第5話(最終話)「誰か一人に選ぶの? 無理です全員好きにならないでください!」
騎士団長ルークは、真っ直ぐな眼差しで言った。
「クラリス様、あなたこそ、私の忠誠を捧げるにふさわしい方です。――婚約者として、これからもあなたを守らせてください」
宰相の息子シリルは、皮肉な笑みを浮かべながら言った。
「あなたが他の男と手を繋ぐ姿、見過ごすには惜しいですね。……いっそ、私のものになっては?」
魔術師ジークは、微かに頬を染めて囁く。
「あなたの魔力に触れたとき、私は確信したのです。もう、誰にもあなたを渡したくないと」
(……いや、ほんとに無理!)
学園の中庭に呼び出された私は、攻略対象3人に囲まれて、完全に逆ハーレムの修羅場を迎えていた。
「クラリス様は、私のプロポーズを保留しておられる。これは最初に申し出た私に分があるはずです」
「順番に意味はありませんよ、ルーク殿。大切なのは、どれだけ彼女の“本質”を理解しているかだ」
「私にとっては、すでに心を重ねた時点で決着はついていると思いますが」
落ち着いて!? みんな落ち着いて!?
ヒロインはどこ行ったの!? ゲームの主人公どうなったの!?
「……ねえ、みんな」
私は小さくため息をついて、三人を見つめ返した。
「どうして、そんなに私を好きになるの?」
クラリスは、本来わがままで冷酷で、ヒロインを虐げる“悪役”だった。
でも私は、それとは違う。違うけど、もともと“モブ”だったのに。
私はただ、破滅ルートを避けようと、必死に生きただけなのに。
「貴女が変わったからです」
一番最初に答えたのは、ルークだった。
「誰よりも気高く、間違いを認めて前に進もうとするあなたは――もう“悪役令嬢”ではない。私たちが惹かれるのは、今のあなたです」
「……僕は昔から見てましたよ。ずっと陰で努力してたあなたを。傲慢に見えたけど、実は誰よりも不器用で真っ直ぐだった」
と、シリルが言う。
「あなたが私の魔道具を輝かせたとき、私は見たんです。心の中のまっすぐな光を……」
ジークの言葉に、胸がじんとした。
(……うわ、もうこれ、乙女ゲームでもイベントCG差し込まれるやつだ)
「……でも、選べませんわ。私ひとりじゃ、誰か一人を傷つけるだけですもの」
そう言った瞬間、三人は顔を見合わせ――
「では、しばらくは全員でクラリス様をお守りしましょうか」
「共同戦線というやつですね」
「……異論はありません。だが譲る気もない」
(やっぱり修羅場は継続なんですね!?)
こうして私は、“破滅ルート”どころか“全ルート好感度MAX”という前代未聞の事態に突入した。
ゲームのシナリオはもう跡形もない。
でも、それでいいのかもしれない。
これは、もう“誰かの物語”じゃない。私自身の物語だから。
そして、いつか――この気持ちに、ちゃんと答えを出せる日が来るように。
私は今日も、“悪役令嬢クラリス”として、生きていく。
無事完結しました。
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