1話
私の気まぐれに付き合ってくれるのであれば、この作品をお手にとって頂きたいです。
続けられる様精進いたします故、よろしくお願いいたします。
山、川、海。大自然に囲まれた町に、一つのガラス工房があった。
名前は『ガラス工房・戸塚』。
そこには、戸塚 由良という青年がいた。
青年は小さい頃からガラスに触れてきた。両親がガラス工芸家で、父親が師匠だった。
今では自分も父親と同じ土俵に立ち、一緒に仕事をしている。
「由良、今日はもう上がるぞ」
「分かった」
由良と父の雅彦は、工房を後にして、家へと帰った。
家に帰ると、母の久子がご飯を作って待っていた。
「あら〜おかえりぃ二人とも」
「「おう」」
「もぉ〜ただいま、でしょ〜?」
このどこか抜けている様な雰囲気からは想像も付かないが、実は商売人としてはやり手で、雅彦と由良が作ったガラス細工を店兼ガラス教室の『戸塚グラス店』で売っている。
ついでに久子もガラス工芸家なのだが、そっち方面は由良と雅彦に任せているので、自分は教室の先生と店の店主をしている。
「今日はグラスを十個も買っていったお客さんがいたんだけれど、何に使うのかしらねぇ?」
「新生活じゃないのか?」
「あ〜なるほどぉ〜!やっと合点がいったわぁ」
由良はあまり感情が顔に出ないタイプで、ガラス工芸以外のことには無関心だ。
だから、友達もそれほどいないし、趣味も無い。というか趣味がガラス工芸なのでどうしようもない。
「由良、純くんと伊織ちゃんの方はどう?」
「上手くやってるみたい」
「そぉ?良かった〜大変だったらいつでもうちを頼ってって言っておいてね!」
「ロクな生活出来ないのに結婚するほどあいつらはバカじゃない。自分たちでなんとかするだろ」
「でもぉ〜」
「そういや、ガキが出来たっつってたな」
「え!?ほんと!?」
純と伊織は、由良の数少ない友人で、純は中学から、伊織は高校からの付き合いだ。
二人は喫茶店を経営していて、二年に結婚した新婚さんだ。
そしてこの前メールで、子供を授かったという連絡が来た。生まれるのはもう少し先みたいだが、嬉しそうな二人を見て、由良もそれなりに嬉しそうだった。
由良も決して結婚を急がなければいけない歳でも無いのだが、純と伊織に当てられて、久子は早く恋人を見つけろと急かされている最中だ。
だが、由良にとって今のところ女よりガラスなので、そんな言葉は馬の耳に念仏だ。
「へぇ〜二人に子供ねぇ〜。可愛いだろうなぁ〜二人とも可愛いしかっこいいもの」
「だろうな」
「由良もカッコいいんだから、さっさと好きな子作っちゃいなさいよ」
「好きな子って作るものか?」
好きな子というものは基本出会うもので、作るものでは無い。
由良は正直結構カッコいい顔をしている。
キリッとした目と眉、鼻は普通の人より高く、唇はよくいる外国人並みに薄く細い。まつ毛も長いので、メイク次第では、女性に見えなくもない。(一回久子にやられそうになったが、全力で逃げた)
だがガラス以外興味が無いので、というか工房に篭ってずっとガラス細工を作っているので久子以外の女性に会うことは皆無に等しい。
たまに久子が店の方を手伝わせるが、由良はあまり来たがらないし、わざと無愛想に接客する風潮がある。
それでも、由良目当てで店に来る女性客もちょこちょこいる。
「さてと、お風呂入って寝ますかねぇ」
久子は話を切り上げてお風呂場へ向かった。
リビングでテレビを見ていた雅彦が、部屋に戻ろうとしていた由良に声をかけた。
「由良」
「なに?」
「工房に篭ってガラス工房家として腕を上げるのは構わんが...伴侶はちゃんと見つけろよ」
「...何言ってんだよ」
由良は相手にせずに部屋へと戻った。
由良の部屋は家には無い。その代わりに家の離れにある平屋が由良の部屋だ。由良はそこで半一人暮らしの様な生活を送っている。
「彼女なんて作ってる場合じゃねぇよ...」
(あんたに全然届いてねぇってのに...)
由良はベッドに仰向けになって天井を眺めた。
雅彦はガラス工芸家の中でも有名な工芸家だった。由良はその雅彦と肩を並べるためにいつも頑張っている。
故に、彼女なんて作ってる場合じゃ無いのだ。