vivid red
朱音
結婚おめでとう
綺麗な 綺麗な
花嫁さんだったね
お父さんとおじいさんも
きっと天国から
見てくれたことだろう
朱音と
一緒に暮らした十数年は
本当に幸せだった
一人息子が
親より先に逝くとは
思わなかったけれど
朱音がいてくれたから
おじいさんとふたり
淋しいと思う暇がなかったよ
ありがとう
うちで暮らすようになって
毎朝おじいさんと
お仏壇の前に座って
手を合わせていた孫娘の
小さな背中が
今も目に浮かぶ
娘を授からなかった
夫婦にとって
孫娘との生活が
どれだけ楽しかったことか
思春期の女の子が
みるみる美しく育っていく様は
まるで蝶の羽化を
見るようだった
心を鬼にして
お母さんたちのところに
帰すべきだったのに
とうとう出来なかった
こんなに美しい孫娘を
老夫婦に預けてくれた
朱音のお母さんに
とても感謝している
この先
おばあちゃんに何か起きて
帰る場所に困ったら
迷わずお母さんを
頼るんだよ
もうあと少し
曾孫を見られるだろうか
これ以上 欲張っては
閻魔様に叱られてしまうね
朱音
史哉君と幸せに
暮らしている様子が
目に浮かぶ
本当に良かった
史哉君
朱音をどうぞ
よろしくお願いします
6月吉日
多重
運よく
キャンセルの出た式場で
6月に式を挙げ
先に福岡に居を構えた
史哉を追って
東京を後にした
元気に見送ってくれた
祖母が
その年の暮れに寝つき
誤嚥性肺炎で
病院に運ばれたとの連絡に
夜のうちに病院に駆けつけたが
史哉の呼びかけに
うっすらと目を開けて
応え
苦しい胸をゆっくりと
一度 上下させると
愛してやまない祖母は
息を引き取った
ふた晩 泣き明かしたあと
三鷹の家を整理していると
仏壇の
小さな引出しの中から
美しい字でしたためられた
祖母の手紙を見つけた
結婚式のあと
書かれたであろう
その手紙を鞄にしまい
師走の冷たい風の吹く朝
身重の身体をいたわる
夫に支えられ
愛する人たちの温もりの残る
家を出た




