戸惑い
僕ら奇妙な3人組がたどり着いたのは、繁華街の中心街にあるショッピングセンターだ。
そこにたどり着くまでの3人は、神崎さんが喋り、賀川岬が笑い、僕がしかめっ面をするといった繰り返しだ。
正直僕は、3人で買い物なんてかなり嫌だった。
別に2人きりが良かったとかそうゆう類の気持ちから出たものではなくて、まともな会話をしたのがたった5分前の、ほぼお互いについて何も知らない人と買い物とゆうのに慣れていなかったからだ。
会話にしたって、喋っているのは神崎さんで、賀川岬も僕も会話を振るとゆうよりは、聞き役に徹していたから、賀川岬が何を考えているのか、どう思っているのかは全くもってわからなかった。
なんとか3人で買い物できそうなのは、賀川岬との奇妙な縁と、神崎さんの明るさに助けられているからだろう。
「総君はこうゆう場所結構来るの。」
神崎さんが突然聞いてきた。
「いや、僕はたいてい本を見にくる程度で、服とかはあんまり興味がないから適当に揃えてるからね。」
「だよね、そんな感じ。」
神崎さんは聞く前から答えがわかっていたように言った。聞く意味はあったのだろうか。
少し眉間に皴を寄せながら僕はこう言った。
「神崎さんはよくこうゆうところにきていそうだね。学校に居る時とは比べ物にならないくらいにお洒落してるし。」
「そうね、服は選ぶのも選んであげるのも好きなんだ。岬の今日の服も私がチョイスしたんだからね。」
神崎さんは、背後に「えっへん」と見えるくらいに自慢げだ。そう言われれば、僕の目線は当然賀川岬の服装にいくわけで。
彼女の今日の格好は、夏らしいミュールに生地の薄そうな白いロングスカート、上は少し小さいGジャケットといったカジュアルな格好だ。
「ミコトは服選び好きだもんね、一緒にいくといつも着せ替え人形になるから。」
賀川岬は苦笑しつつも嬉しげに言った。こういった会話の端々に、二人が仲良いのがよくわかる。年は同じなのに神崎さんと賀川岬はまるで姉妹みたいだ。
「総君は今日買い物する予定で来てるよね。」
念を押すような口調で神崎さんが僕に聞いた。
会話が変な方向に行っている事を自覚しつつも、ここまできて何も買う気がないなんて答えは嘘だ。
「一応夏服を見るつもりだけど・・・」
「だよね。よし、任せなさい。この神崎ミコトが総君をコーディネートしてあげましょう。」
やっぱりこの流れか、神崎さんの会話のどこらへんから計算していたのかを考え、どの時点だったらこの事態を回避できたのかを考えながら溜息をついた。隣では賀川岬が苦笑している。きっとこの流れは今まで幾度と無く繰り返されてきた事なのだろう。僕の諦めを後押しするように賀川岬は「がんばれ」と小声で言った。
「そうと決まれば元気出していきましょう。」
神崎さんはとっても満足そうだ。僕は自分の抗えない流れをつくり出す神崎さんに、ちょっとした畏怖の念を覚えながらも後を追った。
それから数時間。女性の買い物では、試着する度に意見を聞かれ、荷物を持ち、僕の番になれば試着室から出ることすら出来ないほどの数の服を着た。モデルって大変なんだなと筋違いな同情を誰とも知らない不特定のモデルに寄せた。
買い物にひと段落ついたところで昼食を食べることになった。
只でさえ慣れない人ごみを歩き、買い物に掛ける乙女のエネルギーに当てられ続けた僕は、疲労困憊とゆう言葉では表せないほどクタクタだ。
「うんうん、みんなの夏服も買えたし、旅行はばっちりだね。」
一番動き、一番喋っていたはずの神崎さんはまだまだ元気いっぱいだ。
賀川岬も慣れたものなのか、さして疲れたようには見えない。
その女性陣を、人外を見るような視線で見ている僕に気が付いた賀川岬が「お疲れさま」と言った。僕はなんとか「うん」と返した。その様子を見て神崎さんも賀川岬も大笑いをした。
僕は今までしなかったが、ずっと気になっていたことを聞いた。
「旅行って言ってたけど、神崎さんの田舎ってどこにあるの。夏休みに4人で行くって事以外何も知らないんだけど。」
「あ、そうだった。えっとね、私の田舎は九州の熊本なんだ。行くのは夏休みのお盆明けになるかな、日数はまだ決めてないんだけど大体3泊4日くらいだと思っておいて。」
聞いてみたものの、なんとも不確定な話だった。確かなのは場所だけだ。しかし、九州と言えばここからはかなりの距離がある。飛行機を使う事は確かだろう。そうなると結構な費用が必要になると思っていいだろう、藤沢さんに電話を入れないといけなさそうだ。
「あー、泰介も来られたら良かったのにな。総君と面識をもってもらうのが目的だったのに。」
「しょうがないよ、前木君はサッカー部の大会近いから今忙しいんだよ。」
二人の会話から初めてもう一人の参加者の名前が判明した。前木泰介、神崎さんお幼馴染でサッカー部所属のようだ。
サッカーと聞いて、一気に暗雲が立ち込めるのを感じた。自分で言うのもなんだが僕は本の虫でもやしっ子だ。
体育会系バリバリのサッカー部員と友達になるなんてのは想像も出来なかったからだ。
知らない人の2人のうち一人が賀川岬だったのは驚いたが、助かった気もしていた。全く知らないってわけでもなかったからだ。もう一人が全く知るはずのないサッカー部員と聞いたら、二の足を踏みたい気持ちが押し寄せた。
「前木君ってのも幼馴染なんだよね、どんな人。」
もう少し情報がほしかった。当日いきなりでは対応できる自信がなかった。
「そうだね、どんな人って言われたら馬鹿、かな。別に頭が悪いって意味じゃなくって、なんか人として馬鹿かな。」
「ミコト、それは酷すぎるよ。前木君に会う前に冴木君が引いちゃうって。」
二人の会話からすでに引いていた。頭が悪くても別に良かったが、人間として馬鹿ってレッテルはかなりきつい。いくら幼馴染でその評価が親しみの表れだったとしても、人として馬鹿ってのは当然僕の守備範囲外だろう。
「そんなこといったって、泰介は馬鹿だもん。小学校から中学校に上がる時に、小学校の登校時間に起きて余裕で遅刻したくらいの馬鹿だよ。」
「そ、そんなこともあったね。」
神崎さんが持ち出した過去のエピソードに、賀川岬もフォローを忘れたようだ。
「うん馬鹿なの、でも決して悪いやつじゃないよ。総君とは正反対かもだけど、意外に仲良くなれるんじゃないかって思ってるの。」
最後に上手くまとめたつもりなのか神崎さんは言い放った後に満面の笑みを浮かべた。
正反対の人間同士が仲良くなるってゆうのが世の中にどれだけあるかは知らないが、当たり障りない性格の奴であることを願った。
「さて、お腹もいっぱいになったし、遊びに行こう。」
神崎さんが勢い良く椅子から立ち上がり宣言した。
僕は心の中に「やれやれ」を抱えながら、元気いっぱいの神崎さんの後に続いた。
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