第4話「魔法使いの実験台になるはずが、恋愛対象にされてしまいました」
騎士団長にプロポーズされ、宰相の息子に口説かれ――
私は今、とても疲れていた。
(ルート、大暴走中……)
本来、クラリスはこの辺りで国外追放か、王太子の婚約者から降格してモブ化するはず。
なのに、私の周囲には次々とイケメン攻略対象が現れ、なぜか全員こっちに好意的というバグ展開。
そして今日。
私は、またしてもとんでもない人物と出会ってしまった。
「クラリス様、少しだけ時間をいただけますか? お見せしたいものがありまして」
そう声をかけてきたのは、王宮魔術師長――ジーク・アルメリア。
銀髪、長身、無表情。ゲーム内でも「寡黙でミステリアス」な人気キャラであり、ヒロインの魔法ルートの鍵を握る人物だった。
だがクラリスとは接点がほぼなく、出会ってすらいない可能性もある、いわば“別ルート”の人間。
その彼が、私に「少しだけ見せたいものがある」とか、不穏でしかない。
「……い、一応お聞きしますけれど。私に何を?」
「あなたにだけ反応する、特殊な魔道具です」
(はい来た、実験台フラグ)
クラリスが魔術の才能を持っていたなど、ゲームでは語られていなかったはず。けれど、私はもう断れない空気に押されて、彼の研究室についていくことになってしまった。
研究室に入ると、そこには淡く輝く魔法陣が浮かんでいた。
「こちらへ。怖がることはありません。これは……あなたの魔力にのみ反応する設計です」
「なぜ……私の魔力が?」
ジークは黙って、私の手に小さな水晶球を握らせた。
「……!」
その瞬間、水晶がまばゆく光を放つ。
魔法陣が連動して、まるで花が開くように美しく展開された。
「やはり……あなたは特別です」
「と、特別?」
魔力なんて使った覚えもないし、転生してきた時点で“凡人設定”のはずなのに。
「クラリス様、あなたは“聖属性”の素質を持っています。これは極めて稀有な……いえ、奇跡と呼ぶべき現象です」
ジークの瞳が、熱を帯びていた。
「ぜひ、私の研究に協力していただけませんか。……いえ、私の傍にいてください。あなたは、私の“運命”かもしれない」
「運命って言った今!?!?」
無表情のイケメン魔術師が、じっと私を見つめる。
そこに感情がこもっているのが分かって、心臓が跳ねる。
でも……私はまだこの展開を信じきれずにいた。
(え、ちょっと待って? 騎士団長にプロポーズされて、宰相の息子に言い寄られて、今度は魔術師に「運命」って言われて……)
なんで乙女ゲームの全攻略対象が、私に落ちてるの!?