...ってもう行っちゃった」


秋乃は伊織に頭を下げてお礼をしてから、すぐに部屋から出て由良のところへ行ってしまった。

出て来た秋乃に気付いて、カウンターでコーヒーを飲んでいた由良は秋乃の方を向いた。


「........」

「お〜可愛いじゃん」

「........(コクリ)」


頭を撫でようとしたが形が崩れてしまいそうだったので、秋乃の頰を手のひらでワシャワシャと撫でた。

秋乃は嬉しそうにしている。


「んじゃ、そろそろ行くか。伊織サンキュな」

「ううん、またいつでも頼まれるよ〜」

「たまには店で飯食いに来いよ」

「おう、じゃあな」


由良が先に店のドアを開けて出て、その後秋乃が通るまで開けていたのだが、秋乃は出て来ずに伊織の元へ小走りで向かった。

伊織はまだ何か用があるのかと思って見ていた。


だが秋乃は勢いそのまま伊織に抱き着いた。


「おぉ?」

「........(ギューっ)」

(改めて思ったけど、秋乃ちゃん可愛い過ぎる...)


秋乃は満足して店から出た。

秋乃なりの感謝の伝え方なのか知らないが、誰彼構わず抱き着きそうだったから今度やめさせようと由良は思った。


二人は車で今度こそ街に来た。


「時間余ったな...」

「........?」

「ううん、何でもない。ちょっとぶらぶらするか」

「........(コクリ)」


秋乃と由良は二人で街中を歩いて由良の目的まで時間を潰すことにした。

秋乃は相変わらず人混みを歩くのが下手くそだったので、手を繋いで歩いたわけだが、やはり視線は集めてしまった。

秋乃は他人に見られることに慣れておらずいちいち気にしてしまっていた。このままだと秋乃は疲れてしまいそうだったので、どこかの店に入る事にした。


「........」

「秋乃、店入るぞ」

「........(コクリ)」


由良はどこか静かな店を探していると、人通りの多い道から少し外れたところに、雑貨屋があったのでそこに入った。


「いらっしゃいませ」


店員は三十代くらいのメガネで黒髪のいかにもな店員がいた。


「好きなもの見てていいよ。欲しいものあったら、...まぁちょっと考えてやる」

「........(コクリ)」


秋乃は店の中を歩きながら、気になるものを手にとっては不思議そうに見て回った。

由良もそんな感じで見ていると、一つのオルゴールを見つけた。

何となく手にとって流すと、知ってる曲で、懐かしく思った。


「〜〜♪〜〜〜♪」

(懐かしい曲だ...)


柔らかく和むオルゴールの音色が静かな店内に響く。

満足して音楽を止めて、また別の商品を見に行くと、秋乃が絵本を持ってやって来た。


「........」

「ん?その絵本気に入った?」

「........(コクコク)」

「ん、じゃあ買ってやる」


秋乃は由良に絵本を渡してレジへと向かう。

その途中、秋乃が足を止めてある物を見ていた。


「秋乃?どした?」

「........」


秋乃は全長35cmくらいの熊のぬいぐるみをジッと見つめていた。

秋乃の顔を覗いてみると、欲しそうな目をしていた。


「欲しいの?」

「........(フリフリ)」

「欲しくないの?」

「........」


秋乃はジッと名残惜しそうに見ているが、何でもない様に先に店から出て行った。


「........」


由良はそんな秋乃の後ろ姿を見ながら会計をした。


店から出てくると、由良は目的の場所に行く予定の時間になっていた。


「秋乃、後もう一軒付き合ってくれ」

「........(コクリ)」


陽はだいぶ傾いて来ていて、疲れた顔で家に帰って行くサラリーマンが多くなって来た。


そんな中由良と秋乃は、久子の時に買った店とは違うケーキ屋に来た。


「........?」

「お袋に頼んでたケーキ受け取りに行って来てって言われててさ、元々その為に街まで来たんだけどね」

「........」

「じゃあ入ろう」


由良は店員さんに話しかけてケーキを受け取りに来たことを伝えた。


ついでに店員さんは由良の顔を見て顔を赤くしていたので、秋乃は面白くなかったのか由良の腕にしがみ付いた。

でも睨む度胸はなかったので由良の腕に顔を埋めて顔を見せない様にした。


由良は秋乃の行動の意味も分からず淡々と事を済まし秋乃を連れて店から出た。


「さて、じゃあ帰るか」

「........(コクリ)」


家に帰って秋乃が先にリビングに入ると、パンっとクラッカーが鳴る音と中に入ってるテープが秋乃の頭に乗っかった。

音にびっくりして呆然と立ち尽くしていると、鳴らした久子と雅彦が口を揃えて、


「「秋乃ちゃん誕生日おめでと〜〜!!」」

「........?」


秋乃はまだ何が起こっているか分からないといった顔をしている。

そんな秋乃に由良が説明をしてあげた。


「秋乃がうちに来て今日でちょうど一年が経ったんだ。だから今日を秋乃の誕生日としてお祝いをしようって、お袋が」

「そう!おめでと〜!!」


秋乃のサプライズ誕生日パーティーをするために、今日は半日由良に秋乃を街に連れて行かせた。

その隙に久子と雅彦が秋乃のために料理やらを準備するという計画だったらしい。


「あと、これ。誕生日プレゼント」


由良は秋乃がさっき選んだ絵本と、秋乃が名残惜しそうに見ていたあの熊のぬいぐるみを渡した。


「........!」

「誕生日、だしな?」


秋乃は熊のぬいぐるみを嬉しそうに受け取ると、由良をギュッと抱きしめた。


「...あ、...あり...がと...!」

「...おぅ」


由良は恥ずかしそうに抱き着いている秋乃の背中をポンポンと叩いた。


秋乃はその次に久子と雅彦をその小さい体で二人いっぺんに抱きしめた。


「...おか...さん...と、...おと...さん、も...。...ありが...と...!」

「うん...!」

「ああ」


初めて秋乃にお母さん、お父さんと呼ばれて二人はとても嬉しそうに抱き返した。


そして由良は秋乃に、感謝の言葉を告げた。


「秋乃、生まれて来てくれてありがとう」

「........!...うっ...!ぁぅ...ひぐっ...っ...!」


その言葉は、秋乃にとって、最も言われたかった言葉だった。


暖かく、和やかで、楽しくて、何にも代え難いもの。

戸塚家に来て良かった、久子と雅彦と、由良で良かった。

自分を引き取ってくれた人が、この人たちで良かったと、秋乃は心からそう思えた。


「...あきの、...さんにん...が、...だい...すき...!!あきの...ここきて...よか...った...!さ、さんにんで...よかった...!」


秋乃は泣きながら、辿々しくも頑張って三人にそう告げた。

三人は嬉しそうに笑う。秋乃はその笑顔が好きだった。


久子と雅彦と由良に貰ったものの名前を、秋乃は知っていた。


(...これが、...愛...なんだ...)


秋乃にとって愛というものは、とてもとても暖かいものだった。

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