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あいしてる  作者: 粥
10/28

10話

「どれにすっかなぁ...」

「これとかいんじゃね?」

「えぇ〜?久子さんはこういうのが好きだよ多分」


今日は仕事は無く、由良は純と伊織を連れて街の雑貨屋さんに来ていた。

今日は久子の誕生日なので、日頃お世話になっている久子にプレゼントを買いに来たというわけだ。


「これで良いかな?」

「久子さん腰悪いの?」

「いや、後々悪くなりそうだし...」


由良は結局、腰だけを自動でマッサージしてくれる機械を買った。

店を出て、久しぶりに三人で外出という名目でも来たので、どこか寄る事にした。


ついでに、二人の子供の麻子は純の母親に今日一日面倒を見てもらっていた。伊織と純の母親の、嫁姑関係は純が言うには『引くほど仲が良くて逆に怖い』らしい。


「さて、どこ行くか?」

「あんま伊織には歩かせたくねえな」

「いや、もう麻子産んだから!私普通に活動出来るし!」


ということで、近くの大きい公園を少しだけ歩く事にした。

散歩、ジョギング、筋トレ場、芝生の広場などがあり、地域の老若男女がその公園に来ていた。


「ん〜!良い天気〜!」

「伊織、なんか元気良いな」

「麻子も無事産んだし、体が軽いのが嬉しいんだろ?元々運動好きな活発な奴だったし」

「なるほど」


三人はゆっくり歩きながら、吹き抜ける心地よい風を全身で感じた。

そして純が思う出した様に秋乃の話を始めた。


「そういえば、あ...あー...秋乃ちゃんだ!あの養子の子は?上手くやってんの?」

「あーまぁ一応な」

「どんな子なの?元気な子?」

「全然、静かっつーか一回も喋ったところは見た事ねぇ」

「え!?何それ?」

「事情があんだよ色々。まぁいつか喋ってくれりゃいいよ」

「ますます会いたくなったわ〜」


その後二人とは別れて、一人家に帰った。

すると、秋乃が家の前で家によく来る野良猫と戯れていた。

猫は秋乃の事を気に入っているのか、秋乃に好き勝手撫でさせていた。


由良の足音に猫が反応して、秋乃も猫の見た方を見た。そして由良だと分かり、ジッと由良を見て来る。

秋乃と猫の顔が全く一緒なので、少し笑ってしまいそうになった。


「よっ」

「........」

「その猫、懐っこいだろ」

「........(コクリ)」

「仲良くなったのか?」

「........(コクリ)」


由良は秋乃の頭をワシャワシャと撫でると、秋乃は目をつぶってそれを受け入れた。

鼻を摘むと嫌そうに手で払われた。


秋乃は由良の持っているマッサージ機が梱包されている箱に気付き、疑問符を頭に浮かべた。


「........?」

「ああ、これか?今日お袋の誕生日なんだわ。だからそのプレゼントってーの?」

「........?」

「え?わかんねぇ?...っ!あーまぁうちじゃそういうことすんだよ。お前もいつかされんじゃね?」

「........」


由良は気を使って、それ以上何も言わなかった。

恐らく秋乃は、誕生日を祝われた事が無いのだ。どころか、自分の生まれた日さえ知らない。

だから誕生日に祝うのも、プレゼントを渡すという習慣も知らないのだ。


「とりあえず、中入ろうぜ」

「........(コクリ)」


秋乃は猫に手を振ってお別れをしてから、由良と一緒に家に入った。


家では雅彦が料理をしていた。

まだ午後3時だというのに、すごい気合いの入れ様だった。


「親父、さすがに今から下ごしらえは...」

「いや、前回はパエリアを作ろうとして失敗した。今回は成功させるために二回作る」

「あそ...。まぁ頑張って...」


由良はそう言ってリビングに戻ると、秋乃がペンを持って何かを探していた。


「何探してんだ?」

「........」

「...紙か?紙ならこれ使えよ」

「........(コクリ)」

「あ、おい!...何をそんな急いでんだ?」


由良から紙を貰うと秋乃は自室に籠もってしまった。

ついでに久子は友達と一緒にお出かけをしているので家にはいない。


一時間後、電話があったので由良が出た。内容はケーキ屋に頼んでいた久子の誕生日ケーキが準備出来たので取りに来てくださいという電話だった。


「親父、ちょっとケーキ取って来るわ」

「ああ、気をつけろ。...もっと塩を入れて見たほうがいいか...?」

「親父もがんば、そろそろお袋帰ってくんぞ?」


由良は車でケーキ屋に向かって、ケーキを取りにいった。

少し遠いが美味しいと評判で、毎回そのケーキ屋さんに誕生日ケーキや、スイーツを買いに行ってるお得意様なのだ。

だから店員も戸塚家も、お互い顔を覚えている。


「いらっしゃいませ〜。戸塚さんのケーキですね?すぐお持ちします」

「ども」


由良の顔を見るだけで、何しに来たか分かった店員は、店の奥から久子の誕生日ケーキを持って来た。


「こちら、久子様の誕生日ケーキで間違いありませんか?」

「はい、注文通りです」

「ではロウソクもお付けしておきますね」

「ども」


お会計をして店を出る。

もうすっかり日も暮れて、そろそろ久子も帰って来る頃だ。


由良は急いで家に帰って、ケーキを冷蔵庫にしまった。

雅彦の料理もほぼほぼ出来上がっていて、食卓に豪華な料理が並んでいた。


「うわお袋が好きなのばっか...」

「当たり前だ。今日はあいつが主役だからな。いつも世話になってる礼だ」

「だな」


しばらく待っていると、久子が帰って来た。


「ただい...わあ〜!私の好きなご飯がいっぱいだぁ〜!!」

「おかえり久子」

「おかえりお袋」

「ただいまぁ〜」


久子はギュッと二人を抱きしめた。

それをちょうど部屋から降りて来た秋乃が見ていたので、由良は久子に促した。


「お袋」

「ん?...あ!秋乃ちゃん!ただいまぁ〜!」

「........(コクリ)」


ご飯を食べる前に由良はプレゼント用に用意しておいたマッサージ機を渡した。


「ほれ、調子悪い時使えや」

「なぁにぃ〜?あら!マッサージ機だぁ〜!すごぉ〜い!」

「腰が悪くなったなんて一回も聞いたこと無いけど、あっても困るもんじゃねぇかなぁって思って」

「気持ちだけでいいのに〜ありがとね由良。大好きよ」


そんなやり取りをしていると、秋乃が少し照れ臭そうに久子の袖を引っ張った。


「ん?なぁに?秋乃ちゃん」

「........」


秋乃は、先ほど由良があげた紙を持っていた。

その紙には、文字が書いてあった。

何をするのかと三人で見ていると、由良が口を開いた。


「ひ...ひさこさん...へ...」

「っ!?」

「喋った...」


秋乃が初めて喋った。

セリフは噛んでいたが衝撃が凄すぎて、そんなこと気にならなかった。

秋乃はそのまま紙に書いた久子への自分の気持ちを読み続けた。


「ひさこさん...は、あ、あきの...の、じまん、の...!おかさん...です...。いつも...に、にこにこ...してて、やさしくて...、おりょおり...おいしくて...。そ、それで...あき..あきのに、いじわる...しません...」


秋乃は辿々しく手紙を読み続けた。

手は震えていて、今にも泣きそうだけど、それを堪えて読んでくれている。

三人はジッと聴き続けた。秋乃の気持ちを、抱えている感情を。


「まさ、まさひこ...さんは、ひさこさん...ほど、わらって...くれな...けど、でもっ...!たまに、わらってくれる...のが、うれし...です。まさひこさ...は、あきの...の、おとさん...ですっ...!」

「ああ」


雅彦は優しく笑ってそう答えた。

久子はもう目には涙が溜まっていて、ダムが決壊しそうだった。

秋乃は由良を見た。由良もその視線に気付いて、秋乃を真っ直ぐ見つめ返した。


「ゆら...は、いちばん...すき...ですっ!あ、あき...あきの、のわがまま...いっぱい...いっぱい...きいて、くれりゅ...あぅ...かんじゃった...」

「...大丈夫だから、聞かせて?」


由良は微笑んで秋乃にそう言った。

秋乃は頷いて読み続ける。


「お、おふろ...いれて、くれる...し、あきのが...おへや...きても、やなかお...しない...。あた...あたま...!なでて、くれる...!あきの、あれ...すき...!」

「そか、良かった」


秋乃の頰に涙が伝い、鼻水を啜りながら、秋乃は最後の言葉を言った。


「ぐすっ...!あ、あきの...は、みんなが、...だ、だいっ...!だいすき...です!やさし...みんなが...だいすき...。にこにこ...みんなが、...すき!...ぐすっ!ひぐっ...!あ、あきの...は、いつか...お、おん...おんがえじが...じだい...でず...!っ...!みんな゛に...だいずぎっで...いわれたい...です...!」


三人は、黙って微笑みながら涙を流す。

秋乃を真っ直ぐ見つめて、決して一言一句聞き逃さないように。


「...ごめんなざい...!」

「なに...が...?」


秋乃は急に謝って来たので、久子が泣きながら聞いた。

秋乃は、三人の顔を見ながら、


「み゛んなの...こと...!『かぞく』とよんで...いい...でずか...?」

「........っ!!秋乃...ちゃん...」

「...ああ、当たり前だ」

「もちろん...!」


久子は耐え兼ねて秋乃を抱きしめて、その場に座り込んだ。


「当たり前よ...!大好き...!大好きよ...!!秋乃ちゃん...」

「...え、えへへ...うれ...うれしぃ...なぁ...」


秋乃は久子を抱きしめながら泣き続けた。


こうして、秋乃はようやく、戸塚家の『家族』になった。

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