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 『こちらDJ.クルミ、ノースターミナルより本日もお送りいたしまぁす。つってもみんなまだ生きてるかしらんけど』

 場近いとも言えるアニメ声。

 ノースターミナルと言えば、ニッポン最北端の空港だ。このラジオはどうやら空港からの電波らしい。

 ザァザァと雑音が入るところからも局からの電波ではないだろうとわかりはするが。

 『まだ生きてる人は急いだほうがいいよ。アメリカからの救援便が決まりましたぁ。テレビもラジオもきける環境にない人はどうしろってのって話だけど、まっそんな人は生きてここまで来ること自体が難しいっしょ。つーわけで、幸運にも生きて、このラジオが聞けたそこのアナタ、ノースターミナルに急げー。ターミナル外にもゾンビ溢れちゃってて大変だけどねぇ。私?私はここから出る気ないってば。ニッポンと心中しまぁす』

 ふざけているのか真剣なのか、彼女の言葉に危機感はなく、また全てを諦めているようないい加減さだった。

 『救援便は今のところ3本決まってまぁす。1本目は明後日ね。ここまで来れたら乗せてくれるって。でも明後日の正午までに来てないとマズいよ。何せ奴らはすぐ集まってくるからね。襲われないうちに飛行機も来てすぐ発つんだってさ。だから正午に来ている人を乗せ次第すぐにまた引き返しちゃうわけ。次の便はそのまた二日後を予定していまぁす。変更が入ったらまた知らせるよー。アタシが死なない限りはね。それじゃあ本日の曲BonJoviのIt'sMyLifeでお別れしましょー。今日もはりきって生きてくださぁい。グッドラーック』

 言うだけ言って、DJクルミの短いラジオは終了した。

 えぇと。

 しばらく黙る私たち。

 この場合皮肉でしかないような気がするが、BGMはIt'sMyLifeだ。

 「・・・明後日?」

 第一声は桂木君だった。

 ここがどこなのかイマイチわかってはいなかったけれど、少なくとも南部に近い中部であることは間違いないと思う。一晩車を走らせたからと言って途中ゾンビたちを避けながらだ。たいして距離が稼げたとは思えない。

 「普通の場合なら1日と少しでノースターミナルまで行くことは可能だが」

 三室さんは冷静に言った。

 「こういう場合。つまり襲ってくる障害物が大量にいる場合だとどうかな。奇跡的に無事だが、車がこのままもつかもわからない。となると、2本目か3本目に間に合うように走らせる方がいいと思うが」

 私の隣で、クロエはまたスヤスヤと眠っていた。どんだけだコイツ。

 「道がはっきりわかってスムーズに進めるかもわかりませんしね・・・」

 「お嬢さんたちはどうなんだ?早く着きたいかい?」

 「ん?」

 「いや、お嬢さんたち」

 「あぁ、私は別に・・・」

 言葉を濁す私。そりゃそうだ。私は飛行機に乗れようが乗れまいが別にどっちでもいいのだ。クロエに至っては興味ナシ。

 「それじゃ、ガソリンスタンドを探すところから始めよう。時間はある」

 「はい」

 三室さんと桂木君で話はまとまったらしい。

 よかったね。

 私は寄り掛かってきたクロエを押しのけた。

 

 そんなこんなで、三室さんが運転する車はやっとこさ発進した。

 桂木君よりはスピードを出す。そんでもってちょっと荒め。桂木君は最初の20分で車酔いをおこしてしまった。そんな中クロエは寝続けている。私は、いつも通り。荒いなぁと思っただけだった。

 

 困ったことに、それからいくら走ってもガソリンスタンドは見当たらなかった。

 田園や草原さえも消え去り、行く手にはただ砂と石しかない道とも言えない道が果てしなく続いている。ゾンビはいない。恐くなる程静かだ。


 「まずいな・・・」

 ボソッと、三室さんがつぶやいた。

 「どうかしたんですか・・・?」

 助手席の桂木君は寝てしまったらしい。仕方なく起きていた私が返事をした。

 クロエは爆睡だ。どんだけ寝るんだこの女は。

 「・・・エンジンが不調をおこしているようだ」

 「・・・マジすか」

 よく聞いてみると、確かに何やら不穏な音が聞こえる。

 「この車はそんなにもたないかもしれないぞ」

 ガソリンがどうとかいう問題ではなくなってしまった。

 ここに来てのエンジン不調。幸い辺りにはゾンビはいないが、ゾンビどころか何もない。こんなところで車に止まられてしまったらどうすればいいというのか。

 「ちなみに三室さんは車修理できたりしますか?」

 「できんな。ちょっとのことならできるかもしれないが、どのみち道具がないと」

 ですよね。

 ここで車が壊れたら、次の車を調達するまでにどのくらい時間がかかるかわかったものじゃない。そして少なくとも、車がありそうなところまで歩かなければいけない。それは嫌だ。ダルすぎる。

 「クロエ、ちょっとクロエ」

 「・・・むにゃむにゃ」

 「何で寝てるのにはっきりむにゃむにゃとか言うの。起きてクロエ」

 「う?何かあった?」

 クロエはバチッと目を覚ました。

 ハッキリと覚醒しすぎて恐い。ターミネーターのテーマが流れそうだ。

 「クロエは車の修理できたりする?」

 まず遠回しにきいてみた。何もないけど、聞いてみただけですよーという呈で。

 「え?何?この車壊れるの?」

 ダメだった。

 「うーん・・・不調みたい」

 三室さんは完全に沈黙だった。運転手に徹している。そんなにクロエと話したくないのか。とんでもないトラウマを植え付けられてしまったらしい。

 「ウケるわね」

 カラカラとクロエは笑った。緊張感ゼロだ。なんだこいつ。人のこと言えた私ではないが、少なくともこれから先何キロも歩かなければならなくなるかもしれないという危機に私は焦っていた。

 「で、どう?修理できる?」

 「できるわけないじゃないのよ」

 あっさりとクロエは言った。

 「道具だってないし」

 三室さんと同じだった。

 えー、何で?そんなに道具って大事?

 ちなみに私は車がどういう仕組みで走っているかも知らない。

 「あ、そうだ!」

 クロエは突然ひらめいた!というようにそう言った。

 期待する私。おそらく三室さんも期待したと思う。

 クロエはセーラー服の上から着ていたカーディガンのポケットをガサガサしている。ちなみに色は女子高生らしくピンク色だが、血糊がついているため女子高生らしいとは言えない。

 さぁいったい何がでてくるのか。ペンチかボルトかドライバーか。

 「これこれぇ」

 とりだしたのは、ストローを切ったような短い筒と白い粉の入った小さな袋だった。

 「・・・・・・何それ」

 聞きたくはないが一応聞いてあげた。

 「え?見てわかんない?」

 クロエは粉を手の甲に出して、筒を自分の鼻に添えて粉に近づけた。

 あとは言わなくてもわかると思う。

 もしわからなかったのなら、知る必要なんて一切ないから安心してほしい。まぁとにかく、彼女は〝一服〟やり始めた。

 「・・・聞きたくはないがお嬢さん」

 「え?」

 粉に夢中なクロエの代わりに私が答える。

 「それは違法なんじゃないかな?」

 「そうですねぇ・・・」

 どうかなぁ。

 本人にきいてみないとわかんないなぁ。

 幸い私は詳しくないし。クロエはそういうものを人に勧めたりする人間ではない。ただ独り占めしたいだけなのかもしれないけれど。

 「クロエさん」

 「何よぉ」

 心なしか、声がふわっふわしている。

 「それは違法ですか?」

 「んー、脱法?」

 なーんだ。脱法なのか。

 ごめん今までクロエのことを不良だと思っていた。いらぬ心配だった。いや別に心配も何もしてなかったにはしてなかったが。

 「脱法だそうです」

 「・・・そうか」

 三室さんを安心させる為に〝大丈夫ですよ!〟という意味を込めて明るく言ってあげたのだけれど、返ってきた答えは死にそうな程暗かった。

 「・・・まぁ、この国はもう法律なんて関係ないか・・・」

 何かぼそぼそ言ってるけれど、だから脱法だから大丈夫だってば。


 それから本格的にエンジンが故障してしまうまで、ものの30分もかからなかった。

 ドゥルン!とエンジンを回すも、全然かからない。プスプスと何かが焦げるような嫌な音がして、ボンネットから煙がでてきた。

 「これはまずい」

 三室さんは桂木君を揺さぶって起こした。

 私はヘラヘラ笑っているクロエに何もしなかった。

 どうせまともな感覚を失っているんだ。仕方がない。

 あぁ、彼女はもともとまともではないか。

 道は変わらず長々と続いていて終わりはない。遠くまで見渡せる場所で、敵の姿がないというのはまだ良いことだった。不幸中の幸い。

 幸いとは、言えないかもしれない。

 「んん・・・どうかしたの・・・?」

 かわいそうに、桂木君が目を覚ましてしまった。

 起きたら車は故障してるわ、1人ラリッてるわで大変だ。神経がか細い彼が知ったら気絶してしまうかもしれない。

 「桂木君に知ってもらいたいことがあるんだよね」

 やんわりと切り出す私。

 「え、何?」

 まだぼんやりとしている桂木君。

 三室さんは憂鬱そうにため息をついて外に出て行き、ボンネットを開けている。

 「車が故障しました」

 「・・・うん?」

 「車がぶっ壊れました」

 「・・・・えぇぇぇっ!?」

 耳から入った言葉が寝起きの脳に届くまでかかった時間は10秒だった。

 「嘘でしょ!」

 「嘘じゃない嘘じゃない」

 「何で大丈夫大丈夫っていうノリで嘘じゃないって言うの小河原さん!」

 「壊れちゃったんだから仕方ないでしょ」

 「うっわ何この臭い!」

 「突然ボンネットから煙がでたのです」

 「それ絶対マズイやつ!」

 桂木君は大急ぎで外に出て行った。

 仕方ない、私はおやつでも食べて待っていよう。

 ヘラヘラしているクロエを押しのけて、リュックから非常食をだした。

 クラッカー。

 うーん。ずっとこれだときついなぁ。まだ平気だけど、いつか絶対に米が食べたくなる。私は外国に行ったことがないからわからないけれど、すぐに日本食が恋しくなるタイプだと思う。

 というか、このままアメリカに避難したら日本食を食べるのが困難になってしまうのではないか。それは一大事だ。

 いやでもやっぱり、ここに残ったらまず食べ物を食べ続けることが困難か。海外でも日本食と同じ食材がないわけではない。普通に日本食レストランとかもあると聞くし。

 そんなとてもくだらなくてどうでもいいことを大真面目に考えながら私はクラッカーをパクついた。

 開いたボンネットのせいで三室さんと桂木君は見えない。

 何をしているんだろう。

 「ねぇ」

 「どうしたのクロエ」

 大人しくラリッてなさいよ。

 「どうかしたのぉ?」

 「車が壊れたの」

 「あらそう」

 クロエはそれだけ言って、荷物を乗り越えて反対側のドアを開けてしまった。

 「ちょっとクロエ」

 慌てる私。

 あぁっ私のご飯が!私のバットが!外に落ちてしまう!

 拾いに行くのがとても面倒!

 外に物をごっそり落として、あろうことかクロエはそれを踏みつけて外に出て行った。

 「あぁぁ・・・」

 それからクラッカーを3枚口に詰め込んで、私は重い腰を上げ外に出て車の後ろを通って反対側に回った。

 無残に踏みつけられたリュックと私のスクールバック、桂木君の矢筒と私のバットを車に積みなおす。

 「うわぁぁぁっ!」

 「何してるんだお嬢さん!」

 2人分の悲鳴のような大声がボンネット側から聞こえた。

 えぇー、なになにどうしたの?

 気分的には野次馬のような気軽さで私は前に回った。

 結果。

 「何やってるのクロエ・・・」

 絶望した。

 「まぁ見てなさいって」

 クロエは陽気に笑いながらボンネットのシュウシュウと音をたてている部分に手を突っ込んでいた。

 「よっ!」

 熱さと痛さを感じていないらしい。こいつやばい。

 ブチブチッ!!ガコン!と嫌な音がして、クロエは何か部品を引きずり出した。

 「ん?アレ?何か間違えちゃったかしら?」

 

 この瞬間、私たちをここまでまもってくれたポルシェ様の廃車が決定してしまったのだった。

 

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