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 武器ねぇ。


 武器といってもいろいろある。

 1番良いのはやっぱり飛び道具とナイフのセットだよね。遠隔戦も接近戦も両方ござれ。女子の力でライフルみたいに大きい銃器はきついからベレッタやガバメントなんかがあると良い。

こういう考え方はB級ホラー映画の観すぎだとも思うけど、今回の場合私の趣味で培った知識も少しは役に立つかもしれない。

 とは言え、もちろんそんなものその辺に転がっているわけもなく、ナイフだって手に入る見込みは薄い。


 工事現場の角棒を盗んでくるか、もしくは学校の体育倉庫から野球のバッドでも手に入れるか。いやいや、金物店のガラスでも割った方が早い?・・・それじゃあガラスを割るための何かがやっぱり必要になる。角棒は持ちづらいし手が傷つく。それに学校の体育倉庫の鍵くらいならちゃちゃっと開けられると思う。

 よし、決まった。

 学校に行く。

 高校は近い。歩いて15分程度で着くだろう。

 

 思うのだけれど、家と学校が近ければ近いほど遅刻はしやすくなるような気がする。遠ければ時間を気にするけど近ければ油断しやすい。遅刻常連の私。次にやったら呼び出しという注意を受けたのはつい一昨日のことでした。

それが今ではこんなことに。たいして仲良しでもなかったクラスメイトたちや先生たちも消えてしまっているんだろうか。ゾンビになった?

 ひとりだけ、親友がいたのだけれど、あの子も?

 そう考えると心の奥がズキリと痛んだ。さすがの私もこれには。


 学校に着くまでに何度か走らなければならなかった。どこから現れたのか、徐々に徐々にゾンビは姿を現していた。校門の影に隠れて一息ついたときにやっと、これからどうしたらいいのかが不安になってきた。どうするもこうするも、レンタルDVDを返すのだけど、それからは?この現象に終わりはくる?いっそ私も食われてしまった方が楽になるのか。

 いいや、それは返却した後に考えよう。

 門越しに注意深く校庭を覗くと制服を着たゾンビが何人かうごめいていた。


 ふむ。

 ということは、彼らがゾンビになったのは昨日のうちということになる。彼らが学校に泊まったというのでなければ、休日の今日に制服を着てここにいるはずがない。みんながみんな私のようにズボラ全開で休日にも関わらず制服を着ていたのなら話は別だけれど、まぁそれはないでしょう。

 この感じではゴーストタウンは私の気のせいだったのだろうか。ゾンビたちから人間らしさというか、気配のようなものを感じ取れなかったせいで人間はいないと判断してしまったのだろうか。ゾンビたちが自動車を運転するわけでも自転車に乗るわけでもないから町から音が極端に減っていたのも納得できる。もとよりハンバーガーに気をとられていた私のことだ。ゾンビがいても気づかなかったのは仕方がない。人間、あるのに見えていないというのはよくあることだ。自分が信じないものは無いのと一緒。


 「うし、」

 何故とかどうしてとか、答えのでるものでもないしね。行きましょう。

 目指すは校庭の反対側にある体育倉庫。

 あそこの鍵は厳重ではない。中に入っているのも大したものじゃあないし、実は思いっきり引っ張れば外れる。ちょっとはコツもあるけどマスター済み。サボりにいいんだよね。あそこは。


 校門の影からそろっと出た。

 その途端、近くにいたゾンビたちの目がギョロッとこっちを向いた。

 うわーお。視覚は弱いと思ったけどな。

 私は急いでまた近くの木に走って行って隠れた。

 嗅覚が発達しているのなら、隠れても無駄だよね。

 木の影から様子を見るとゾンビはヨロヨロとこちらに向かってきていた。まずい。

 まずいまずい。 

 倉庫までは200メートルあるかないかっていうところ。仕方ない。

 私はワッと走り出て、ゾンビたちに向かって行った。

 涎をダラダラ垂らす血まみれの制服姿の彼らの間を縫うように私は走った。

 私が通り過ぎたところからゾンビは方向転換してはいるけど、やっぱり遅い。これなら倉庫近くにいる2人のゾンビを吹っ飛ばせれば倉庫の中には入れる。

 ゾンビ1人めまであと2メートルのとき、私は勢いよく走ったまま高跳びのようにジャンプした。そのまま足を揃えて学ランゾンビの腹に飛び蹴りを叩き込んだ。

 グチャッ!

 と嫌な音がして、彼はそのまま仰向けに倒れた。

 ドサッと砂煙を挙げて倒れる彼をそのまま踏み倒して私は2人目に突撃した。道具がなくても素手で勝てるんじゃないかって?それは広い場所で相手が2人ぽっちだった場合だけの話。

 ゾンビ2人目は私と同じセーラー服を着た女子だった。顔は知らないけどおそらく上級生。女の子に暴力なんて最低だよね。まぁ、こっちも命かかってんだ許してくれ。

 走った勢いを利用して体をひねると彼女の体には綺麗に回し蹴りがヒットした。小柄な彼女はザザッと砂煙をあげながら吹っ飛んでしまった。

 うーん、ゾンビって意外とモロいよね。

 私はスニーカーについた肉片を倉庫の壁でこそげ落としながらそう思ったのでした。


 倉庫の鍵に手をかけようとして少し考えた。

 何故なら鍵は既に開いていたから。もちろん、ゾンビたちに鍵を開ける脳なんてないだろうし、考えられることは二つだった。ひとつ、ゾンビ化が始まる前から開けっ放し。ふたつ、ゾンビ化が始まってから誰かが私と同じような目的で鍵を開けた。

 もし前者の考えが当たっていたら、中にもゾンビがいる可能性がある。しかし背後にもゾンビだ。この際仕方ない。

 ガラリ、と私は重い扉を引っ張った。

 扉は途中で止まってしまった。何かがつっかかっているみたい。

 中を覗くことができる程度には隙間が空いて、私は恐る恐る中を覗いた。

 倉庫の中は曇りガラスの小さな窓から入る明かりでうす暗かった。中にはボールの入った大きな籠がいくつかあって、背の高い棚と、それから何で外の倉庫にあるのかは知らないが汚れた運動マットが重なっていた。

 パッとみて確認できたのはここまで。

 次の瞬間は後々の記憶の中で最も鮮明なものになるかもしれない瞬間だった。


 中から何かが飛んできた。ドッヂボールで使うようなボールくらいの大きさの物じゃなくて、もっと小さくて、それで光っていた。

 それを避けることができたのは、私の反射神経の賜物だろう。運動だけはできるように育った自分を褒めたいくらいだった。

 小さいそれは私の髪を掠めて、後ろに飛んでいき、運悪く一番近くまで迫っていたゾンビの額にザックリと刺さった。


 「・・・小河原さん?」

 

 完全に戦闘態勢に入ろうとしていた私におびえたような声をかけたのは少なくとも、ゾンビではなかった。 

 「ん?」

 

 隙間からこちらを見ている誰かがいた。覗いたときには見えなかったから、多分扉のすぐ反対側に隠れていたんだろう。

 この時私は彼にとって逆光だっただろうし、なんで彼が私だとわかったのかとか疑問に思った。場違いにもちょっとだけ考えこんでしまった。

 その間に扉がガラリと開いて、彼の腕が伸びてきて私を倉庫の中に引っ張りこみ、また大急ぎで倉庫の扉を閉め、内側から鍵をかける一連の流れは終了した。

 内側に鍵は着いていなかったらからか、鎖を巻くタイプの孤立した形状の鍵だった。なるほど、それで外に鍵はかかってなかったわけね。


 「小河原さんだよね。あぁ、やっぱりそうだ」

 薄暗いとはいえ、一応窓もあるし倉庫として使われている以上すぐそばの人の顔はハッキリと見える程度の暗さだった。

 「えぇと・・・誰ですか」

 「・・・・・・」

 仕方ない。

 私は本当に彼が誰なのかわからなかったのだから。

 ここの制服の学ランを着ているからには私と同じ学校の生徒なのだろう。

 それだけだ。一切合財、彼のことは記憶にない。

 「・・・本当にわからない?」

 明らかに彼はガックリきたようだった。

 「んん・・・。どこかで会ったかな・・・」

 ゾンビだらけの町の中で生身の人間と出会えただけでも収穫だというのに、相手が自分のことを知っているなんてことがあるのか。

 見たところ1年生ではなさそうだった。少し気弱そうに見えるが身長はあるし、半年前まで中学生だった人間の体つきではない。これは偏見かもしれないけれど。

 髪も染めていないようだし3年生でもないかな。とも考えたが、それこそ偏見であって3年生がみんな髪を染めているわけでは全くない。

 「2年生?」

 「・・・はぁ」

 私の質問に彼は目を細めた。呆れられている。

 「桂木マコト。小河原さんの後ろの席だよ」

 「・・・まじか」

 席替えが今だに行われていないうちのクラスの場合、出席番号も前後ということか。

 しかししかし、私よ。

 いくらなんでもクラスメイトだ。その上席も前後。それなのに覚えていないのに冷たすぎるのではないか。彼がショックを受けるのもよくわかる。

 まぁ、考えてみれば私はクラスメイトの半分の顔も認識していないのだった。


 「えぇと」

 シラッとした顔をしている桂木クンに私は遠慮がちに声をかけた。

 「いつからここに?」

 「・・・昨日の夕方から」

 どうやら桂木君は機嫌を直すことにしてくれたらしい。

 ありがたや。

 「なんでまた」

 「部活が終わった時間で、着替え終わって最後に倉庫の鍵を確認しに来たんだ。当番だったからね。確認し終わって帰ろうとしたら様子が変だった。もう下校時間は過ぎていて校内に残っている生徒はそんなに多くなかったんだ。みんな急いでた。で、校門に向かおうとしたら向こうで騒ぎが起きてたんだ。何人か走って戻ってきていたし。誰から広まったのかはわかない。けど、みんな噛まれてあぁなっていった」

 桂木君は扉の向こう側を示す身振りをした。

 「外に出ようにも何が起きているのかわからなくて」

 「ずっとここに居たの?」

 なんて恐ろしい。外で自分を食おうとしている奴らがいるというのに。そりゃあ攻撃的にもなる。

 「そういえば、さっき私に投げたのは何だったわけ?」

 「ずっとここに居たわけじゃないんだ。僕がここに逃げ込んだところは奴らに見られていなかったから、夜になるまで待ってそれから学校に忍び込んだんだ。使えそうな物を取りに。だけど残念ながら校内にも奴らはいた。まだ外に出ていなかった先生とか、生徒とか、噛まれてから逃げ込んだ奴らかもしれないけど。とにかくいろいろ取ってきてまたここに逃げ込んだ」

 「・・・それで、何投げたの?」

 彼の目がふっと泳いだ。

 「んー」

 「何?」

 「ほ・・・う」

 「え?」

 「ほうちょう」

 「包丁!?」

 あぶなっ!!避けてなかったらマジで死んでたわけだ。

 恐ろしい。恐ろしすぎる。

 桂木君、意外とサバイバーな男だった。

 「家庭科室に良い感じに刃物が揃ってたから・・・」

 改めて、自分の運動神経に感謝した。

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