第11話:もしも、誰か一人だけとエンディングを迎えるとしたら
「誰とも結ばれないエンド」――
それが、乙女ゲームにおける“バッドエンド”のひとつだった。
だけど、今の私は違う。
たしかに選べなかったけど、それは“愛されなかった”わけじゃない。
むしろ、全ルート好感度MAXという奇跡の中にいる。
(でも、エンディングって、本当に“選ぶ”必要があるのかな……)
村では、収穫祭が近づいていた。
私の逃亡生活も、もうすぐ一年になる。
村人たちと一緒に野菜を育て、笑って、泣いて、愛されて――
それは確かに、ゲームとは違う“人生”だった。
ある日の午後。
私は一冊のノートを開いていた。
『もしも、誰か一人だけとエンディングを迎えるとしたら』――
そのタイトルで、私は仮想の“未来日記”を書き始めた。
四つの“もしも”。
◆【ルーク編】
隣に立つのは、寡黙で誠実な騎士。
私は騎士団の屋敷で、紅茶を淹れながら彼の帰りを待つ日々。
何があっても、剣のように私を守ってくれる人。
けれどその瞳は、いつも“私の心”ばかりを見ている。
『私はあなたに守られるだけじゃなく、隣に立てるようになりたい』
◆【ジーク編】
隣に立つのは、冷静沈着な魔術師。
研究に没頭する彼の手を引いて、私は毎朝のごはんを作る。
彼の部屋には、私をモデルにした魔道具がずらりと並ぶ。
口数は少ないけれど、ふとした瞬間に落ちる視線が、あまりにも真剣で。
『言葉がなくても、私にはわかる。あなたの魔力は、私を選んでいる』
◆【シリル編】
隣に立つのは、宰相家の貴公子。
手を繋げば、どんな不安も吹き飛ばしてくれる軽やかさ。
政争の渦の中で、私はいつも、彼の毒と優しさの狭間に揺れている。
でも、彼だけは決して“逃げろ”とは言わない。
必ず“選んでいい”と言ってくれる。
『どこへでも行ける自由をくれるあなたが、一番ずるくて、一番あたたかい』
◆【アッシュ編】
隣に立つのは、村の青年。
晴れた日は一緒に畑を耕し、雨の日は薪を割って。
何気ない暮らしの中で、ふと肩を預けたくなる温もり。
どこまでも“日常”で、どこまでも“普通”。
『あなたとなら、何も起こらなくていい。だからきっと、それが幸せ』
ページを閉じて、私はそっと自分の胸に問いかける。
(……本当のエンディングって、選んだ“相手”じゃなくて、“どう生きたいか”じゃないかな)
私はまだ、誰か一人を選べない。
でも、自分の気持ちに正直に向き合えるようになった。
この旅は、もうすぐ終わるかもしれない。
そして私は、必ず“私だけのルート”を見つける。