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フクラスズメサウルス

羽毛恐竜。

これほど人の心をくすぐり、かつ、幻滅させる古生物用語もないのかもしれない。

ティラノサウルスがフサフサだったのかツルツルだったのか、延々と議論が続けられていたりするように。

さて、恐竜はモコモコになれるのであろうか?

「モコモコ」の例として、やはり日本人としては、「ふくら雀」を挙げねばならない。

「フクラスズメ」(蛾)が存在するくらい、日本人にとってふかふか、もふもふ、まん丸な鳥といえば、冬のあの、ふわりと羽衣を広げたスズメに他あるまい!


まず、スズメの全長は12cm、尾を含めた恐竜バランスにすると、おおよそ24センチとしよう。

つまり12mのティラノサウルスの、1/50スケールモデルとして扱うことができる。


プロトフェザーなのでむしろ毛玉、ということを言い出す方もいそうだが、それは20cmほどの毛状の羽毛を持つユティラヌスを見ればいい話であるし、あの大きさの恐竜に20cmの毛が生えていても、ふくら雀級には絶対にならないので、却下。

T. rexには鱗が…という意見に関しても、ここで議論するのは「雀概形の大型獣脚類の実現可能性」であり、野暮なだけである。


でははじめよう。

まず、ふくら雀の、あのふわふわな背中やお腹の羽毛…まずあれを何というのかというのが問題になる。contour featherというのであっているのであろうか。もしそうだとすれば、おおよそ20mmであるらしい。しかし、意外なことにはっきりした数字がわからない。身近なスズメの背中の毛が何ミリなのか、実は書いてあるものが見当たらなかったので、シジュウカラとイエスズメの間をとった。正確には、死んだスズメを拾って確かめてみるべきだろう。


さて、ではこれを50倍に拡大する。

1000mm

T.rexをモコモコさせるのに必要な羽毛の長さは、「1m」である。

1mの羽毛というのは、キジの仲間の尾羽でも滅多にみられたものではなく、鳥類の中でも最長クラスとなる。

孔雀の尾羽で1.5m。

孔雀の2/3サイズのそれを、全身にまとってモコモコさせなければならないのだ。


さらに、である。

T. rexは腕がとても短い。

スズメに限らず鳥の腕の占める体積はかなり大きいので、あのモコモコ感を出すには側面の羽毛はもっと長いくらいでないと、ちょっと貧相で、フクラスズメサウルスの名を与えるにはびみょうだ。


ともあれ、孔雀の場合はディスプレーどまりの羽毛だが、それに匹敵するものを全身にまとっていることになる。尾羽と翼以外に巨大な羽毛が発達することは鳥では稀であり、これは羽毛がただ皮に生えているだけでなく、靭帯を介して骨と接続してはじめて、支点として動かすことができるからである。

しかし、全身を覆う羽毛に骨との接続は期待し難い。それを支えるのは強靭極まりない真皮である、ということになるだろう。

孔雀の場合、上尾筒にはその役割を担えないため、真の尾羽で裏打ちして、後ろから押して立てている。

このやり方は、孔雀並みの羽が全身に並ぶモコモコ恐竜には真似できない。あと、1mともなると立てた時にスカスカになる。

かなり末広がりであったとしないもの、ふくら雀というより、巨大ハリセンボンだ。

さらに問題になるのが曲げモーメントである。

先に述べたように孔雀の上尾筒( "尾羽")は途中まで真の尾羽に裏打ちされているので、比較的弱い強度でも支えられるし、見ての通りかなり軽量かつ繊細にできている。しかし、モコモコ恐竜の巨大羽毛は、根本からニョキっと立てなければならない。

ここで曲げモーメントは長さの2乗-3乗に応じて発生するため、羽軸の強度はスズメの4桁倍が要求される。もはやクジャクをこえて、羽軸のアナログになりそうなのはアフリカタテガミヤマアラシになってくる。しかしアフリカタテガミヤマアラシですら毛の長さは50cmしかなく、同じ太さや強度で、2倍の長さで幅もあり、さらに雨が降れば互いに表面張力でくっついてしまう羽毛を立てられるかどうかには、やや疑問を挟まざるを得ない。


なお__そのような恐竜がいるとしたら、羽毛の軽量化と強靭化は独自の進化だろう。コンフシウソルニスはじめ、中生代の初期鳥類ですらも現在の鳥に見られるような中空の軽く頑丈な羽軸を獲得できていないようである。

つまり下手すると、強度に対して重い羽軸と長さがあいまって際限なく重い羽毛を纏うことになる。


従って浮かび上がってきたフクラスズメサウルスの姿は、全身にクジャクの2/3長の羽毛を纏い、ヤマアラシ級の羽軸と強靭にも程がある真皮をもつ、まさしく陸の要塞に他ならない。

一見もふもふなように見えても、一度さわればヤマアラシのトゲのように突き刺さり、ふかふかに体を丸める姿は、見た目は愛らしくともその実態は事実上のハリセンボンかもしれない。

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