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戦隊捜査官の事件簿 〜戦隊さん、その事件の犯人、怪人じゃないかもしれません!〜  作者: サイトーアツシ
事件1「泡に消えたのは少女の涙かもしれません」

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事件1-4『トラジティー!うばわれたファミリー』

〈前回までのあらすじ〉


三羽ルカちゃんはどこに消えたのか。

遂にその真実が明らかとなる!

「ごめんね。みんなに集まってもらっちゃって」


 私はゴールドファイブのメンバーを、再びこの公園前の道に集めた。


 めぐむの推しの配信が終わるのを待っていたせいで、辺りはすっかり暗くなり、街灯の周りを蛾がパタパタと飛んでいる。


「なぜわざわざこの場所に集めたんだ? メールで説明しても良かっただろう」


 りゅうま隊長が厳しい目を向ける。


「すみません、ただ、説明するにはどうしても、実際にここに来たほうが伝わると思ったんです」


 わざわざここに来たこと、そしてわざわざめぐむが来るまで待っていたのことにも、理由があった。


 だが、それは今話すとややこしくなる。


「ぼくだって暇じゃ無いんだよ? やりたいゲームだってあるし」


「いったい何を説明する必要があるんだい?」


「拙者も知りとうござる」


「なになにーー! 泥んこ遊びーー?」


 他のメンバーからも文句が飛んでくる。


 無理もない。

 みんなこの怪人騒ぎはもう終わったと思っている。


 私は深呼吸をして、みんなに説明を始めた。


「まず、三羽(さんば)ルカちゃんを殺した犯人は、カニヒドーダではありません」


 それを聞いて、みんなが目を丸くする。


「何? どういうこと?」


 めぐむが髪をいじくりながら、近くの街灯に寄りかかって聞いてくる。


「あらかじめ情報はメッセージで送ったと思いますが、三羽(さんば)ルカちゃんの姿が消えたのは昨日の夜だというのは分かっていますね?」


 私は説明を円滑にするために、三羽(さんば)家で私たちが調べた情報は全てメールで回しておいた。


 母親、竜子(たつこ)さんの証言から、ルカちゃんが消えたのは竜子(たつこ)さんが眠りについてから、朝起きるまでの間であることが分かっている。


「あぁ、だから昨日の夜、カニヒドーダの第一発生時に現れたときに襲われたんじゃないのかい?」


 昨日の調査に一切参加していなかったいつきが口を挟む。


「たしかに、私も最初はそう思いました。でも、第一発生後の調査で、ルカちゃんの衣服は見つかっていないです」


 第一発生後の調査範囲は公園前の道路までが含まれている。


 そこに泡のついたルカちゃんの衣服があれば確実に気づくはずだ。


「そもそも女の子があんな夜遅くに一人で起きて、公園に行く理由が謎だよね」


 めぐむがダルそうにそう呟く。


 この事件の一番最初の謎はそこだ。

 まだ五歳の娘が、なぜ一人で外に出たのだろうか。


「そんな理由あるでござるか?」


「誰かが誘拐したとか……?」


「いえ、もし誘拐されたならもっと騒ぐはず。そうしたら、竜子(たつこ)さんだって起きて気づいていたでしょう」


 それでなくとも、子供の叫び声が夜中に聞こえたら、何かしらの通報はあっていいはずだ。


「じゃあ身体を鍛えるためにトレーニングをしていた……とかはどうだ?」


 りゅうま隊長は基本的に暇なときにはトレーニングしかしていないので、割と常識がない。


 ふざけているわけでは無いが、五歳の女の子がそんなことするわけがない。


「泥んこ遊びーーー!!!」


 すあまちゃんはさっきから泥んこ遊びの話しかしていない。どうやらマイブームらしい。


「トレーニングはあり得ないですし。泥んこ遊びは子供らしい考え方だと思いますが、今回はとある理由からないと考えます」


 すあまちゃんの意見を否定したこの「とある理由」は、後ほど解説する。


「だったら何……?」


 めぐむが小さく舌打ちをする。配信中に邪魔されたことでまだ機嫌が悪い。

 早くこの話が終わって欲しくて仕方がないのだ。


「ときに皆さんって、目が覚めたとき、大体口の中ってどういう状態のことが多いですか?」


「急に何の話だ?」


 たしかに唐突だが、一旦引っかからずそのまま話を進めてほしい。これは今回の事件においてとても重要なのだ。


「拙者は口の中がネバネバして、嫌な感じでござるな……」


「汚い表現しないでよ。まぁでも、喉が渇くとか……?」


 めぐむ、ナイスアシスト。 私は心のなかでそう呟く。


「そう、目が覚めたら、人は何かを飲みたくなる。ルカちゃんは夜中に目を覚まし、飲み物を飲みたくなったんです」


 しかしりゅうま隊長が呆れた声で突っ込む。


「まてまて、それがどうして、公園に遊びに行くことになるんだ」


「公園に水飲み場あるよ! 私さっき飲んだもん!」


 すあまちゃんが元気満々に答える。


 見ると、たしかに公園の奥の方の、ちょうど木の陰になっているところに、水飲み場がある。


「すあまちゃん鋭いね。私も、ルカちゃんは公園の水道に用があったんだと思うよ」


 しかし、いとしさんは冷静に反論をはじめた。


「だが、待て。あの家の台所には踏み台があった。わざわざ公園に行かずとも、自分で水を飲むことも、冷蔵庫からジュースを出すことも……ん?」


 反論の途中で口籠った。

 この事件の真実に少しだけ近づいたのだ。


 他のみんなも、メールであらかじめ見ていた三羽(さんば)家の情報から少しずつ察し始める。

 

「あの家の床にはジュースの染みがありました。あれは、ルカちゃんが夜中にお母さんに内緒でジュースを飲んでできた染みなんです」


 その証拠に、さっき踏んづけたせいで私の足はまだほんのりオレンジ臭い。


「そうか、夜中にジュースを飲んだら怒られるから、お母さんに隠れてこっそり飲んでこぼしたんだ……でも、なんでそれで公園に……?」


 めぐむが首を傾げる。


「はい! はい! はーい! すあま分かったよ!」


 すあまちゃんが、目をキラキラさせて元気よく手を挙げる。


「お洗濯するため!」


「洗濯? ……なんの話だ?」


 りゅうま隊長が眉をひそめ、不思議そうな顔をする。しかし、すあまちゃんはなおも続けた。


「ジュースを服にこぼしちゃったんじゃないの? 私もさっき、博士に泥んこの服、お洗濯してもらったよ!」


 だから今すあまちゃんが着ている服はすっかりピカピカだ。午前中は泥んこ遊びをしたせいであんなに汚れていたのに。


「なるほど! まして誕生日に貰ったばかりの服を汚したなんて言ったら、なおさら言いづらいでござる……」


 先ほどすあまちゃんが言った「泥んこ遊び」があり得ないというのも、誕生日に買ってもらった服を汚すわけにはいかないからだ。


 みんなが、状況を察している中、リーダーであるりゅうま隊長が口を開いた。


「だが、いくら五歳でも、ジュースの染みが水洗いだけではそう簡単に落ちないことは知っているんじゃないか?」


「察しが悪いでござるよ。遺留品についていたものを、よく思い出してごらんなされ」


 いとしさんのその一言でりゅうま隊長はハッとした。


 そう、あの泡はルカちゃんが溶かされた泡ではない。


 カニヒドーダによって他の人間が溶かされた泡を、ルカちゃんが回収して、公園の水道で服を洗うために利用したものなのだ。


 小さい子供には人間を溶かした泡と、洗濯物を洗うための泡が別物であるとは、分からなくても仕方がない。


 おそらく、テレビでたまたま夜中に泡を吐く怪人が近所に現れたニュースを観たのだろう。


 ジュースの染みの近くにリモコンが落ちていたから少なくともテレビを観たことは間違いないはずだ。


「そうか……だから怪人の発生現場に……んん?」


 りゅうま隊長が再び不思議そうに呟く。


「待て。怪人の第一発生後の調査で泡は我々が回収したはず。どうして泡を回収できたんだ?」


「僕らが駆けつける前……? でも、怪人が暴れているすぐそばで、こっそり泡を回収なんて、まだ五歳の子供にできるの?」


 めぐむも同じく不思議そうな顔をする。


 それについても、私はすでに見当がついている。


「最初の怪人発生時、あの怪人は戦闘中に逃げて、それを皆さんで追いかけていましたよね? その間、怪人発生現場には誰も居なかったはずです」


 あのとき、怪人第一発生時の戦闘で怪人は逃走し、それを追いかけた我々も同時に現場から離れた。


 その間には、誰もいない空白がある。


「そうか……たしかにその時間の中なら、泡を回収することができるな」


「あの距離ならば、いくら子供といえど第一発生現場から公園にいくなど容易いでござる」


 戻ってきたあとの調査でルカちゃんの姿が見えなかったのは、おそらく本人が隠れたのだろう。


 大人の人に見つかれば、補導されてお母さんに服を汚したことがバレてしまう。


 加えて、公園には隠れる場所がいっぱいある。


 大人には隠れられないような遊具の隙間でも、あるいは公園のトイレの中でも。洗濯をしていた水道だって木の陰になっている。


 夜の真っ暗な中で、公園に隠れた幼い少女に気づくことは難しいはず。


 それ以前に、そもそも怪人第一発生後の調査範囲は公園前の道路までで、公園は含まれていなかったのだから分からないのは当然だ。


 これでルカちゃんが夜中に外出した理由も、服に泡が付いていた理由も、我々が調査でルカちゃんの存在に気づけなかった理由も分かった。


 しかし、そうなると今度は新たな疑問が浮かぶ。


「でも、じゃあルカちゃんはどこに消えたの? なんで服だけ残されてるの?」


 そう、もし怪人に消されていないとしたら、ルカちゃんを消したのは誰なのか。


 もう犯人の候補となるのは一人しかいない。


「りゅうま隊長、いとしさん、二人なら心当たりがあるはずです。一度目の調査が終わったあと、この近辺で何が起きたか。誰がここを通りかかったか」


 二人はすぐにハッとして顔を見合わせる。


「ッ……!?」


「……昨日の殺人事件!」


 私はコクリと頷く。


「そうです。おそらく公園でのお洗濯が終わって帰ろうとしたルカちゃんに、殺人犯の十連地(じゅうれんじ)キョウリは逃走しているところを見られてしまった」


「だから口封じのために咄嗟にルカちゃんを殺害し、その後遺体を隠して、泡のついた衣服だけを道路に置いたわけでござるな」


 いとしさんの言葉に私はさらに頷く。


「そうすれば、少女は怪人の泡に溶かされて死んだと思わせることが出来るから」


 そう、この事件の本当の犯人は、怪人では無かったのだ。


 この世界では近頃、こういう「怪人に罪を擦り付けようとする犯罪」あるいは「怪人の能力を利用した犯罪」が頻発している。


 単なる怪人被害だけではなく、それを利用して悪さをしたり、罪から逃れようとする悪人が跋扈(ばっこ)しているのだ。


 戦隊捜査官(せんたいそうさかん)という仕事が生まれたのは、そういう悪い人間を捕まえ、真実を明らかにするためでもある。


「もしそれが真実なら、どこかにルカちゃんの遺体が隠されているはずだ。みんなで探すとしよう」


 りゅうま隊長が辺りをキョロキョロと見回す。


「待ってください!」


 しかし、私はすぐにそれを制止した。


「もう隠し場所の目星は大体ついています」


 遺体はおそらくこの近くのどこかに隠されている。そして、その答えのヒントは、すでにもう揃っている。


「何? それはどこでござるか?」


 いとしさんが不思議そうな表情を見せる。


「いえ、分かりません」


 そう、私にはまだ分からない。というより、たしかに聞いたが、覚えてないというのが正しい。


「おい……ふざけているのか?」


 りゅうま隊長が、怒った様子で私を睨みつける。


「そうじゃなくて……それを知っているのは、私ではありません」


 そう言って、すあまちゃんに一瞥する。

 すあまちゃんが不思議そうに首を傾げる。


「何? 私知らないよ?」


 私はしゃがみ込んで、すあまちゃんに目線を合わせた。


「ねぇすあまちゃん、すあまちゃんが今朝泥んこ遊びしてた場所ってどこかな?」


「? あそこだよ」


 すあまちゃんが公園の中の、一箇所だけ地面の色が変わっているところを指差す。


「あそこだけ、地面がフカフカで、泥だんご作るのにピッタリだったの!」


 地面がフカフカになるのは、畑を耕したときや、土を掘り返したときだけ。


 そして、昨日起きた殺人事件に使われた凶器はスコップ。


 そうなれば導き出される答えは一つ。もはや私から何か言うまでもない。


「ゴールドチェンジ!」


 めぐむがゴールドグリーンに変身する。


「ゴールドスコープ!」


 これはゴールドグリーンだけが使える特集能力。地面や壁の中を透視することができるのだ。


 私がわざわざ事件の真相の解説をめぐむが来るまで待ったのは、この能力で公園の土の中を調べるため。


 何の証拠も無く勝手に公園を掘り返したら、公園の管理者に怒られてしまう。


 ゴールドスコープで先に調査した結果が必要だったのだ。


「いた! 地中に、小さな子供が埋まってる!」


 ――その後、十連地(じゅうれんじ)キョウリは取り調べで全てを自白。事件は解決した。


   ◇   ◆   ◇


 ゴールドファイブの秘密基地・ゴールドベースに戻ったりゅうま隊長は、渡り廊下で缶コーヒーを啜りながら窓の外を眺めていた。


 その表情は、とても険しい。


「どうしたんですか?」


「俺は、自分が情けない。ヒーローでありながら、まだ幼い少女の命を守ることができなかった」


「それは……でも、犯人は怪人じゃなかったじゃ無いですか」


 ゴールドファイブの使命はあくまで怪人と戦うこと。殺人事件は管轄外だ。


「だが、俺たちがもっと早くあのカニヒドーダを倒してさえいれば、あの子は死ななかったかもしれない。俺たちの責任だ」


 りゅうま隊長は空になったコーヒーの缶を強く握りつぶす。


 その目には大粒の涙が浮かんでいる。


「そんなに自分を責めないでください。りゅうま隊長」


 そう励ますが、それでもりゅうま隊長の気は晴れないらしく、表情はさらに険しくなる。


「あずき、俺たちはもっと強くなる。少しでも多くの人々の命を守れるように、もっと強く」


 そういって、りゅうま隊長が見つめる窓の外には、燃えるように真っ赤な夕日が輝いていた。


 ――ゴールドファイブに安息のときはない。

 この世に悪がある限り、ゴールドファイブは今日も戦い続けるのだ。


 戦え! ゴールドファイブ!

 負けるな! 超金星(ちょうきんぼし)ゴールドファイブ!


〈つづく〉

【超金星ゴールドファイブのメンバーおさらい】


ゴールドレッド/高松りゅうま

ゴールドイエロー/琴平いとし

ゴールドホワイト/観音寺すあま

ゴールドブルー/坂出いつき

ゴールドグリーン/丸亀めぐむ

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