13話
由良のパーカーを着てから、秋乃は家にいる時はやたら由良の服を着たがるようになった。
「なぁ、それ俺が一回着たやつだけど...」
「........(コクリ)」
「いや、臭くないか?それ」
「........(フリフリ)」
秋乃は袖を口元に持って来てクンクンと匂いを嗅いだ。
「........(クンクン)」
「嗅ぐなバカ」
由良は服の匂いを嗅ぎ続ける秋乃を止めようとしたが、秋乃はそれを避けて部屋の中を走り回って逃げた。楽しそうだったので好きにさせて、由良はスマホをいじり始めた。
すると、秋乃が由良のスマホを覗いてきた。
「........?」
「ん?ゲームだよ。スマホ傾けて曲がったりするレースゲーム」
「........」
秋乃はスマホのゲームに興味津々で、由良の事は御構い無しに覗き込んでくる。おかげで画面の半分は秋乃の頭で見えない。
「秋乃、あんま近いと目ぇ悪くすんぞ」
「........(コクリ)」
頷いた秋乃は由良の後ろに回り、由良の肩に顎を乗せて覗く体勢になった。
そして何故かしてやったりみたいな雰囲気を出していた。
ドリフトや、上手く敵を抜いていったりと秋乃にプレイを見せていると、秋乃が自分もやりたいと手を伸ばしてきた。
「やる?」
「........(コクコク)」
「はい、これがブレーキのボタンで、ここがアクセル。これ押すとブーストって言って制限はあるけど早く進む」
「........(コクコク)」
そして秋乃が体勢そのままゲームをプレイし始めた。
てっきりこの体勢をやめてくれるものかと思っていた由良は、予想が外れた気持ちだった。
しょうがないのでしばらくそうしていると、久子が部屋に来た。
「由良〜秋乃ちゃ...何してんの?」
「ゲーム。で何?」
「明後日温泉行くって話をしに来たの。リビングにしゅ〜ご〜!」
「そんな話してたか?」
「今」
「........(この野郎...)」
夜10時に伝えることか?と思いながら、由良はゲームに夢中の秋乃をリビングに連れて行った。
リビングに行くと、雅彦が温泉宿を雑誌で探していた。
「宿取れんの?」
「そんな混んでないからな」
「そ、俺海近いとこ嫌だからね。ガキが多いから」
「分かってるよ」
由良は海に行くと100%ナンパに合うので、海を毛嫌いしていた。
秋乃は何をしているのか分からず、由良を見つめて説明してもらう。
「明後日温泉行くんだって、泊まりだから準備しないとな」
「........?」
「温泉ってのは、ちょっと豪華なお風呂?かな?」
「........」
秋乃はなるほどと言った様な顔をした。
由良も久しぶりの温泉で気分が高まって来た。
すると、雅彦が良い宿を見つけたみたいで、勧めた来た。
「こことかどうだ?温泉街には車でしか行けないが...」
「あら〜綺麗なとこねぇ」
「良いじゃん」
「じゃあここでいいか?」
「おっけ〜」
早速宿泊先に電話すると、大人四人分の部屋が取れた。
一泊二日の旅行なので、その分の服を用意したりと準備を始めた。
準備は済んで、何となく秋乃が準備出来なそうだったので秋乃の部屋に行ってみた。
「秋乃、入って良いか」
「........(コクリ)」
「秋乃〜?」
「........(コクリ)」
「あの...多分頷いてくれてると思うんだけど、こっちからしたらそれも分かんないんだわあ。開けてくれるか?」
「........」
由良がそう言うと秋乃はドアを開けてくれた。
「準備、どう?出来てる?」
「........」
「んーとりあえずアヒルさんは浮かべられないから、置いていこうな」
「........(フリフリ)」
秋乃は最近久子に買ってもらったお風呂に浮かべるアヒルさんの人形をバッグに一番に入れていたが、公共の温泉でそれはいかんと言う事で止めた。
由良は持って行く物を言っていくので言われたものを用意する様に促した。
「パンツは?」
「........(サッ)」
由良は自分のパンツを天高く掲げて持っている事を表明した。
「パジャマ」
「........(サッ)」
「タオル」
「........(サッ)」
「次の日の着替え」
「........(サッ)」
「それ俺のパーカーじゃねぇか。無いと思ったわ、返せ」
「........(ブンブン)」
由良は自分の服を取り返そうとしたが、秋乃が頑なに拒否したので諦めた。
あらかた準備は整ったので、由良は自分の部屋に帰ろうとしたが、秋乃がそれを止めた。
「ん?どした?」
「........」
「何これ?絵本?」
秋乃は由良に絵本を渡して来た。
子供向けで、表紙には優しいタッチの絵が描いてある。
「えと...読めと?」
「........(コクリ)」
「ま、良いけどさ」
秋乃はベッドに寝転び、由良はその横で絵本を読み聞かせた。
「『お母さんお父さん、大好き』始まり始まり」
「........」
本の題名を読んで、話に入っていった。
本の内容はまだ小さい女の子が、両親への好きという気持ちを綴った本だった。
読んでいくと、秋乃は眠そうに瞼を開いたり閉じたりしている。
「...ちゃんは、『おやすみ』と言ってお父さんとお母さんからほっぺにチュウをされてお布団の中に入りましたとさ。おしまい」
「........」
「はい、もう寝な」
「........」
由良が部屋から出て行こうとすると、秋乃はそれを止めて、由良を自分の方へ手繰り寄せ、絵本の女の子の両親が女の子にした様に、由良の頰にチュッとキスをした。
「........(チュッ)」
「...ったく、おやすみ秋乃」
秋乃は力尽きた様に眠ってしまい、由良は短くため息をついて部屋から出た。
次、温泉回を書きます!
今回書こうと思ったんですけどね...。




