すべてのはじまり
生活に文句はない。少なくとも俺は、良い暮らしをしているほうなのだろうと思う。だが不満がないといえば嘘になる。実際のところ、俺は不満たらたらだ。親の干渉。俺みたいな高校生ならわかる人もいるだろう。だがまあ、まだ子供だし養ってもらっている訳であって特に文句も言えない。そして働くことも許してもらえてないのだから金銭的な面で頼りっぱなしというわけだ。こんな状況だから何も言えずに不満がたまっていくのである。
ある夕暮れ時のことだった。いや、夕暮れ時といえどももうほとんど暗くなっていてこれから外出すると言ったら何か文句言われそうな、そんな時間だった。ふとジュースが飲みたくなって家の前の自動販売機へと親には言わずに向かった。まあすぐだ。すぐのこと。だからいいだろう。そう思いながらジュースを買い、家に戻ろうとした。
そして後ろを振り返ると可愛い女の子がいる。俺は恥ずかしながら若干にやにやしていたことだろう。そんな俺に彼女は言った。
「不満とか、ありそうですね。」
驚いた。顔に出ていたのだろうか、そんなはずはない。だって今はその女の子のことを見て内心盛り上がっていたのだから。その女の子は慌てて付け足した。
「あ、すみません…。でも私、自分と同じ感情を慢性的に持っている人間がいるとそれに反応してしまうんです。」
なんということ。慢性的に? 不満のことだろうか。待てよ。ということは彼女にも不満があるということで。話を聞いてあげれば親しくなれるかもしれない。そうして彼女と下心ありまくりの俺は少しばかり話をすることにした。
話を聞いて要約するとこうなる。元々周りから人気のある方ではなかったが最近仲の良い友達まで彼女を無視し、なぜなのか問えばお前のせいだといわれるような事態に陥っているらしい。まあ完全孤立ってわけだ。しかし理由も教えてもらえないんじゃあ直しようがないしな。そんなことから彼女は絶望しきっているらしい。理由は可愛いからとかそういう他愛もないようなことの気がしないでもなかったが、あえて言わないでおこう。直しようもないことだしそういわれても困惑するに違いない。
彼女はそこで、といった。そこで?そこでどうするんだよと。自分を変えることはたやすいが人を変えることは難しい。だからといってそんな可愛い顔を整形して不細工にするなんてもったいない、などと少し慌てていた俺に彼女は想像を絶する言葉を言い放った。
「ねえ。『お引越し』しない?」
一瞬何を言われたのかわからなかった。辛いから一緒に住んで慰めてくれる人募集中ってやつか?とも考えた。俺は嬉しいが彼女は俺でいいのかとも考えた。だがそんなことよりもまず、引越しには経済的に無力な俺のような高校生には到底無理ではないだろうか。金銭的に。お金…といつの間にかつぶやいていたらしい。しかし彼女はさらに驚くことを言った。無料だよ、と。