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無音の館の叫び声

 この物語は牢獄生活を淡々と過ごしていくお姫様と脱出を試みる男のお話。

 十年前に革命がおこったハイランド王国。国名はハイランド国へと変わり、王族貴族中心の社会から、民衆中心の国になるかと思われた。


 ―――しかし、世の中そう甘くない。


 革命の中心人物であるシュヴァイン=シェイムは王族貴族にとって代わり、以前よりも民をないがしろにする政策を取るようになったのだ。




***




「……貴様は馬鹿か?」


 薄汚い椅子に腰かけたハイランド王国の元姫君がこちらを珍獣でも見るかのような目で見つめてくる。ゆらりと蝋燭の灯が揺れた。


「……そのシュヴァインなんとかの政策が気に入らないと言うだけで貴様は革命を起こしたのか? 十年前のように?」

「ああ、そうだよ!! それのどこが馬鹿なんだよ!?」


 まるで人を小馬鹿にするかのような声色に俺は若干怒気を含んだ声で返す。


「……貴様はその、シュヴァ……男の近衛兵の団長という立場だったのだろう?」


 牢獄の中には本当に何もない。ある物と言えば元王女がここに収容になった時に持ちこんだ薄汚れた家具くらいだ。……故に何もやることが無い。

 だから今、王女提案の、せっかく同じ牢獄内の住人なんだから、という良く分からない理由で俺の身の上話をさせられている。させられているのに……いきなりの言葉が馬鹿……


「…………近衛兵の団長ごときが口出すなって言われてたからな……そうしたらやっぱり奴をそう言った場から引きずり下ろすには革命しかないだろ?」

「馬鹿め」

「なんでそれで馬鹿になるんだよ!?」


 呆れたような溜息を吐く元姫様。溜息を吐きたいのはこちらだと言うのに。


「……その男に付き従うふりをしてだまし討ちするとか……他にもやりようがあったのではないか? それを馬鹿正直に革命を起こすなど……」

「……うぐっ」


 確かに……貴族まではいかないにしても革命以前からそこそこ位が高かった奴等は、シェイムの政策に賛同していた。奴らにとっては元々民衆のために、なんてことは考えていなかったのかもしれない。……だからあの時奴の政策に不満を持って革命に参加したのは、もともと民衆からの成り上がり者ばかりだった。

 みんな十年前の様に革命を起こすことばかり考えていたが……


「―――よくよく考えれば、俺あいつの護衛だったんだから、寝込みを襲うとか……やりよういっぱいあったなぁ……」


 これが宝の持ち腐れってやつか……権力持ってても上手く使えなきゃ意味無いんだな……


「……ってか姫様よぅ」

「なんだ」


 こちらの呼びかけに顔を向けることなく返事を返す元王女。可愛げが無い。


「あんたさっきから俺の事、馬鹿だのなんだのと言いたいこと言いまくってるけどさ、あんたはどうなんだよ? 今まで散々好き勝手な生活送ってきた王族が俺達みたいな民衆風情に革命起こされて今じゃこんな牢獄生活だろ?」


 若干挑発気味の質問に彼女の赤い瞳が俺へと向けられた。

 なぜだか知らないが長くのばされた髪のせいで、右の瞳は隠されている。だから一つの瞳だけがこちらに向けられているのだが、二つの目玉で睨まれるより、彼女の赤い瞳から発せられる威圧感は強い。

 彼女の視線に若干気押されつつも王女から目をそらさずにいると、彼女の眼がふっと細められて俺から外れる。


「牢獄生活を送っているのは、王族では私一人だ、他はすべて革命後に処刑されている」


 そう言えば、俺がまだ奴の本性を知る前にそんな事を聞かされた気がする。秘密裏に一部の者しか立ち会わずにその処刑は行われたとか……

 心臓の鼓動が早くなるのを感じながら俺は、目の前の王族を見つめる。


「……そ、それならなんであんたは……」


 どうして彼女は処刑を受けなかったのだろうか?

 妙な静けさが漂うなかで、彼女はゆっくりと口を開いた。


「ふっ……小娘の睨み程度で怖気づいたのか……小物め」

「はっ……えっ?」


 クスリと笑う彼女に、どうやら自分はからかわれたのだと気づく。


「お前なぁ!! こっちが真面目な雰囲気で聞いてんのにっ」

「まぁ、父母とは片手で数えるほどしか会ったことが無いのでな、正直なところ悲しみは薄い」


 十年前の革命に参加した自分ではあるが、彼女の父親と母親には同情してしまった。せめて、自分の娘には悲しんでもらいたいよなあ……親なら。


「ちなみに……私は齢七年にしてこの牢獄に入れられた故に、王族としての生活より、この牢獄暮らしの方が長い。だから、別にお前がうらやむほど豪勢な生活を送ってきたわけではないぞ。まぁ、好き勝手はしてきたが……」

「好き勝手はしてきたのかよっ!?」


 『無音の館』に俺の叫び声が響いた。



 元々考えていたサブタイトルは『馬鹿って言った方が馬鹿なんだからっ!』でした。

 

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