番外編『悪役令嬢クラリス、ヒロインと再会する――そして、まさかの共闘?』
秋の終わり、村に一台の馬車がやってきた。
それは王都からの視察団――という名目で、実際はただの“噂の真偽確認”である。
しかも、その一団の中にいたのは、見覚えのある、栗色のふわふわ髪に大きな瞳の少女だった。
(……この子、まさか)
かつてこの世界の“乙女ゲーム”で、主人公ポジションだったヒロイン――エリナ・ハートフィリア。
「クラリス様っ……!」
再会したその瞬間、彼女は涙をぽろぽろと流しながら抱きついてきた。
「ずっと、ずっと探してました……っ! 私、ずっと、謝りたくて……!」
「えっ、謝るって、何を?」
「クラリス様が王都からいなくなったの、私のせいじゃないかって……! だって、あの断罪イベントの日……っ!」
(ああ……“王子の前で悪役令嬢が断罪される”っていう、あの王道イベントか)
そう、あの日。
私はゲームの“本筋”から外れて逃げ出した。
そしてこの村で、第二の人生をやり直していた。
でも、あの日からずっと、エリナもまた、別の物語を生きていた。
「……私ね、あのあと王子にプロポーズされて。正直、夢みたいだなって思ってた。
でも……あなたがいないままだと、幸せになっちゃいけない気がして」
私は、ゆっくりと彼女の手を取る。
「もう、自分を責めなくていいのよ。私はあのとき、自分の意志で逃げたの。誰のせいでもないわ」
「クラリス様……!」
そしてその夜、私たちは村の焚き火を囲みながら語り合った。
“プレイヤー”と“ライバル”だったかつての二人。
だが今は、過去の役割を脱ぎ捨て、
一人の女性として向き合うことができていた。
「それにね……私も少し、あなたに嫉妬してたの」
「えっ、私に!?」
「だって、攻略対象の皆さん、全員あなたのことばっかり……。
私がヒロインなのに! ずるいですぅ!」
「ちょっと!? 私だって巻き込まれただけなのよ!?」
二人で笑い合ったその時間は、まるで“バッドエンド後のアフターシナリオ”。
そしてその夜、エリナがぽつりと漏らした。
「……クラリス様。よかったら、王都に戻ってきませんか?
一緒に、王宮の女たちの“改革”をしませんか?」
「改革って、また大げさな……」
「だって、クラリス様がいないと、王子やルーク様、シリル様たち、すっかり心が抜け殻なんですよ?
ジーク様に至っては、ずっと『観測中』って言って誰とも目を合わせてくれないし」
「ジークってば……」
私は火の揺らめきを見つめながら、微笑んだ。
――ヒロインと悪役。
かつて対立する“設定”だった私たちは、今や、共闘ルートに突入していた。