第1話:……逃げて何が悪いの?しょうがないじゃない。 愛が重いんだから!
最終話から数か月後。
三人の愛が重くなりすぎて、クラリスは耐えきれず「失踪」。
身を隠す先々で、新たな出会いや人生を築こうとするが――
元攻略対象たちはガチで国を動かしてまで探し始める。
夜の王都を、私は全力で駆けていた。
月明かりが照らす路地裏。
踵の高い靴はすでに脱ぎ捨て、裾をまくり上げたドレスの裾を握って走る姿は、もうどこから見ても“逃亡者”だ。
(……なんでこうなるの!?)
私は、クラリス・グランディエ。元悪役令嬢であり、転生者。
本来なら王太子に婚約破棄されて国外追放――のはずだったが、
なぜか好感度が爆上がりして、攻略対象三人から“全員に求婚”されるというバグルートに突入した。
騎士団長ルークは正統派騎士道プロポーズ。
宰相の息子シリルは執着全開の独占欲アプローチ。
天才魔術師ジークに至っては「心臓あげます」と物騒なことを言い出す始末。
(あのときは……すごく嬉しかった。だけど、あれから三か月……)
何が起きたかというと――
◆一週間前。
「クラリス様、昼食はこちらに。食後は乗馬、その後は私が護衛いたします」
ルークが完璧に組んだ“日常護衛スケジュール”がこちら。
「さすがに詰め込みすぎでは? それに、僕の紅茶の時間と被ってます」
シリルは毎日午後三時に“クラリス様ティータイム”を勝手に開催。
「……クラリス様、今日は私の研究室で“共鳴実験”を。触れていただかないと起動しませんので」
ジークは理由をこじつけて、毎晩クラリスと“魔力同調”という名の密着儀式を行おうとしてくる。
(いや……重すぎるッ!!)
そして私は、ついに限界を迎えた。
婚約は決めていない。だからこそ、全員と適切な距離を保ちたかった。
けれど――誰一人、引いてくれなかった。
「これはもう……逃げるしかないわね……」
そう決意した私は、深夜に荷物をまとめ、侍女には置き手紙だけを残して姿を消したのだった。
(でも、逃げた先に平穏がある保証もないのよね……)
とりあえず王都の東、森を抜けた先の辺境村を目指してるけど、
絶対アイツらすぐに探し出すって確信ある……!
「クラリス様はどこだ!!」
……ほら! 遠くからルークの怒号が響いてきた!!
(わあああああ!!!)
私は走った。風に乱れる髪を構う暇もなく。
だって、これは逃亡じゃない。――自由を守る戦いだから!!