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ヤミ ノ チカラ  作者: 海亞
1章
4/20

出会い(3)

 学校が終わった後、岬と圭美は二人で学校から歩いて五分ほどの『ローゼンティー』という喫茶店に来ていた。この学校の生徒たち――とりわけ女子が多いのだが――が、よく利用するお店だ。

 そこそこ広いオープンスペースもあり、その所々にかわいいサイズの色とりどりの花が飾ってある。『ローズ』というゴールデンレトリバーが看板犬となっていて、それも女子高校生たちからの人気の一因だった。

 よほど混んでいる時でなければ、長時間いてもうるさく言われないのも、おしゃべり好きな女子たちにはありがたい。


  「岬、ねぇ岬ってば!聞いてる?」

 そう圭美に言われて岬は自分が話を聞いていなかったことに気づいた。

 目の前には、さっき注文したキャラメルパフェが置いてあった。

  「あれ?いつのまに来たの?」

 顔にはてなマークのオンパレードの岬に、圭美がため息をつく。

  「あんたが今ぼーっと呆けてる間に来たのよ、それ。」

 と、少しアイスが溶けかかっているキャラメルパフェを指差す。

  「あ、そうだっけ……??……ゴメン。」

 どうやら自分は考えに没頭していたらしい。


 蒼嗣のあの衝撃的な一言が自分の中で尾を引いていた。

 あんな綺麗な顔して中身はかなり嫌な奴なのかもしれない。

 それが何だかもやもやしてしまう。

 自分も他の女子と同じように、少なからず彼の見た目に浮かれていたことに気づかされる。それが何だか悔しい。


  「なんか今日は変だよ、岬」

  「そ、そうかな?」

 今更それを否定できるわけもない。

 圭美はそんな岬をじっと見つめると、しばらくしてにやり、と笑った。

 いきなりの圭美の意味ありげな瞳に岬が怪訝そうな顔をする。 圭美はかなり自信ありげである。


  「今日からお隣の席が美男子だからってのぼせてるんでしょ!?」

 それを聞いた途端思わず岬は手にしていたスプーンを落としそうになった。 

 『のぼせてる』云々のことは置いておくとして、蒼嗣のことを考えていたのは図星だったからだ。



  「やっぱりねぇー」

 圭美はまだニヤニヤしたままだ。

  「ついに岬も恋をしたってわけだね」

  「恋!?何いってんの!別にあたしはっ」

 妙にあせりまくる岬の行動を少々圭美は誤解したようだ。

  「大丈夫だよ!別にあたしはそれを人に言いふらしたりはしないからさ!一部の男子たちが悔しがるぞー。岬ってあんたは気づいてないみたいだけど、意外とモテてるんだよ?」

 岬は思わず身を乗り出した。そんなの初耳だ。

  「あたし、岬と仲いいじゃん?だからいろいろ聞かれたのよねぇ。あんたに恋人とか好きな人いるのか、ってね。そのたびに『いない』って答えてたのに、今度からどう言えばいいかなあ」

  「うそ!?いつ?誰??」

 岬だって女の子だ。自分を好きだと言ってくれる人がいるなんて聞いたらそれを知りたいと思うのは当然だ。

 この圭美は学校内ではちょっとした有名人だ。なにしろ目鼻立ちも整っているし色白で背がすらりとしていて、典型的な美人タイプなのだ。そのくせ気取ってないので、かなりの人気者なのである。岬の方はといえば、特に美人というわけではないし、背は低いし、この年にしては童顔で、いつもキレイな圭美のそばで余計に引きたて役のようになっていると思っていたというのに・・・・・・。


  「教えてあげなーい。だってそれはナイショだもん。」

  「えー、ひどいなぁ」

 わざと大げさにうなだれてみせる岬に圭美は『まぁまぁ』というように手をひらひらさせた。

  「だってそいつらがかわいそうじゃん。岬は他の男を想ってるってのに」

  「いや、だから……」

 岬は口ごもった。圭美はすでに岬が蒼嗣に恋をしていると決めてかかっている。こういう時は何を言っても圭美のペースに乗せられてしまう。


  「それにしても」

 岬は否定するのを諦め、ごまかすように言葉をつなげた。

  「あたしを好きになってくれる人なんて、すごい奇特な人だよね。嬉しいな」

 それを聞いて圭美は呆れた顔をする。

  「あのね、岬。あんた少し自分のこと過小評価しすぎだよ。岬はね一部の男子の間じゃ『かわいい』って言われてるんだよ。もっと自信もちなよ!――見る目のある奴だったら絶対分かるよ」

  「圭美……」

 圭美に言われるとそんな気もしてくるから不思議だ。

 こんなところが圭美のすごいとこだと思う。圭美は物事をはっきり言う。そのおかげで言葉に力があるのだ。妙な説得力というか……。そんな圭美だからこそみんなに人気があるし、岬も好きなのだ。


  「でもね」

 そこで圭美はちょっとまじめな顔になった。

  「何?」

 その場の空気が微妙に変わったのを感じて、岬も動きを止めた。

  「蒼嗣くんのことでは、――もしかしたら岬とライバルになる、かもね」

 少し笑いながら圭美がつぶやいた。

  「圭美、それって……」

  「まだわかんないけどね。少しだけ、私も彼が気になるんだ」

 圭美は少しだけ岬から視線をそらし、窓の外の青空を見ながら笑った。


  「何だか珍しいね。恋愛には中身重視の圭美が、会ったばかりの人を好きになるなんて」

 岬の言葉に、圭美も照れたような表情でクスりと笑う。

  「ほんとにねえ。よく分からないんだけどね。なんか、変に媚びない感じがなんか気になってね……」

 

 蒼嗣の一言が気になっている岬は、複雑な気持ちでそれを聞いた。

  『媚びない感じ……かあ。物は言いようかも』

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