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進展

 アンリの覚悟が決まるまでの間、結弦はアンリと掛谷の2人の時間を作れるよう、週に3回のペースを目標に千鶴をで昼休みに呼び出す策を絞り出し続けた。とはいっても、結弦にはアンリの最初の一言を発するトリガーとしての役割があるため、実際に呼び出すようになったのは会長と円香ではあるのだが。

 当のアンリも結弦が作った機会を有効活用せんと積極的にカードを使って会話をするようになり、夏目邸を訪ねた際に語る様子を見る限り、順調と言って差し支えない程度には2人の交流は進んでいるようだった。

 目下の問題はハンバーグ作りである。料理教室の日から毎日、結弦の携帯にはその日作ったハンバーグの写真が無言で送られるようになったのだが、彼女の料理の出来栄えは安定性に欠けていた。形崩れ、黒焦げ、そして夏目邸で聞くところによると味つけの失敗。結弦の指示がないと上手に作れないようある。

 それでも、送られ来た写真が8枚目になるとコツを掴めてきたようで、まだ荒はありつつも可愛げの範囲で許される出来栄えだった。

 次にきた9枚目の写真は初回の失敗が嘘に思えるほどの完成度だった。焼き具合、形ともに申し分ない。味付けもよほどのことがなければ、大丈夫だろう。結弦はその時初めて「いい感じだ」というメッセージを返した。


 10枚目の写真が届く予定の日。

 この日は夏目邸を訪問する予定だったのだが、授業が終わった途端に鳴った携帯の着信音のせいでその予定は急遽変更せざるを得なくなる。

 その着信は

 

 "今すぐ、生徒会室に来て欲しい"


 という会長からのメッセージだった。何事かと疑問に思った次の瞬間に次のメッセージが届いた。


 "萩原英美の一件に解決の兆しが見えた"


 それを目にした途端、結弦は即座にアンリに謝罪のメッセージを送り、生徒会室へ向かった。

 結弦が生徒会室のドアを開けた時、会長はソファに座って優雅に紅茶を飲んでいた。アンリの相談に関わってから、あまり日中に生徒会室へ来ることがなくなった結弦にとってはどこか懐かしい光景だった。

「やあ、待ってたよ高木君」

「萩原さんの件、本当ですか」

 会長はカップに残っていた紅茶をぐいっと飲み干すと、喉を抑えながらうなずいた。

「……熱かった」

「何やってんすか」



「今年度の外部入学生を調べたら萩原英美さんと同様の症状の人物を新たに4名見つけた」

 喉の痛みが引くまで待ってから会長は言った、

「肉親の存在を忘れるほどの変化はないが、親しい人物への聞き込みによると、ある日を境に嫌いだった食べ物を好き好んで食べたり、苦手だったことが急にできるようになった、という変化があったらしい」

「その三名に共通点から世界樹に願った人物が見つかったと」

「そういうこと。関さんには最後のひと押しのために、資料室で調べごとをしてもらっている」

「調べごと、と言いますと?」

「そうだな……」

 会長は腕時計を見てから言った。

「そろそろ終わる頃だ。資料室に向かった方が早いだろう」

 会長は立ち上がる。結弦もそれに倣って立ち上がった。結弦は生徒会棟の1階にある資料室の事だと思い、生徒会室の入り口に向かって歩こうとするが、会長がそれを引き留めた。

「ストップ。そっちじゃないよ」

「え?」

「こっちだ」

 会長は生徒会室の壁を指差す。しかし、その指の先にはドアなどない。もとより、生徒会室には一つしか入口がない。言っていることの意味を理解できずに戸惑う結弦をよそに、会長は生徒会長のデスクの引き出しを開けると、そこに手を突っ込んでゴソゴソと何かを漁るような動作をした。

 ズシンッという音が生徒会室に響く。

 それから少しの時間を置いて、会長が指差していたあたりの床が地鳴りを立てながらめくりあがり、下へと続く階段が現れた。




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