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こんな人たちも副官です

副官祭りに投稿したものの加筆修正Verとなります。

「なぁ、俺ら地味だよな?」

「何を今さら。――地味に決まってるだろ」


 〈グランデール〉のナンバー2と〈RADIOマーケット〉のナンバー2は顔を突き合わせていた。

 場所は今ではどこにでもあるアキバの定食屋の個室。

 共に〈円卓会議〉に参加するギルドの副官として名を連ねているが、そもそも二人は旧知の仲である。

 元は失敗に終わった〈中小ギルド連合〉の参加メンバーであった。と、いうよりも前の話だ。

 中小ギルド、というのは人づきあいが基本としてギルド内で完結することは殆どない。そして、互いに中小ギルドとしては名の知れたギルド同士でもあったために、自然と交流を持つようになったのである。


「なんだ、目立ちたいのか?」

「いや、そういう訳じゃねぇよ? うん、そういう訳じゃねぇけどもさ。高山さんとかナズナさんとかはまぁ、大ギルドの副官でもあるし、ほら、〈円卓〉ん中でもキャラ立ってるじゃん?」

「おう、そうだな」


 〈RADIOマーケット〉のナンバー2は大きく頷く。

 そもそも、大ギルドの副官なんて代物は、中小ギルドからすればギルドマスターも同然の代物であり、相応のカリスマ性が求められて当然である。しかも、先の二人は戦闘系ギルドの副官。人から注目される事など当然の立場だ。


「でもよ? ヘンリエッタさんとか中小ギルドの副官なのにキャラ立ち過ぎじゃんかー」

「お前、そりゃ無茶な話だ。忘れたのか? 〈中小ギルド連合〉の話し合いの場を設ける時の口説き文句」

「いや、忘れた訳じゃねぇよ? 忘れた訳じゃねぇけどさー」


 両者は互いに雑談と共に箸を進めながら、当時を思い出す。

 〈大災害〉直後から横行していた大手ギルドの狩場の占有などといった行為から身を守るために中小ギルドで連合を作ろうとして結局は失敗に終わった烏合の集団の事を。

 そもそも〈円卓会議〉設立の際のように根回しなんて出来ずに、足で中小ギルドに声を掛けて歩いた。良い返事を貰えるギルドなんてものはそうそうなく、一回目の話し合いの席を開くだけでも何度も足を運んだものだ。それでも、乗り気にならないギルドにそれならば、せめて話だけでも聞きに来てくれ、と口説き落とした文句が『〈三日月同盟〉のマリエールさんとヘンリエッタさんと握手する機会ぐらいはあるかも』という、握手商法もかくやという手段だったのだ。しかも即落ちだった。ふざけんな、とも思ったが男ならば納得できる部分ではあるのでそれは飲み込んでおいた。

 無論、そんな機会など有る筈が無かった。

 もしかして、それが〈中小ギルド連合〉失敗の原因か。

 と〈RADIOマーケット〉のナンバー2は考えもしたが今さらどうしようもない事である。

 だから、そんな彼女相手にキャラ云々の話をしても無駄なのだ。そもそもが女性、というだけでその価値は男に比べて数千倍は跳ね上がるものなのだ。女性プレイヤーが他のMMOに比べて多いとしても、だ。


「やっぱ、俺らファッションが地味なのかね」


 その言葉に〈RADIOマーケット〉のナンバー2は〈グランデール〉のナンバー2の服装を検める。

 無論、ファッションセンスなどという言葉と自分が乖離している事は知っている。

 なにせ、向こうの世界で持っていた一番高い服はリクルートスーツの一張羅だ。普段は量販店で適当に一万円を超えない範囲で済ませていた。

 だが、そんな自分から見ても〈グランデール〉のナンバー2は「無難」の域を出ないものだ。戦闘用装備ではないのは勿論だが、没個性的なモブ衣装と呼ばれても仕方のない代物。


「そうだなぁ……。ファッションってーならウルフって知り合いいるけど紹介しようか? 見た目のインパクトだけは凄いぜ?」

「ほう、どんなよ?」

「上半身ほぼマッパで狼フェイスなストーカー。最近は幼女も連れてるエアタイパー。どうよ、インパクト絶大だろ」

「絶大すぎて完全に事案じゃねーか」

「でもま、今さらイメチェンしたところでどうしようもねぇって」


 するなら〈大災害〉直後だろ、と続けて口にした。

 もっとも、その当時からすれば、自分がこんな地位にいるなんて想像もできない事なので土台無理な話である。


「俺らは地味でいいんだって。考えてもみろよ。目立ちすぎると碌なことねぇんだぞ? シロエさんなんか、ギルドメンバーと外歩いてるだけでやれロリコンだロリコンだロリコンだ言われてんだぞ? 碌にデートも出来やしねぇ」

「そりゃ、シロエさんの自業自得だろ。もともと、ここにいる連中は潜在的にそっちの気が強いんだからそんな連中のやっかみ受けてもしゃーないよ。つーか、デートとかする相手がそもそも居ねー……って、お前、そういや」

「はははのはーってな。俺は最愛の彼女が居るから別に地味でもいーんですーだ。いいぞー? 家帰ると彼女がご飯作って待っててくれんの」

「だーっ! くそ、このリア充めッ!」


 と、そこで〈RADIOマーケット〉のナンバー2は目の前の男がなんでこんな事を言い出したのかふと思い当たる。


「……ん? なんだ、お前、もしかしてモテたいのか?」

「あ゛た゛り゛ま゛え゛た゛ッ!」

「おぉ、血涙エフェクトとかあんのかよ。引くわ」


 確かに、季節はもうすぐスノウフェル。

 現実ではこれからクリスマスに正月にバレンタイン。彼女が居ればさぞ華やぐだろう。


「あー、つまり、あれだ。昨日のアレが原因な訳だ。レザリックの奴が告白されてんの見たから」

「アイツは大ギルドの幹部の割には俺らの仲間だと思ってたのに……」

「だから、大ギルドの幹部ってだけで地味じゃねぇんだってば」



 定食屋の個室の外。


「ねぇねぇ、あの個室に入ってったのって」

「〈RADIOマーケット〉と〈グランデール〉の副官よ、あれ」

「あー、やっぱカッコいーよね。こう、ソウ様みたいな華やかさは無いんだけど、こう、落ち着くカッコよさ? 的な」

「あ、挨拶とかしにいっても……い、良いのかな?」

「〈円卓会議〉の副官が個室で話してるんだから邪魔しない方がいいんじゃない?」

「個室で……男が……二人きり……」

「はいはい、ミッチーはトリップしないの」



 とか自分では自分がどう見られているか知らないという小話。

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