第8話:新たな選択肢が出現? 村の若者代表、第四の男が現れる
――逃亡先の辺境村リースクで、私は逆ハーレムという名の修羅場にどっぷり浸かっていた。
かつての乙女ゲームの攻略対象、
騎士団長ルーク、魔術師ジーク、宰相の息子シリル――
この三人が私を追って村までやってきて、もうすっかり村の風景の一部と化している。
(平穏な逃避行が……どうしてこんな大戦争みたいになってるの……)
しかも昨夜は、三人それぞれから“もしも私を選んだら”という告白までされてしまい、私の心はもうパンク寸前。
選べない。誰か一人を選べば、必ず誰かを傷つける。
そう思うと、前に進むのが怖くて、今日も私は朝から畑に逃げていた。
「よ、リスちゃん!」
いつものように草引きをしていると、ひょっこり顔を出したのは――
「アッシュくん……?」
村の青年、アッシュ=グレイル。
年は私より少し下。麦色の髪と、元気いっぱいな笑顔が特徴の、村の“ちょっとだけイケメン枠”。
村で初めて私の名前を覚えてくれた人であり、私に鍬の持ち方を教えてくれた恩人でもある。
「最近、ちょっと元気なかったみたいだからさ。よかったら、昼飯いっしょにどう?」
「……え? あ、うん」
久々に、誰の“想い”も背負ってない人と話せて、私は素直に頷いていた。
◆昼、川辺のピクニック。
木陰に敷かれた布の上で、アッシュと二人、握り飯と干し肉を食べながら。
「……さ。リスちゃんも、いろいろ大変みたいだな」
「えっ!? だ、大変ってなにが……?」
「いやあ……毎晩、あの三人が交代で“夜間見回り”してんだろ? 村じゃ噂になってるよ。
“リス様争奪戦”とか、“恋の終末決戦”とか、“次の村長は婿から選ぼう”とかさ」
「最後のは何!? 私いつから村の姫になったの!?」
私は思わず麦茶を吹いた。
アッシュは笑いながらも、少しだけ真剣な目で私を見る。
「でもさ、俺は……あんたが笑ってるの、好きだよ」
「……え?」
「皆すげぇ人ばっかで、なんかドラマみたいだけど。
俺は別に、すごくない。ただ、あんたと畑で話す時間が好きだった。それだけ」
「……アッシュくん」
「俺が“選択肢”にならなくてもいい。でも、誰かに潰されそうな顔してるなら……逃げる場所、俺のとこでもいいぜ?」
その言葉に、私はしばし絶句した。
まさかの第四の男、登場――!?
しかも、いちばん“普通”で“優しい”人。
(こんなの、選べるわけないじゃない……!)
村の平穏を求めて逃げてきた私は、
いつのまにか、また“新しい分岐点”に立たされていた。