2話
目覚まし時計が部屋の中で鳴り響き、由良はベッドから起き上がった。
まだ朝日も出たばかりの時刻、由良は一人家を出た。
下がスウェットで、上が半袖のTシャツのまま、歩いて行ける範囲にある海まで朝の散歩を始める。
しばらく歩いて海に着いた。由良の住む町は観光地としても有名で、海と山がどちらもあるので、夏はキャンプや海水浴に来る観光客がたくさんいる。
海は凪いて、砂浜を濡らしている。
砂浜を歩きながら朝日を浴びる由良、その姿はどこぞのアーティストのPVに出て来る人の様。(格好が格好じゃなければ)
オンショアの風も浴びながら、由良は黄昏る。
(帰るか...)
由良は散歩をやめて家へと戻った。
家では既に久子と雅彦が起きていて、久子は朝ごはんを作っている最中だった。雅彦は朝のニュースを見ていた。
「おかえり」
「ん」
由良も雅彦と一緒に朝ご飯ができるまで雅彦とテレビを見る。
テレビでニュースが報道しているのは孤児院の施設が潰れたというニュースだった。
「この施設にいた子供達って、どうなんだ?」
「里親が見つかるまで、別の施設に預けられるだろ。まぁ恐らくどこもいっぱいで、てんやわんやするだろうが」
「ふーん...」
そんな話をしていると、久子が朝ごはんをテーブルに並べに来たので、由良もそれを手伝った。
「私娘が欲しいわぁ」
「まだ子供が欲しいのか?」
「あら、息子がいたら娘が欲しくなるものでしょ?」
「知らんがな」
雅彦は溜息を吐いた。
「父親ってのは、娘を可愛がるもんじゃないのか?」
「だから知らん。俺の子供は由良だけだからな」
三人は朝ごはんを食べた後、各々の仕事場に向かった。と言っても、三人の仕事場の間に大した距離があるわけでは無い。
作業を始めて、由良は久子に頼まれていたガラスのピアスを作り始めた。
透明のガラスに青の着色料を加えて、雫をイメージさせた。
「親父」
由良は雅彦を呼んで具合を見てもらった。
雅彦は頷いてOKを出した。
まだ熱い作品を冷やして、冷めたら久子に渡すことにした。
昼休憩、由良の携帯が着信音を響かせた。電話の画面を見ると、友人の純からだった。
「もしもし」
『あ、由良?純だけどさ、今日の夜暇?』
「まぁそれなりに」
『んじゃ、うち来いや。伊織も呼んでっから、久しぶりに飲もう』
「分かった。仕事終わったらそっち行く」
由良は電話を切って昼食を食べに家へと戻った。
すると、家では久子が電話をしていた。
「はい、はい、大丈夫ですぅ〜。はい、ではまた、はい」
電話を切ると、久子は電話を見守っていた由良に気付いた。
「客?」
「ううん、違うよ?」
「あそ、んなことより今日夕飯いらないから。純のとこ行って来る」
「はいはーい、さてとお昼にしましょ〜今日は〜?パスタでーす!」
「いただきます」
由良は久子が持って来たパスタを食べ始めた。
久子のご飯はすごく美味しい。だがそれは絶対に言わない、恥ずかしいから。
さっさと昼食を食べ終えて、すぐに工房へ戻る。そしてまたガラス細工作り。
由良の一日はほとんどこんな感じで、予定がなければずっと工房に篭ってばかりだ。なので両親、主に久子が夏にはキャンプ、冬にはウィンタースポーツ、春と秋も色んな所へ由良を連れて行ってくれたりする。
「由良、純のところに行くんだろ?もう上がっていいぞ」
「あ、もうこんな時間か...。じゃあ、先上がるわ」
「おう」
由良はいつもより少し早く作業を終えて、瀬尾宅に向かった。
純と伊織の家は海側なので、少し歩くことになる。ので、自転車で向かう。
自転車を走らせること15分、純と伊織の家に着いた。
一丁前に一軒家を建てたらしく、新築の家はまだ新しさを感じさせる。
インターホンを押して、中にいる二人を呼び出す。
「はぁい〜?あー由良くん」
「伊織は出て来るなよ...」
「見た目こんなだけど、慣れちゃえばそんな辛く無いよ?」
「それでも、周りは心配すんだよ」
由良は伊織を心配して言った。
伊織は予定日が二ヶ月後の赤ちゃんをお腹に宿していて、伊織の周りの人間は、伊織に無理させたくないのだ。
「ふふふ、ありがとね」
「純は?」
「伊織!お前は座ってろって...あ!由良!来たな」
純がキッチンからやって来て、由良を招き入れた。
リビングのソファに由良と伊織は座って話しながら、純が作るご飯が出来上がるのを待った。
「仕事、どう?上手くいってる?」
「悪くはない」
「そ、良かった」
「そっちは?」
「由良くんと同じくらいだよ」
「あそ」
由良は興味無さげにそう返した。恐らく心配なんてしてなかったのだろう。二人は経営者向きだったから。
それから、三人で何気ない会話をしながら夕食を楽しんだ後、由良は家に帰った。泊まって行けとごねられたが、仕事があるとその誘いを断った。