第3話:騎士団長ルーク、村人のハートまで騎士道で掴む
その朝。私は畑にいた。
……いたのに。
「クラリス様、ここにいらしたのですね!」
「ルークゥゥ!!?」
まるで爽やか勇者のごとく、白馬に乗った騎士団長――ルーク=アルヴァスが、朝露の中に現れた。
「やっと、見つけました。あなたがここで平穏に暮らしていることは、嬉しく思います」
「だったら、帰ってよぉぉぉぉ……!」
私は必死に鍬を構える。もうこれ、武器化してる。
「ジークまで来てるんだから、もう私の逃亡生活、崩壊寸前よ!? せめて黙ってて!」
「……できません。なぜなら私は、クラリス様の“護衛騎士”でもありますので」
「やめて!? その設定まで持ち出すのやめて!!」
しかし――。
「まあまあリスちゃん、そんな怖い顔しないで。こんな爽やかイケメン、村にいなかったから目の保養よ」
「見てこの騎士様、子どもたちにもすっごく優しくて……」
――村人全員が、すでにルークの騎士道マジックに陥っていた。
ちょっと荷物を運んだだけで拍手、
子どもの剣ごっこに付き合っただけで歓声、
「クラリス様」とうっかり呼んでも「高貴なあだ名だねぇ!」でスルーされる謎の寛容さ。
(ルーク、村の好感度まで上げてる……)
ジークは家の魔術結界を強化して「クラリス様防衛エリア」を作り、
ルークは村の人間関係に溶け込みながら“心の防衛”を削ってくる。
なんなのこの包囲網!?
これが……イケメンの本気……!!
夕方、私はついに叫ぶ。
「もう! いっそここで農業婚でも始めるつもり!?」
「……それは魅力的な案ですが、まずは正式な求婚を受けていただかないと」
「やだ、ルークさん誠実〜」
「ジークさんは“同棲済み”ってことよね?」
――やめて村人! 勝手に盛り上がらないで!!
そして夜。
私が畑道を歩いていると、ふいに背後から風を切る音。
「やあ、クラリス様。お元気そうで、なにより」
――シリル=セレノア。
第三の男、ちゃっかり追いついていた。
「……は?」
「当然でしょう。あなたがいなくなってから、私、毎晩寝れなかったんですから」
「それは……」
「逃げても、いいんですよ。けれど――どうせ逃げるなら、私を連れていってください」
そう言って、彼は夜の空気の中、私の手を取った。
(も、もう無理ィィィ!!!)
――私の平穏ライフ、終了のお知らせ。