midnight-blue
職場を定時であがって
有楽町まで歩いた
日が長くなったのだろう
5時を過ぎてもまだ
明るいことが嬉しい
丸井に入り
フロア奥のパンストの売り場に向かった
着替えるとき
オフィス用に履いている
ナースシューズのベルトの金具に引っ掻けて
ほんのわずかに伝線してしまった
ニーハイブーツを履けば
見た目にはわからないのだが
今夜は約束があるので
ロッカーにある予備の
ヌーディベージュに
履き替えるのはやめて
新調することにした
中国人観光客が
ワゴンのなかから
気に入った柄をいくつか
取り出して
連れと相談している
その中のひとつ
ミッドナイト・ブルーの
くるぶしの上に小花の模様が入ったものが目に留まった
さりげなく近づいて
同じワゴンの中を探す
模様にビジューをあしらった同色の物を見つけた
精算を済ませ
2階の化粧室で履き替えて
伝線したパンストを
くるくると丸め
ゴミ箱に棄てた
4℃のジュエリーを見ながら もう一度一階のフロアをひと回りして
時計を見るとちょうどよい
時間になった
外はさすがにもう暗い
少し足早に
約束の店へと急いだ
つき合いはじめて半年
昨年の4月に名古屋の支社から本社に戻った彼とは
課が違うので話すことはなかったが
コピー機がふさがっているからと こちらの課に借りにきた際に 忘れた原本を届けに行ったのがきっかけで
挨拶をかわすようになった
社員食堂で相席するようになり
やがてデートに誘われた
都内の
中高一貫の女子校から
内部進学で女子大に進んだ
男性とお付き合いをしたのは
学生時代 バイト先の店長との不倫が初めてだった
同世代の男の子に惹かれないのは もともとファザコンのせいだと自覚している
小学五年生の時に実父を
病気で亡くし ショックから一時期 不登校になった
中学二年のときに
母が再婚した
優しい人だったが
心を開くことが出来ないまま 弟が生まれた
自分の存在意義を見失い
父方の祖父母を頼った
父に面差しの似た祖父に
存分に甘えることができ
精神のバランスを取り戻した
大学に進んだ年に
祖父は他界し
淋しさからバイト先の店長を頼った
バイトをやめるまでの2年間 関係は続いたが
奥さんの妊娠をきっかけに
気持ちが離れてしまった
どんなに愛を囁いても
家庭に帰れば
何食わぬ顔で奥さんを抱いていたのだと思うと
たまらなくなった
社会人になって
年齢的にも釣り合いのとれた独身の男性と
つきあおうと思ったのは何故か 自分でもよくわからない
ただ
彼が父子家庭で育ったということに
少なからず興味や共感を
抱いたことは確かだった
待ち合わせの店の前で
LINEが入った
『10分で着くから
店に入って待ってて』
返信を待たずに
再び彼から
『今日は泊まれるよね?』
もちろん…
サブバッグに
替えのランジェリーとブラウスを入れてきたわ…
バイト時代の不倫相手は
私の体で色んな事を試した
奥さんには使わないと言う
さまざまな道具…
秋葉原にふたりで見に行った事もある
手首をきつく縛った時にできたあざに
祖母をビックリさせた事もある
エスカレートしていく
相手の嗜好が
気持ちよさとはほど遠く
苦痛になっていった
いま
ノーマルな彼との行為が
かえって新鮮で
ゆっくり愛し合える
お泊まりデートが
楽しみでしょうがない…