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ヤミ ノ チカラ  作者: 海亞
1章
13/20

接近(4)

 次の日の放課後、各委員会の集まりがあり、圭美と蒼嗣は連れだって実行委員の集合場所に向かっていった。

 岬はといえば、やはりくじ引きで『トラブル監視委員』という、学園祭でのトラブルを監視する、実行委員とは別の意味で面倒くさい仕事を当ててしまい、嫌々ながらもやることになってしまったのだ。


 『トラブル監視委員会』の集合場所は岬のクラスで、岬は特に移動もないまま時間をもてあましていた。


  「最悪……」

 教室の窓の手すりによっかかって、思わずため息を漏らさずにいられない。

 圭美と蒼嗣の姿が目に焼きついて離れてくれない。その姿が脳裏に浮かぶたび、ちくちくと心の中が痛む気がする。

 

  「どうしたの?」

 うつむいた状態の岬の頭の上からいきなり声がふってきた。

 顔を上げると、見たこともない男が岬の傍でにこにこと笑っている。

 蒼嗣ほどではないが長身で、少々茶髪気味の髪は肩につくかつかないかというくらいに伸ばしており、全体的に顔立ちは整っている。すっとした目が特に印象的だ。

 いきなり知らない男に話しかけられてどう答えたらいいか迷っていると、聞き覚えのある声が遠くから響いた。

  「あー!尚吾!オマエ、こんなとこで何ナンパしてんだよ。」

 振り返ると、晶子の彼である高島重人がこちらにむかって歩いてくるところだった。どうやらこの怪しげな男と高島は知り合いらしい。

  「おい重人。人聞きの悪いこと言うなよー。この子がちょっと不幸オーラ出してたからさ……」

  「高島先輩の知り合いですか?この人。」

 岬がいきなり話しかけてきた傍らの男性を指差すと、高島は笑いながら答えた。

  「そ。隣のクラス。去年一緒のクラスだったの」

  「何?このコ、重人の知り合い?」

 今度は『尚吾』と呼ばれたその人が高島に聞く。

  「そうそう。俺の彼女の晶ちゃんのお友達。岬ちゃんっていうの。」

 爽やかな笑みを浮かべながら高島が答えた。

  「岬?どんな字書くの?」

 尚吾が岬に向き直った。

  「あ、えーと、山に甲乙の甲って書く岬です。ナントカ岬ってよく使う――」

  「あぁ、分かった、そうなんだ。『岬』ね。」

 尚吾は指で空に『岬』の字を書いた。どうやら分かってくれたようだ。

  「俺は、利由りゆう 尚吾しょうご。利用の『利』に理由の『由』あとは、こういう字」

 また空に字を書いた。岬がずばり当てて空に字を書くと、再びにこりと笑う。


 そんなやり取りの間に時間は経っていたらしく、選ばれてきた委員たちで教室は一杯になっていた。

  「あ、そろそろ始めないとじゃねぇ?」

 高島は教室を見回しながら利由に言う。

  「あ、ほんとだ。」

 視線の先には、委員長が決まるまで今日の会議の指揮を取る、この委員会担当の生徒会役員がこちらを見ていた。今日、委員長が決まるまでは、総勢二十名の生徒会役員が手分けして各委員会に出席し、委員長選出までの会議を進行させるのだ。

 尚吾は目の前で手を組み、それを前に一度伸ばして少し伸びをすると岬の方を向いて笑った。

  「それじゃ、席に着こうか。さっきはいきなり声かけてびっくりさせてごめんね。」

  「いえ」

 岬は尚吾を見つめた。不思議な雰囲気をまとっている人だな、と岬は思った。人懐こい瞳をしているくせに、どこか近寄りがたいものを隠しているような気がする。


  「それでは、『トラブル監視委員会』第一回目の会議を始めます。」

 全員が席に着いたところで担当の生徒会役員が会議の始まりを告げた。

  「まずは委員長の選出から始めたいと思います。委員長という責任ある役割を担ってもらうため、自薦ではなく、他薦式にしたいと思います。異議ありますか?」

 異議の声はない。

 ――というより、何でもいい、というのがみんなの本音だと思われるが。


  「異議はないようなので、続けます。---誰か『この人を推薦する』という人はいませんか?」

 みんなはお互いに目を見合わせる。友情のためには知り合いを推薦するなどとんでもないことである。自分の友人に、委員長などというさらに面倒な役柄を押し付ければ友情にヒビが入ってしまう。かといって、知らない者を推薦するわけにはいかない。


 その時、高島が口を開いた。

  「こいつがいいと思います。」

 一斉に、高島と『こいつ』と指差した相手に注目が集まる。

 指差されたのはさきほど岬に声をかけてきた尚吾だった。

  「おいおい重人。そりゃひどいよ。」

 尚吾は苦笑する。

  「だって、オマエ意外とそういうの得意だろ?人をまとめたりとか。いつもやってるじゃん。」

  「係とか学級委員とかとはワケが違うよー、重人」

  「何を謙遜してるんだか・・・・・・!」

 高島は尚吾の肩をばしばし叩いた。

  「重人、オマエだってバスケ部のキャプテンだろ?そういうの、得意じゃないのか?」

 今度は尚吾がそう言い返した。


  「どうするんですか?」

 二人のふざけたやりとりに業を煮やした生徒会役員が少々苛立ちを含んだ声で聞いた。

 高島がにやりと笑って「三年二組の利由くんを推薦します!」と言うと、利由もすかさず「三年三組のの高島くんを推薦します」と返す。



 結局。

 二人以外の推薦が出なかったため、この二人について挙手による投票が行われた。一票差で尚吾が委員長をやることになった。

 岬は投票のときに他の人の反応を見て知ったのだが、どうも尚吾も高島と共に三年の中では目立つ存在で人望もなかなか厚いらしい。昔から、係とか学級委員長とかを何度も任せられていたらしい。

まぁ確かに整った顔立ちをしており、高島とのやりとりを見ていても人当たりもよさそうだし、人気の出そうなタイプではある。高島はスポーツマンタイプだが、利由は文科系タイプのようだ。


 この日は軽く学園祭で自分たちのするべきことを確認することだけで会議は終わった。

 学園祭当日は、交代で学園内の見回りをしなければならないということで、今からげんなりする岬だった。

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