合流。交わる赤い竜と黒い竜
『強化』それがその子、いえ、あなた達の力です。
黒百合の炎により、あなたの身体能力と感覚を一時的に向上させ、それを力として戦う。
神様の説明によると、さっきの戦いはその力を存分に発揮した戦い方だという。しかしながら、二人の心が合わさらなければ『力』は無力となる。逆に言えば、強い相手にはより強い心の繋がりで戦えばいいということだ。それには、相応の時間を必要とする。黒百合と私との。
コニー親子が切り盛りする宿屋。色んな者達がやって来て、旅の疲れを癒す憩いの場所。
体の違和感も消え、壊れ、修復した私の体は元気そのものだ。前より良くなっているくらいだ。そろそろ、私がこの宿屋を後にする時が来たようだ。
「それでは、行ってきます」
「蓮華さん、また来てくださいね。いつでも待ってますから」
コニーは少ないですが、と言い一食分の食事を持たしてくれた。神様からは、旅に必要な資金を頂いた。この世界の物価がどうなっているかわからないので、このお金が多いのか少ないのかは分からない。それでも、ありがたい。行く先の景色が見える旅路ではないのだから。
「それでは、その子をよろしくお願いします。『黒き竜の姫』」
姫……ですか? 急な呼ばれ方に戸惑う私。
「ええ、黒い竜を連れた蓮華さんは『黒き竜の姫』、赤い竜を連れた方は『赤き竜の姫』と呼ばしてもらっています」
敬意を払って、です。そう、呼ばしてもらってもよろしいですか?
「いいですけど、ちょっと恥ずかしいです」
私は伏し目がちではにかんでしまう。
木々が生い茂る森を抜け、広がる草原に出る。とてもいい風が吹いていた。
「適当に歩いてきたんだけど、こっちでよかった?」
黒百合が何も言わずついてきたので、私もなにも気にせず歩いていたが正解だという確証はなにもない。
「リュウ」
こちらで合ってるみたいだ。
黒百合は、同じ種族である竜の存在を感じることができる。この世界のどこにいても。
すでに絶滅したと言われていた竜の生き残りは、この子ともう一匹の赤い竜だけなので、同じ種族の波長みたいなものを感じるのも容易いとのことだが、ハッキリとしたものではないらしい。大体の方角、あちらの方ってくらいの道案内しかしてくれない。
もっと近づけばハッキリするからそこまでは大体で進まなくてなならない。
これは、通りがかった街で聞き込みをしないといけないな。
竜を連れて『制服』を着ている。そんな人は、この世界ではとてもめずらしいから聞いて回ればすぐに見つかるだろう。
探している相手を見つけやすい。それは私にも当てはまる。だから、何処に行ってもとても目立つということを理解した。それは同時に面倒事も一緒につれてくることとなるのだ。
私が目立っていれば、相手からも見つけやすい。と思ってしばらくは我慢していたが、こう絡まれては一向に前に進めない。どうにかならないかと、思っていた所に偶然助けた旅の商人から『フード付きのマント』をもらった。
これで、私の『制服』と黒百合を一緒に隠せて一石二鳥であるが、怪しさが一段と酷くなった気がする。ただでさえ、めずらしい格好で敬遠されるというのに。
マントを着て怪しまれるか、そのままの格好で珍妙な視線にさらされるか……。食事をとりながら考えを巡らせていると、私の袖を引っ張り少女が話しかけて来た。
「ねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんはあのカエルさんたちのお友達?」
カエル? カエルに知り合いはいないんだけど。もしかして、私と同じような服を着た人を見たの?
「うん、さっき私を助けてくれたカエルさんと一緒にめずらしい服を着たお姉ちゃんがいたよ」
いた! 多分間違いないと思う。黒百合も近くに感じるって昨日言っていた。
「その人たち、どこに向かったか知らない?」
「お船にのるって言ってたから、港の場所を教えてあげたの」
船では何処へ行くか分からない、ここで追いつかないと!
「港はどっちに行けばいいの?」
少女はまっすぐ路地の向こうを指した。
ありがとう、私はマントを羽織り少女が指し示した方向へ走り出した。
建物の間にある路地は薄暗いが、進むべき道は光が教えてくれている。
もう少しで光に到達、というところで邪魔が入った。
「おい、そこのマント! こっから先は通行料払わねーと通れないぜ!」
はぁ、思わず溜息が漏れた。
こういう輩はたくさん見てきたけど、なんでどいつもこいつも急いでいる時に出てくるのだろう?
「私は急いでいるし、あなた達みたいなの見てると腹が立つの、諦めてくれない?」
フードをかぶっているので、私の笑みは見えないだろうけど苛立っている雰囲気はくらいは感じとってほしいものだ。
群れをなす犬の獣人が三匹。短剣を抜き戦闘準備をしている。刃物を見せれば私が恐るとでも思ったのだろうか? 違うな、今までそうやって脅してきたんだ。
ああ、面倒だ。
こんな小物、武器を使う必要もないし、ましてや黒百合の力を借りるまでもない。
この面倒な三匹を無視して抜き去ろうとする私に、三匹は武器を構え応戦してくる。
こんな狭い場所では数がいても結局一人づつしか戦えないということに気づいていないのだろうか?
縦に並んだ三匹を一匹づつ対処していく。
一匹目。短剣を持つ右手を下から小突き、武器を手放せる。握りが甘い、本当にこちらを刺すつもりでいたのか怪しいものだ。上に飛んだ短剣を目で追っている間に、背負い、投げ飛ばして相手と自分の位置を入れ替える。
二匹目。三匹の中では一番背が高い。低い体勢で足元にもぐり込み、両足の膝裏を引っこ抜くように引っ張ってやる。体勢を崩し、いい位置に顔が来たところで両手の掌底をお見舞いする。
三匹目。背が低い、小太り、動きが遅い! しかも、目の前で仲間がやられたのをみて足が震えている。これはもう論外だ! 頭を飛び越え、服の襟を引っ張り尻餅をつかせる。
最近薄々と気づいたことだけど、黒百合の力がなくて私の身体能力があきらかに向上している。まさかと思うけど、転生の時、体を修復するついでに改造手術でも施されたのかと思ってしまう。それぐらい基礎能力が上がっている。
幼い頃から武術を習っていたので、運動神経には自信があったがさっきのような脚力は、人として異常だろうと思う。この世界では必要な力だと思うので迷惑とかではないのだけれど……。
路地を抜け、光の中に飛び込む。眩む目をゆっくり開き、周りを観察した。
そこには、他とは違う空気の集団がいた。カエルにネズミにチャイナ服の……魔女? そして先頭に、紺のブレザーに短いスカートの女子高生がいる。彼女の上には、赤い竜がふわふわと彼女の周りを飛んでいる。
あの子が『赤き竜の姫』。やっと見つけた! 心が高鳴る。何においても厳しい祖父が初めて褒めてくれた時の高鳴りと同じものを感じた。
急にやって来た私の知らない世界で、私と気持ちを共有できる人にやっと出会えたという感動。
私は彼女に駆け寄り、不躾に言葉を投げかける。
「あなたが、『赤き竜の姫』?」
「……はい? 姫って、何? 私?」
相手の顔に戸惑いが見られる。
――まさか、人違い? いや、そんなはずはない。赤い竜を連れているし、服だって!
その時、私の後ろで怒気を帯びた声が聞こえる。
「おい、おまえ! 俺様が先だーー! 勝手に話してんじゃねー!」
なんだ? 私にとって今は一大事なんだ。少しくらい待てないのか!?
「うるさい、邪魔をするな! 今は私が話しているんだぞ!」
振り向くと、全身青がかった毛で覆われた狼が両手に剣を持ち、構えている。狼の体は、かなりの大きさではあるが、私は別段恐怖を感じない。
なんだ? あの自身の体格の良さに酔いしれているような、いやらしい笑い顔は……とても頭が悪そうだ。
少なくとも、彼女の味方ではないだろう。なら、問題ない……な、消えてもらおう。
「邪魔をするなら……斬る!」
私は、マントを脱ぎ捨て黒百合に声をかけた。
黒百合の炎が私を包み、私の左手に刀が握られる。
刀の黒い刀身は、鈍い光を放ちその存在感を示す。
ここまできて、再度ここにつながる話を修正しました。まだ少ししっくりきてないですが、こんなところかな~という妥協にも似たものが……。
というわけで、やっとご対面です。