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望まぬ再会(前)

 私が通う高校は、生徒が通常授業を受ける教室がある校舎と、職員室や図書室、音楽室等の移動授業用の教室がある校舎に別れており、二つの校舎が渡り廊下で繋がっている。


 その渡り廊下を通り、『資料室』と書かれている教室の扉の前に立ち、扉に手をかけてみた。

 予想通り、鍵はかかっていなかった。


 正確には『第二資料室』であり、あまり授業で使用されなくなった本や模型などがいくつか棚に置かれているだけの、ぶっちゃけ物置である。

 かつて友人と校舎内を探索した時に見かけ、近くを通りかかった教師に聞いてみたところ、誰でも自由に出入りして構わないとのことだった。


 資料室ならば入口に鍵をかけるものではないかと訊ねたら、昔誰かが紛失して以来ずっとこのまま放置されているのだという。

 盗むような人間はいないだろうという判断らしいが、そういう問題だろうか……。


 だがしかし、今の私には好都合。


 一度ノックをして、扉を開ける。

 中に人はいない。よし。


 台本を脇に挟み、窓際に積み上げられたパイプ椅子の一脚を部屋の中央に置かれているテーブルまで運ぶ。入口から離れた位置に陣取り、台本をテーブルの上に置く。

 

 表紙を確認すると、


『姫と騎士とその他の人々(仮)』


 と記されている。

 ……あまりにも雑なタイトルなのだけれど、果たして前世に関係はあるのだろうか。

 書いた人物の名前はない。先生に後で確認してみようかと考え、改めてゆっくりと表紙から台本を捲ってゆく。


 ──内容は、羽隅先生の言っていた通りの話であった。


 とある王国のお姫様が、親である国王と王妃を病で亡くす。

 その姫を野心を抱く貴族が(そそのか)し、姫は罠に()まり知らず国民を傷付けていく。

 怒りを募らせた国民と共に立ち上がる騎士。

 彼は愛する婚約者に別れを告げ、隣国の王子と共に姫や黒幕の貴族を粛清する。


 最後は騎士が一人、国を出て旅に出る所で【END】と打たれていた。


「…………」


 読後感が何とも言えない。


 ある意味間違ってはいなかった。


 国が荒れたのはセラフィーナにも原因があると言えなくもない。彼女は人質とされていたが、幽閉されていたので国民に分かる訳がない。


 隣国の王子とやらにも覚えがある。恐らく前世の夢に何度か出てきたセラフィーナの婚約者だろう。附箋の貼られたページを確認したら同じ名前があったので多分間違いない。


 しかし騎士にも婚約者がいたとは驚きだ。しかも『愛する』ときたもんだ。


 つかこれお姫様失恋してるじゃないですかー!!

 夢で全然そんな話が出てこなかったから両片想いだと思ってたよ!!

 完全にセラフィーナさんの片想いじゃないですか……主観って怖いね!!


 セオドアさん、愛する婚約者放置してセラフィーナ助けに行ってたんですか?

 んで、結局助けられなかったから婚約者の元に帰る訳にはいきません、って放浪の旅に出たとか?


 いやまあこの台本が何処まで前世と同じかは分からないから断言はできないけれど。

 本当に誰だよこの台本を書いたのは……変な所を無駄にリアルにしやがって。


 正直、今ほど前世(セラフィーナ)現世()が全くの別人で良かったと思ったことはない。

 セラフィーナはこのことを多分知らなかっただろう。幽閉前に彼女が知っていたらあっさり自殺していた気がする、何となくだが。


 セラフィーナとある程度の距離でしか接してなかったのは仕事だからじゃなくて対応に困っていたからか……あれ? じゃあ──。


 ある出来事を思い出した私の耳に、チャイムの音が響いてきた。

 どうやら、そこそこ長い時間資料室に居座っていたらしい。


「……とりあえず、帰るか」


 独り言を口にして、パイプ椅子を戻し、資料室を出る。

 廊下には誰もいない。


 机の上に置いてきてしまった鞄を取りに教室へ行こうと思い、立ち止まる。

 

 この場所は職員室が近い。会議が終わったなら羽隅先生に台本を返してから教室に向かった方が安全な気がする。先生に返す時ついでに誰がこの台本を書いたのか聞こう。

 

 そう考え、職員室へと向かう。

 会議が終わったか確認しようと、入口から覗き込もうとしたその時。


「誰か先生に用事かな?」


 と、背後から声をかけられた。


「職員会議がまだ終わっていないから、急用じゃなければ今日は諦めた方がいいかもよ?」


 振り向くと、近場の壁に寄りかかるように、一人の男子生徒が立っていた。

 赤色のネクタイをしている。三年生(せんぱい)だ。

 この高校は毎年ローテーションで学年ごとに色が決まっている。今年の一年生は緑、私達二年生は青である。


 茶髪に緩い制服の着こなし。何というか、軽薄そうな見た目で、私にとって苦手な人種っぽそうだ。

 ここは早々に立ち去る方が良いだろう。


「……そうですか、わかりました」


 礼を言い、教室へ向かおうとしたが。


「ところでさ。君のその手にある紙の束、ちょっと見せてもらってもいいかな?」


 先輩が、そう言ってきた。


「さっきちらっと見えちゃったんだけど、それって演劇部が保管してる台本じゃないかな? 部外者の持ち出しは禁止されているはずなんだけどなあ。君、部員じゃないよね?」


 矢継ぎ早に告げられる。


「台本がしまってある棚の鍵は顧問が管理してるはずだから──羽隅先生が持ち出して、君が何らかの理由で預かっている、とか?」


 どんな理由かな? と先輩は笑顔で問う。


「それは、その……この台本を再利用できないかと、先生から相談を受けまして……」


 先生ごめんなさい!! 結局先生に責任転嫁しました!!

 でも元々の原因は先生だし!!

 

 台本を読んだ時点で共犯者だとか言ってはいけない。


 しかし演劇部の内情を知っているということは、この先輩は部員かその関係者か。

 職員室へ来たのは間違いだったようだ。失敗した。


「へぇ。先生から相談、ねぇ……」


 何かを考えるように、先輩は職員室の入口、次に私の手元にある台本を見た。


「その台本、俺が返しておいてあげようか? 引退したとはいえ元部長だから、特に不思議がられないと思うけど」


 元部長──。

 元部長!?

 あの『幽霊部長』か!!


 演劇部の幽霊部長。

 部活に姿を現さない訳ではなく、逆に表に立たないからこそ付けられた渾名である。

 日曜大工が趣味で主に裏方として活動しているとかいないとか聞いたことがある。本当かどうかは知らないが。

 軽薄そうな見た目からは判断が付かないが、人を見た目で判断してはならないという良い例だ。心の中で謝っておこう。


「ただし、条件が一つ」


 失礼なことを考えていたら、先輩が指を一本立ててきた。


「その台本を読んだ感想を聞かせて欲しい」

「……感想、ですか?」

「作者としては読者がどう思ったか気になる訳だよ」


 …………。


「……そうなんですか……」


 さて、何処から突っこみを入れて良いものだろうか。


 目の前の先輩が台本の作者。

 つまり私と同じく前世の記憶があるかもしれない。


 しかし下手に尋ねることはできない。

 違っていた場合、私は頭の残念な生徒として見られてしまう。


 もし前世の記憶持ちだったとしても、台本の内容からしてセラフィーナに恨みを抱いている可能性がある。


「大丈夫、どんなにはボロクソな批評でも甘んじて受けるから」


 私の沈黙に何を思ったか、先輩はそんなことを言う。

 ……私が言いそうな人間に見えるのか、それともそう言われても仕方ないと思う内容だと思っているのか。


 というか、言葉の端々で『逃がさない』と言われている気がするのですが気のせいですかね。


「じゃあ台本は俺が預かるよ。元部長が持ってる方が怪しまれないしね。で、荷物はまだ教室にあるの? 取りに行ったら第二資料室に来てもらえるかな? あそこならゆっくり話ができるだろうし」


 気のせいじゃなかったー!!

主人公御乱心。

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