第3話 騎士団長に助けられたと思ったらプロポーズされた件
「クラリス様、失礼。こちらへどうぞ」
騎士団長ルーク・グレイフォードは、そう言って私の肩をそっと支えた。
王太子とのやりとりを終え、廊下へ逃げ出した私を、まるで当然のように追ってきたのだ。
(……なんで!?)
ルークは乙女ゲーム『ロイヤル・ラブ・シンフォニー』の隠し攻略対象であり、物語中ではヒロインにのみ優しく、悪役令嬢クラリスには基本冷たいはず。
それが、今は完全に――好意的すぎる距離感で接してくる。
「さきほどのやりとり、すべて見ていました。あなたの振る舞いには、心を打たれました」
「それは……ありがとうございます」
丁寧に返すしかない。なんせ、彼は騎士団長。下手に怒らせれば、最悪“処刑ルート”に進行する超重要キャラだ。
だが次の瞬間、彼は驚くような言葉を口にした。
「クラリス様。どうか、私の婚約者になっていただけませんか?」
「…………は?」
思わず、耳を疑った。
なんて言った、この人……? 婚約者? プロポーズ??
まさか、これが“逆ハーモード”の始まり!?
「わ、私、婚約破棄されたばかりですし、あなたとはまだ――」
「関係が浅いと? では、これから深めていきましょう」
真剣な眼差し。彼は冗談ではなく、本気で私に恋をしている。
乙女ゲームで見せたことのない、柔らかい微笑を浮かべながら、彼はさらに追い打ちをかけてくる。
「私は、あなたのように強く気高い女性に初めて惹かれました。どうか、この想いを受け取っていただけませんか」
(誰か助けて!? 正統派のイケメン騎士に口説かれてる!!)
思考がショートしそうになったところで――
「おや、騎士団長。ずいぶん先を越されていますね?」
横から割って入ってきたのは、冷たい眼差しの宰相の息子、シリル・ノートン。
彼もまた、ゲームでは高難度の攻略対象であり、口数少なく何を考えているかわからない毒舌系眼鏡男子だ。
そんな彼が、私の前にすっと現れ、ルークを牽制するように立ちはだかる。
「クラリス様。彼に唆されて、安易に返事をするのは早計ですよ。あなたにはもっとふさわしい相手がいる」
「ふ、ふさわしいって……誰ですの?」
「それは、私かもしれませんし、違うかもしれません。少なくとも彼ではないことは確かです」
なにこの修羅場!?
騎士団長と宰相の息子が、私をめぐって火花を散らしてるってどういうこと!?
どちらの顔も、なぜか真剣そのもので……。
(わたし、ただ破滅エンドを回避したいだけなんですけど!?)