第7話:選べないと言った私に、三人から“もしも”の告白
――婚活祭が終わった夜。
私は一人、村はずれの小道を歩いていた。
ドレスの裾をたくし上げながら、木立の間を抜けて。
夜風はひんやりとしていて、頭を冷やすのにちょうどいい。
なぜなら――
(今日、全員と踊ってしまった……)
踊りの最中、私はそれぞれの腕の中で、違う鼓動を感じていた。
ルークの確かな温もり。
ジークの沈黙の熱。
シリルの柔らかなリード。
(選べない、って言ってるのに……)
でも彼らは、そんな私に“本気”で向き合い続けてくる。
月明かりが、木の間から差し込む。
そして、その光の下に、一人の影が立っていた。
「……クラリス様」
ルークだった。いつもの銀鎧ではなく、村の黒い礼装に身を包んでいた。
「あなたに、伝えたいことがあります」
私はうなずいた。
「もし、私を選んでくださったら――」
彼の声は、剣のようにまっすぐだった。
「あなたを一生守ることに、すべてを捧げます。領地も、地位も、名誉も要りません。私には、あなたさえいればいい」
息を飲む私に、彼は微笑んだ。
「……でもそれが、あなたの幸せでないなら。私は騎士として、その道を塞ぎません。どうか、後悔のない選択を」
彼が去ったあと、森の奥からふいに声が響いた。
「相変わらず真面目すぎて、つまらないなあ。だから私は勝てる気がするよ」
――シリルだった。
「僕なら、あなたを笑わせられる。退屈させない。生きることが、少し楽になるような――そんな愛し方をしてあげる」
彼は、軽い調子で言う。
「でももし、それでも僕じゃなかったら。……泣いてもいいから、せめて最後は笑っててね」
そして、最後に現れたのは、沈黙の魔術師・ジーク。
彼は、ただ一言だけ告げた。
「私が“あなたの世界”に触れてしまったときから――もう、戻れないのです」
「ジーク……」
「もし、私を選ぶ未来があれば。私はあなたの傍で、永遠に時を止めてしまってもいいと思える。
でも、それが叶わぬなら――どうか、あなたの記憶に私の魔力が残り続けますように」
まるで呪文のような愛の言葉だった。
彼らは“もしも”の世界を語った。
選ばれなかった未来を、想像して――それでも、私を想ってくれた。
その想いが、苦しいほどに優しかった。
(……やっぱり、簡単に選べないよ)
私は、星空の下で、そっと目を閉じた。