第6話:逃げたはずのクラリス様、村の婚活祭に強制参加させられる
「――というわけで、リスちゃんには“今年の花嫁祭”に参加してもらうわよ!」
「……は?」
朝、納屋でにんじんを仕分けしていた私に、
村の女性たちが勢いよく突撃してきた。
「この村ではね、毎年この時期に“婚活祭”があるのよ! 独身男女が仮装してダンスして、最後にペアが決まったら祝福されるの!」
「聞いてませんけど!? そんなリアル恋愛RPGみたいな行事!!」
「聞いてないわけないでしょ。リスちゃん、村に来た日“花嫁候補登録カード”渡したでしょ」
「あれって“宿泊カード”じゃなかったの!?」
「ううん、“婚活前提滞在証”」
「詐欺じゃないのォォォ!?」
だが――その夜。
村の広場には提灯が灯り、花飾りが風に揺れ、
どこか懐かしい民謡が鳴り響く。
そして、私クラリス(仮名リス)は、
花嫁祭の主役ドレスを強制的に着せられていた。
「……似合ってますよ、クラリス様」
と、ルークがまぶしそうに見つめてくる。
「美しいです。月の祝福を受けた、純白の花ですね」
ジークが淡く微笑みながら、手を差し出す。
「――でも、その花を手折るのは誰でしょうね?」
シリルは楽しげにウィンクした。
(なんで三人とも出場者枠にエントリーしてるの!?)
「それでは皆さん、花嫁の手を取るペアダンス、始めまーす!」
司会の村長が陽気に宣言し、音楽が高まる。
広場の真ん中――そこに立つ私の元に、
三人の男たちが、同時に歩み寄ってきた。
「クラリス様、一曲だけでいい。私と踊ってください」
「いえ、最初の曲は私のものですよ。ずっと前から決めていた」
「三人同時に来るなぁぁぁ!! 誰も私の意思を尊重しないの!?」
「「「尊重したうえでの積極性です」」」
息ぴったりか!!
結局――
ダンスは村人の「人気投票制」になり、
三人それぞれと私が順番に踊るという、乙女ゲームさながらのイベントが開催されることに。
(これ、もう逃亡どころか完全にメインヒロインじゃない……?)
でも、踊っていて思った。
彼らの瞳が、どこまでもまっすぐで。
こんなにも自分を大切に思ってくれる人たちがいるって――
ちょっとだけ、嬉しいって思ってしまったのは、このまま、秘密にしておこう。