14話
今日は仕事は休みで、戸塚家は温泉に旅行しにいく日で、荷物を車に積んで雅彦の運転で家を出た。
「レッツゴー!」
「もう行ってる」
「気分で言っただけよ」
由良と秋乃は後部座席に座り、助手席には久子が座った。
昼前に出たのだが、お昼ご飯をどうしようかという話になった。
「パーキングエリアとかで食う?」
「それか今下で食べてから高速乗る?」
「お腹空いてる人〜?」
久子はみんなに聞いてみたが、誰一人手を挙げなかった。
「じゃあ高速乗ってからで良い?」
「良いんじゃね?」
車は高速道路をしばらく走った。
秋乃はずっと窓の外の景色を見ていたので、何か面白いものでもあるのかと気になった由良が、秋乃に話しかけた。
「何を夢中で見てんだ?」
「........」
「何もねぇじゃん」
秋乃の視線の先には壁があって、外の景色は良いと言えるものではなかった。
「........」
「楽しいのか?」
「........(コクリ)」
「へぇ...」
秋乃はまた窓の外を見始める。
秋乃は高速道路も初めてなのだろう。見るもの全てが、初めてで楽しそうだったが、由良からしたら何だか可哀想に思えた。
(ま、もっと色んなもの見せるけどな...)
由良は心の中でそう誓った。
しばらく運転を続けていると、大きいサービスエリアに入った。
「腹減ったし飯食うぞ」
「運転お疲れ様〜次私運転しようか?」
「いや、俺がするよ。親父は助手席で寝てろよ」
「寝はしないが、運転は任せた」
そんな会話をしつつサービスエリアに入っていくと、中はまぁまぁの人がいて逸れてしまいそうだった。
秋乃は瞬時にそれを察したのか、由良の手を握った。由良も絶対握っておこうと思ったので驚く事もなく握り返した。
「すごい人ね」
「昼時だしな」
「じゃなくてもここはすげぇよいつも」
「........」
「私たちお昼買ってくるから、席取っておいて」
「分かった、行くぞ秋乃」
「........(コクリ)」
秋乃は由良に手を引かれながら席を探した。
秋乃はすぐに四人座れる席を見つけて、由良に教えた。
「サンキュ」
「........(コクリ)」
座って二人を待っていると、由良は周りの視線に気付いた。
秋乃と由良は両者ともに顔が良すぎるので、目立つのだ。
街で手を繋いで歩いていた時も同じ様な目にあった。とりあえず早く久子たちに帰ってきてほしかった。
そんな視線に気付きもしない秋乃は周りをキョロキョロしていた。
初めての場所で、やはり落ち着かないのだろう。
「........(キョロキョロ)」
「落ち着け秋乃」
「........(コクリ)」
「お袋たちおせぇな」
しばらくすると、久子たちが帰ってきて、次は由良達が買いに行く番になった。
「蕎麦でも食うかな...」
「........」
「秋乃は?決ま...ってないみたいだな」
秋乃はいっぱいありすぎて何にすればいいか決められず迷っていた。
結果秋乃は由良と同じ蕎麦にすることにした。
「........」
「オムライスとかもあったじゃん、それにしないのか?」
「........(コクリ)」
「ふ〜ん」
四人はご飯を食べ終えて、また車で温泉に向かった。
温泉宿に着いて、四人はまず部屋に行って荷物を置くついでに休憩をした。
カーテンを開けると、山々が奥に見えて、下には綺麗な川が見える。
「綺麗ね〜」
「良いとこだ」
「さみぃなやっぱ、雪くらい降ってくれりゃ雪見温泉出来たのに...」
「........」
由良達は夕方ごろに宿にある温泉に入りに行った。のだが、ここで問題が起きた。
「じゃあまた後で」
「多分俺らの方が早く出るから鍵は持っとくから」
「はーい」
「........」
そう言って男達は男湯に、女達は女湯に分かれるのだが、秋乃は平然と由良と一緒に男湯に入っていった。
ギリギリ着替える場所の一歩手前で由良が気付いたので、惨事にならずに済んだ。
「待て待て待て待て。え?何でこっち来てんの?」
「........?」
秋乃は由良と一緒に入れると思って着いて来たのだが、由良に拒否されて頭の上に疑問符を浮かべていた。
そんな秋乃に由良は仕様がないので説明をした。
「良いか秋乃、ここじゃ俺とお前は一緒にお風呂に入れないんだわ」
「........?」
「えっと、ルールなのね?男は男湯って所に、女は女湯って各自用意されてる場所に入らにゃいかんのよ」
「........(フリフリ)」
「いや、やだって言われてもそれが決まりで、破っちゃいかんのよ。他のお客さんにも迷惑だから」
「........」
秋乃は由良の話を聞いて凄く落ち込んだ。もしかしたら今にも泣くかもしれない。
するとそこに、中々女湯に入ってこない秋乃を心配して戻って来た。
「秋乃ちゃん?あれ?由良?まだお風呂入ってないの?」
「何か俺と一緒に入れるかと思って男湯入って来そうになってたから止めてた」
「えぇ〜秋乃ちゃん大胆...」
「いやそういう事じゃねぇって」
口元を手で押さえてニヤニヤしながら言う久子に由良はツッコミを入れた。
「でもね秋乃ちゃん、ここじゃ由良と一緒には入れないのよ〜。ていうかお母さんびっくりよ?そんな由良の事好きになってくれてたなんて...。ていうかいつも一緒に入ってた?もしかして」
「そう言われてみると、ほぼ毎日一緒に...、って今はそんな事どうでもいいだろ」
「良くないわよ〜そのせいで今こうなってるんだからね〜?秋乃ちゃんはもう由良無しじゃ生きていけなくなってるのよ?」
「何で大袈裟に言う...」
「あーあ〜調教されちゃって可哀想に...」
「もっと言い方あったろ」
悩んでいると、久子が一つの案を出して来た。
「じゃあさ!混浴出来る場所を探してみましょうよ!」
「はぁ?」
「........?」
「あ、混浴っていうのはね?性別関係なく、一緒に入れるお風呂のことで、それが出来る温泉なら由良と一緒に入れるわよ?」
「........!」
秋乃は聞いた途端嬉しそうに由良の手を握った。
「いや、混浴っつったってここら辺にそんなんあんの?」
「あるわよきっと、鍵持ってるなら部屋で探して入って来なさいな。私とお父さんはゆっくり入ってるから、じゃバイバイ」
「あ、おい!...えぇ〜マジかよ」
「車は貸すわ」
「当たり前じゃ!」
久子はそのまま女湯の暖簾をくぐって行ってしまった。
しょうがないので秋乃と由良は部屋に戻って、混浴のできる温泉を探した。
すると何件かあってそのうちのどれかから選ぶことにした。
「水着...やっぱ必要なとこ多いな」
「........」
「俺ら水着持ってねぇしな〜。それに他の客来るのも何か嫌だしなぁ...」
「........(ギュッ)」
秋乃は由良の服の裾を強く掴んで、由良に申し訳ないといった顔をしてきた。
きっと、由良は普通に温泉を楽しみたかったのに、それを自分が壊してしまったという罪悪感からだろう。
由良は秋乃の頭を優しく撫でてフォローした。
「んな顔すんなよ、どうせなら楽しもう。秋乃と入れる風呂探して、楽しかったって思ってもらえるようにすっから」
「........(コクリ)」
すると、水着無しで入れる温泉を見つけた。
「しかもタオル着用で入っても良いって書いてある!うっしゃ!ちょっち遠いけど、ここにすっか」
「........(コクリ)」
「んじゃ行くか」
由良と秋乃は車に乗って、目的の温泉まで向かう。
予想していたより遅く着いてしまい、営業時間ギリギリか?と思いきや、23時までやってるらしく、全然余裕だった。
だが、おばちゃんが施設の入り口の暖簾を片付けようとしていた。
「あ、あの!ここって、23時までじゃないんですか?看板にそう書いて...」
「あれ?お客さんかいなぁ?あやぁ〜!珍しいなぁ、こんな辺鄙な所に来てくれたん?」
「え?」
「うちはもう近くに住んどる爺さん婆さんしか来んでなぁ?こんな若くて美男美女来ると思ってへんかったからもう店閉めよう思っててん」
「閉められるんですか...?じゃあまた今度に...」
「あーあ〜!ええでええで入ってき入ってきぃ!最後のお客さんやろから、店閉めたって事でお客さん入られへん様にしたるわぁ〜。混浴やろぉ?どうせ」
「あ...えと、一応...はい」
「あーかまへんかまへん!タオルとかいるか?シャンプー一応中にあるからな?」
「あ、どうもなんか...すみません」
由良と秋乃は元気なおばちゃん店主に連れられて中に入っていった。
中はどこにでもある銭湯の様な感じで趣を感じる。
混浴と書いてある暖簾をくぐると、着替え場所があった。
そこで二人とも裸になり、温泉に通ずるドアを開く。
ついでに由良はタオルを持っているが、秋乃は一切隠さず何も持たず温泉に入ろうとしている。
もう見慣れたので特に突っ込むこともなく、由良は秋乃を温泉まで連れていった。
中に入ると、3、4種類のお風呂と、奥に露天風呂と書かれたドアがあった。
「意外と...っていっちゃ悪いけど、デケェな」
「........(コクコク)」
秋乃も初めての大きいお風呂に興奮気味だった。
「好きなとこ入ってて良いぞ〜。貸切だから泳いでも良いぞ〜」
「........(コクリ)」
秋乃は一人でどこかのお風呂に入りにいったので、由良は寝転ってマッサージをしてくれるジェットバスに入って一日の疲れを癒した。
「あ〜...やべぇ〜寝れるわこりゃ...」
そんな独り言をずっと言ってると、寝転がってる由良の上から、秋乃が突っ込んで腹部を直撃した。
「ぐふっ!!??」
「〜〜〜〜!!!」
もう少しで、急所に当たっていたところだった。
由良は一瞬何が起こったのか分からず、誰もいないのに辺りを見渡した。
その後、何かに怯えた様に震えて抱きついている秋乃に何があったか説明を求めた。
「どうした急に?何か...とりあえず痛かったぞ...なん...痛ぁ...」
未だ痛みが引かない腰をさすりながら、秋乃に聞くと、秋乃は一つのお風呂を指差した。
そこには『電気風呂』と書かれた看板とそれを示すお風呂があった。
秋乃は電気が流れると知らずにそのお風呂に入ってびっくりして由良の元へ逃げて来たのだ。
「あ〜なるほどね。電気風呂入ってびっくりしちゃったわけだ」
「........(コクコク)」
「ったくちゃんと見ろって看板を。もれなく俺もびっくりしたわ。びっくりして逃げて来たお前にびっくりだわ。今度から逃げ方考えな?」
「........(ギュッ)」
「はぁ...露天風呂行こ?そこならビリビリしないから、な?」
「........?」
「ホントだってば」
「........」
由良は秋乃の手を引いて露天風呂のあるドアを開けた。
外は寒かったので、さっさとお風呂に入った。
山も見えるが、その山と山の間には海が見える。
静かで、空気が澄んでいて、周りには街灯も無いので空を見上げると星が輝いていた。
「すげぇな...」
「........(コクリ)」
「来て良かったな。...腰痛いけど」
「........」
しばらく入っていると、由良の隣に座って入っていた秋乃が、由良の足の間すっぽりと入って来た。
「どした?」
「........」
「背中さみぃの?」
「........(コクリ)」
湯船の深さは、由良の胸の辺りくらいしかなくて、秋乃も肩が出るくらいだった。お湯をかけていないと確かに寒い。
だから秋乃は由良の足の間に入って暖を取ろうとしたという事だ。
「寒いんならもう出るか?」
「........(フリフリ)」
「そか...。にしても、髪伸びて来たなぁ」
「........?」
由良は秋乃の髪を持ってそう言った。
戸塚家に来た当初、秋乃の髪は腰くらいあった。
だが、今はお尻が隠れるくらい長くなっていた。この前ドアに髪が挟まったのはみんな驚いた。
「家帰ったら、切りに行くか?お袋が行ってる美容室とかで」
「........(フリフリ)」
「嫌か?でもこのままじゃ邪魔っつーかあぶねぇだろ色々」
「........(ギュッ)」
秋乃は由良の腕を両手でギュッと握って、由良を見つめた。
秋乃は由良に切ってほしいみたいだ。
「俺が切んの?」
「........(コクリ)」
「いや、確かに自分で切ってるけど...失敗しても知らねぇぞ?」
「........(コクリ)」
秋乃は由良に大丈夫と頷いた。
由良は秋乃の頭をポンポンと撫でて、帰ったら髪を切ってあげるという約束をした。
「んじゃ、帰ったらな」
「........(コクリ)」
秋乃は由良と向かい合う体勢になってギュッと抱きついて来た。
由良は抱き返しはなかったが、好きにはさせた。
しばらくして二人は温泉を後にして宿に戻った。
すると、久子と雅彦は満腹といった顔をして満足そうにしていた。
「あれ?俺らの飯は?」
「無いわよ〜?二人とも帰りに何か食べて来たんじゃ無いの?」
「食ってねぇよ!」
「あら残念。秋乃ちゃん独り占めにした罰です〜」
「........(キュウ)」
秋乃は可愛い音をお腹から出した。
仕方なく、由良と秋乃だけ車を使ってその日の夕飯を食べにいった。
楽しくなってしまい随分長くなってしまいました...。すみません




