15話
温泉から帰って来て二、三日が経った頃、秋乃の髪を切るという約束を由良が思い出したので、秋乃の部屋にやって来た。
「秋乃、髪切る約束してたな。切ろう」
「........(コクリ)」
道具は既に揃えているので、まず切りやすくする為に髪を濡らす、そしてその後切るという流れ。
さっさと髪を濡らした後、秋乃の部屋に大きい鏡を置いて髪を切り始めた。
「........」
「どんくらいの長さが良いとかあるか?」
「........(フリフリ)」
「だと思ったんで、ちょっと携帯とかで髪型調べてみたんだけど」
「........」
由良は携帯の画面を秋乃に見せてみた。
秋乃は色々な髪型をした女性たちが映った画面を覗き込むが、どんな髪型が良いのか分からなかった。
すると、秋乃の部屋に久子が入って来た。
「秋乃ちゃ〜...ん?何してるの?」
「髪切ってやってる。ねぇどんな髪型が良いか分かんないみたいなんだわ。どれが似合うかな?」
「ん〜...どれが似合うと、由良は思う?」
「え?俺が決めんの?」
久子は由良に秋乃の髪型を選ばせて来た。
正直由良は今の秋乃のシンプルなお下げの髪型を気に入っていた。
ただ単に長過ぎる為に切ったら良いという提案をしただけで、特にこれが良いんじゃないか?というリクエストは無かった。
「別に、今のままでも...」
「じゃあ、ただ短くするだけにしなさい。てかぶっちゃけそれしか出来ないでしょ?あんた」
「まぁ...。じゃあそうする」
「切り終わったら見せに来てね〜」
「........(コクリ)」
由良は結果ただ短くするだけにした。
専用のハサミで切っていく。
髪をハサミで切る音が、秋乃の静かな部屋に響いていく。秋乃はもちろん、由良も切っているので黙ってしまう。
そして後ろはもう十分として、前髪をどうするかを考えた。
「どうしよっかなぁ前髪」
「........?」
「うっし、完全に俺の趣味になるけどコレにしよう」
由良はそう言って秋乃に携帯の画面を見せた。
秋乃は別に構わないと言った顔で了解してくれたので、由良は早速前髪を切っていった。
眉下まで切って、触覚ヘアを作ってみた。結果、割と上手くいったので、なかなか満足いっている。
「後は髪をちょい緩く結んで...完成!」
「........」
「うん、我ながらよく出来ていると思う。可愛い」
「........」
秋乃は由良に可愛いと言われて、少し照れくさそうだった。
久子に見せに行くと、携帯のカメラで写真を撮って来た。
「かぁわいい〜!!ちょっと何かポーズ取ってポーズ!」
「........?」
「あ〜もうそのおとぼけ顔でもいいわぁ〜!可愛すぎ!!うちの子可愛い!!」
「........(モジモジ)」
秋乃は久子に褒めちぎられまた照れ臭そうにした。
由良は秋乃が写真撮影をされている間に部屋に戻った。
「眠...」
割と神経を使ったので疲れてしまったので、ベッドに横になった。
もう少しで寝落ちそうになったところに、誰かがベッドに入って来た。
「ん...あきの...?」
「........(コクリ)」
起きるとまた秋乃が由良の寝顔を覗き込んでいた。
寝起きの緩み切った声で、由良は秋乃に問いただした。
「お前...何でいつも俺が寝てる時俺の部屋に来ては、俺の寝顔を覗いてんだ?」
「........」
聞いたところで答えてくれるはずも無く、由良もただジッと見てくる秋乃を見つめ返す。
「........」
「........?」
由良は秋乃の首に手を回して引き寄せて抱き締めた。
何故抱き締めたのか、そして何故抱き締められたのか分からず、お互い驚いた。
だが、
(何だか、落ち着く...)
由良は腕の中に秋乃から伝わる温もりを感じながら目を閉じた。
秋乃も、優しく抱き締められて満更でもなさそうだった。特に拒否するわけでもない。むしろ、由良の服を掴んで来たくらいだ。
(つか、秋乃が来る時って大抵飯の時間の筈だけど...)
「でもなんか、動きたくねぇな...」
「........?」
「なんでもねぇ」
由良は一層強く秋乃を抱き締めた。
秋乃はそんな由良を腕の中からジッと見つめてくる。
そして、久し振りに秋乃が口を開いた。
「........ゆら...」
「...!秋乃...」
「........」
秋乃は由良の名前を呼んだら、下を向き、黙ってしまった。
(何だったんだ?)
よく分からないモヤモヤ感が、由良の中に溜まっただけだった。




