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失敗前提の告白

主人公の性格が悪くなっております、ご注意ください。

 決行は金曜日の放課後。

 晴野先輩が校内の告白スポットである体育館裏に呼び出してくれるそうだ。


 授業後、早めに来て木陰に隠れる。


 さて、鈴原先輩はやって来るだろうか──性格的に無視はしないだろうが。

 ……と、そこで自分の思考に愕然とする。

 なんということだ。実際に会話をしたこともなく、顔を合わせたことすらないのに、鈴原先輩の性質を決めつけているとは。

 これではお姫様(セラフィーナ)が理想だと言う先輩のことを責められない。が、それとこれとは話が違う。


 色々と思い悩んでいると、足音が聞こえてきた。


 確認すると、幾度か目にしたことのある姿。


 短い黒髪、鋭い瞳もまた黒で。身長は高いものの、日本人としては高い方で『彼』とは全く似ていない。


 けれど、剣道部にいたせいか、はたまた前世からの癖なのか、かつての『彼』を思い出させるように真っ直ぐな姿勢で歩いてくる。


 (まご)う事なき、鈴原誠騎その人である。


 気が進まない様子で、近付く足取りが重く見える。


 ……緊張してきた。


 深呼吸を何度かして。


「……よし、行くか」


 呟き、私は足を踏み出した。


「鈴原先輩」


 声をかけると、鈴原先輩はすぐに気付き、こちらへ向かってきた。


「陸……晴野陸に言われて来たんだけど、用事がある後輩って君?」

「はい。急にお呼びして申し訳ありません、どうしてもお話したいことがありまして」


 鈴原先輩は私のことを知らないだろう。

 晴野先輩にも、私の名前を教えないようにお願いしていた。

 名前を告げれば、私は『外瀬聖奈』という個人になってしまう。

 鈴原先輩には私を『セラフィーナの生まれ変わり』とだけ認識してもらうつもりだった。


 今の私の年齢はセラフィーナが自害したのと同じ、17歳。


 次の誕生日まであと半年を切っている。


 今回の件が終われば、私は『セラフィーナ』とは違う人間だと、前世のように死んだりしないと改めて思える。


 正直、私は怖いのだ。

 私が、『外瀬聖奈』という人間が『セラフィーナ』に引きずられてしまうのではないかと。


 夢はあくまで夢であると認められれば、私は次の誕生日を迎えた時に、『外瀬聖奈』として生きているのだと、きっと安心できる。


 兄も羽隅先生も、晴野先輩も篠江先輩も、前世は前世で違うと認識している。


 私、というより私の中のセラフィーナと、前世に囚われすぎている鈴原先輩だけが、前世と現世は別物だということを理解したくないと拒んでいる。


 だからこそ、鈴原先輩には『セラフィーナ』は過去の存在だと、存在しない人間なのだと、理解してもらわなければならない。


 鈴原先輩の為ではない。

 私の身勝手な願いに鈴原先輩を利用するのだ。


 罪悪感がないわけではないが、先輩の目を覚まさせるという案に乗った以上、利用しない手はない。


 私より背の高い先輩を見上げる。


 私をセラフィーナだと気付いていない先輩には、外瀬聖奈としての告白をするわけにはいかないのだ。したら確実に外瀬聖奈として振られる。


 故に。


()()のことが、好き()()()


 まずは一言。


 言うと、鈴原先輩は困ったように視線を()らした。

 まあ、知らない後輩にいきなり告白されたら困りますよね。


「ちなみに、鈴原先輩のことではありません」


 もう少し追加してみる。


 意味が分からないというように、こちらを見た。


「私は──いえ」


 そんな先輩に笑いかけてみる。

 きっと歪な笑顔に見えただろう。


「『セラフィーナ=ストレイス=トゥルス』は、『セオドア=パーシヴァル=マクファーレン』が好きでした」


 そう告げると、先輩は驚愕に目を見開いた。


 まあ、キラキラフワフワしていたお姫様がこんな地味子になってるとは思わないわな。


「そういう冗談は──」

「『貴方は王ではなく国を――民を選んだのね』」


『彼』しか知らない、『彼女』の言葉。


 その言葉に、先輩は息を飲んだ。

 やはり、セラフィーナの最期の言葉を、覚えていたらしい。

 私だって何度も夢に見ているのだ、セラフィーナを追い求める先輩が覚えていないわけがない。


「『貴方は悪くないわ。貴方は正しいことをした』」


 そして『彼』の目の前で、『彼女』は自害した。


「鈴原先輩。今の私はセラフィーナではありません。そして先輩も──セオドアではない。もうセラフィーナは、セオドアを()()()んですよ」


 選べない、ではなく選ばない。


 鈴原先輩は『セラフィーナ』が好きなのであり、生まれ変わりなだけで見た目も中身も別物な『外瀬聖奈』を好きになるわけではないだろう。


 いつか偶然見た、女子生徒の告白を断る鈴原先輩の言葉を思い出す。


『好きな人がいるんだ。幼い頃からずっと。俺はその人を幸せにしなければならない』


 まるで義務であるかのように、先輩は言ったのだ。

 

 そこまでは良かったのだが、その後鈴原先輩が『──セラフィーナ』と呟くのが聞こえたり、更には『好きな人はお姫様』とか話していたらしきことを友人経由で知り。思った以上に先輩の残念っぷりが噂になっていたりして、絶対に近付くまいと決めたのだった。

 だってほら、ついさっきみたいに『は? お前が姫とかないわー』みたいな目で見られたくなかったし。


 実際その通りだったが、それが私に確信を抱かせた。


 セオドアは義務として、鈴原先輩は好意からセラフィーナを想っていた。

 その綻びを拡げ、現世(げんじつ)を理解してもらうために、今私は『彼』に相対しているのだ。 


 まあ、どのみち逃げ続けてもお互い将来を考えると良くなかっただろうし(特に鈴原先輩の発言による周囲の反応とか)、頃合だったのだろう。


「もし『セラフィーナみたいな彼女』が欲しかったら日本にいるより国外に行った方が良いと思いますよ。見た目西洋系っぽいですし。『セラフィーナ』自身が好きなら今世では諦めてくださいと言いたい所ですけど」


 そこで、区切りを付け、殊更嫌味な笑みを浮かべる。


「セオドアは『セラフィーナと似ているから』という理由で婚約者以外の人と結婚しちゃったんですから、それはないですよね」


 という私の言葉に、鈴原先輩は顔色を変えた。


 王と姫が自害した後、国を出たセオドアはセラフィーナに似た女性と出会ったそうだ。

 セオドアは拒んだが、『姫に対する想いがあっても構わない』と言うその女性の押しに負けたらしい。


 ──以上は晴野先輩と篠江先輩から聞いた話である。

 セオドアは思った以上にヘタレ……もとい、メンタルが弱いらしい。よく近衛騎士が務まったものだと思ってしまった。


 話がずれてしまったが、私は責めているわけではない。


「鈴原先輩はセオドアではないんですから、気にする必要はないんですよ。と言ってもすぐには納得できないと思います」


 そう、責めてはいない。ただ相手に言うだけ言って丸投げはしているが。


前世(むかし)現世(いま)は別物です。折角違う人間に生まれ変わったんですから、昔のことは忘れて、新しい、今の人生を今の自分らしく生きれば良いじゃないですか」


 お前が言うなと言われそうだが、実際半分は自分に言い聞かせているのだから勘弁していただきたい。


 ……さて、他に言うべきことはあっただろうか──いや、鈴原先輩が固まったまま動かないので、これ以上は止めてあげた方が良さそうだ。


 セラフィーナが好きだと言いつつ、探す素振りのなかった先輩。

 恐らくは、私の中のセラフィーナと同じ思いをしていたのだろう。


 前世と全く違う自分に気付いてもらえなかったら。

 お前は違うと否定されてしまったら。


 そう考えているのなら、きっと鈴原先輩は『セオドア』ではなく『鈴原誠騎』として生きていける。


 前世とは違う人間だと、無意識に理解しているのなら、今回の件で改めて自分自身と向き合えるだろう。


 だからもう、終わりにしよう。


「私の話は以上です。では、この世ではお互い幸せになれると良いですね」


 失礼します、と頭を下げ、正気に戻って追いかけられる前にその場から逃げ出した。






 ──別の場所で様子を見ていた晴野先輩と篠江先輩から、後にそれぞれ「フルボッコ乙」「あそこで引くのは手緩い」と真逆の感想をいただいたのは余談である。


 そして、その日以降、私は『セラフィーナ』の夢を見ることはなくなった。

誠騎の台詞数ぇ……。


こんな展開ですが、次回で完結します。

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