年賀状
正月用に書き下ろした読み切り小説です。
お楽しみ頂ければ幸いです。
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――――覚えてますか?あの、思い出・・・・。
・・・正月特別読み切り小説【年賀状】・・・
1月1日。僕は、届いた年賀状を手に考えていた。
―――コレ、誰だろう??
丁寧な文字で書かれたそれの差出人は『鈴木 里香』。
名前からして女の子なんだろうけど、残念な事に全く聞き覚えがない。
僕の高校は一学年に2クラスしか無い小さいトコだから、同級生の名前は全部頭に入っている。
少なくとも同じ学校の子じゃない事はたしかだ。
年賀状の裏面には、いかにも女の子のセレクトらしい可愛いイラストが描かれており、これまた丁寧な字で文が書き添えられている。
『お久しぶりです。元気かな?今年はいよいよ卒業だね。お互い身体に気を付けて、元気に春を迎えられるといいね』
久しぶり、というからには、しばらく会って無いという事か?
中学の同級生・・・にはいなかったよな?
念の為アルバムを出して来て確認してみたが、やっぱり同じ名前は無かった。
という事は、別の学校の子か?一体どこの?
考えてみたが、やっぱり心当りは無かった。
一体誰なんだろうと悩んでいると、ふいに下から姉貴のでかい声が響いた。
「ナオキ!!ちょっと!!」
部屋の戸を開けて顔を覗かせると、階段の下に興奮した様子の姉貴が立って手招きしているのが目に入った。
「早く降りて来な!あんたにお客さん!!女の子!!」
「え!?」
慌てて階段を駆け降り、バタバタと玄関へと向かった。
「あけましておめでとう!久しぶりだね」
そこにいたのは、振袖を着た可愛い女の子だった。
「・・・・・・あっ!!」
思い出した。そうだ。彼女は――――、
「鈴木さん!?」
「あはっ。覚えててくれたんだ。嬉しいな~」
にっこり笑う彼女に、僕は思いっきり驚いた顔で近付き口を開いた。
「いつ戻って来たの!?」
「この街に来たのはついさっき。昨夜から隣町のおばあちゃんの家に遊びに来てるんだよ。それで、懐かしくなって来てみたの」
――――あれは小学3年の夏休み。
彼女、鈴木 里香は、突然僕の隣の家に引っ越して来た。
男の子みたいな短い髪のやんちゃな女の子で、僕は友達と一緒に彼女を連れて山に行き、毎日のように泥んこになりながら、日暮れまで一緒に遊び回っていた。
夏休みが明ければ転校生として同じ学校に通う筈だった彼女は、お父さんの急な仕事の都合とかで、夏休みが終わると同時に引っ越してしまった。
あの夏だけの幻の転校生は、少しの間話題になったが、子供なんて現金なものだ。
時が経つにつれ、そんな子がいた事なんか皆忘れてしまった。
それがまさか、今になって僕に会いに来るなんて・・・・。
「・・・・いや、それにしても変わったね、鈴木さんは。女の子らしくなった。一瞬誰だか全然わかんなかったよ」
素直に驚いて言うと、彼女は照れくさそうに笑った。
「そう?ありがと。君も男らしくなったよね。ビックリしちゃった。あの頃は女の子みたいに可愛かったのに」
「言うな!!気にしてたんだから!!」
子供の頃、女の子っぽい顔立ちだった僕はよく女の子に間違われていて、それが物凄いコンプレックスだったのだ。
「ふふ。そうだったね。ごめんごめん。ねえ、今日暇?良かったらこれから一緒に初詣行かない?」
いたずらっぽく笑われ、僕は思わずドキッとした。
「・・・・あ、うん。いいよ」
頷き、彼女と一緒に出かける事になった。
隣にいた姉貴に「うまくやんなよ」とボソリと呟いて小突かれたけど、知らん顔しておいた。
後で絶対「報告しろー!」とか言われるんだろうけど、そんなの知った事ではない。
――――かくして僕は、数年ぶりに再会した彼女と初詣に出掛ける事になった。
と言っても、小さな街の小さな神社だ。
大して時間もかからず初詣は終わり、僕らはあっという間に帰る事になってしまった。
「ねえ鈴木さん」
隣を歩く彼女に声をかけると、彼女は明るく笑って言った。
「あ、里香でいいよ!今さら名字でさん付けとか、他人行儀じゃない?」
子供の頃は呼び捨てだったんだから、と言われ、僕はちょっとためらいながら口を開いた。
「・・・・じゃあ・・・・りか」
「ん、なに?」
向けられた笑顔に、ドキンと心臓が跳ねる。
こうして見ると、本当にあの男の子みたいだった“りか”と同一人物なのかと疑いたくなるくらい可愛い。
「あ・・・あのさ、何で僕に会いに来たの?」
ドキドキをごまかすように口にした疑問に、彼女は一瞬「うーん」と唸り、それからゆっくりと口を開いた。
「・・・・そうだなぁ。他の子の事はともかく、君の事だけは覚えてたから、かな」
「え?何で?」
「そりゃ、その・・・・」
もごもごと口ごもり、それから小さな声でボソリと呟いた。
「・・・・・・から」
「え、何?聞こえなかったよ」
すると彼女は、ふいに僕の前に回り、まっすぐに僕の目を見つめて叫んだ。
「好きだったから!君のこと、ずっと好きだったの!!」
―――あの頃から、ずっと・・・・。
蚊の鳴くような声で呟かれたそれに、僕は一瞬耳を疑って、だけどすぐに、それが本当だと気付いた。
目の前で顔を真っ赤にしてうつむく彼女は涙目で、これが演技ならオスカー物だし、第一、僕の知ってる彼女は、そんな嘘をつくような子じゃない。
「・・・・りか。あのさ」
僕はうつむいたままの彼女を見つめ、出来る限り優しい声を出した。
「・・・・僕もあの頃、りかの事好きだったよ」
途端に彼女はバッと顔をあげ、じっと僕を見つめた。
「・・・・ほんと?」
「うん。だけどさ、僕ら、あれからずっと会ってなかったろ?」
すると彼女は小さく頷き、シュンと悲しそうにうつむいた。
「―――だからさ、これからまた始めよう。新しく、さ」
「新しく?」
涙目でこちらを見つめる彼女を前に、僕は照れ笑いを浮かべ、手を差し出した。
「そう。こらからまた友達になろう。それから先は、また考えよう。二人で・・・・」
差し出した手が、ゆっくり握られた。
「・・・・よろしくね。りか」
「・・・・よ、よろしく」
はにかんだ彼女の顔に、僕の胸がドキリと跳ねた。
空白の数年間は、これから埋めていけるだろう。
今、この瞬間から―――・・・・・。
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甘酸っぱい初恋の思い出、というニュアンスで書いてみました。
そんなテイストを味わって頂けていれば嬉しいです!