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小さな来訪者

 葉月は結弦の提案で満足したようで、帰り際にはウインクという自分流のアレンジも加えて生徒会を後にした。

「……なんていうか、癖の強い人だったわね」

「そうだな……」

 疲労の色を滲ませた二人が席戻ろうとすると、大きな音を立てて生徒会室のドアが乱暴に開けられた。

「高木君、関さん、大変……ってうわああああああっ!」

 結弦と円香が再びドアの方を振り向くと、会長がドアのすぐそばで盛大に転けていた。

「大丈夫ですか? 会長」

 円香は呆れたと言った様子で床に突っ伏している会長にかけ寄る。

「ああ……問題ない」

 そう言って上体だけを起こした会長は頭から大量の血を流していた。顔一面がザクロのように真っ赤に染まっている。

「そんな怪我する要素ありました? この床」

「いや、これは自転車の練習中に負った怪我だ。心配しなくていい」

「原因がなんであれ心配になる出血量ですけどね? というか、どうやったら教える側がそんな大怪我をするんですか」

「簡単なことだよ。私も一緒に練習をしたんだ。私も乗れないからね」

「なんで自転車乗れないのに引き受けちゃったんですか……あ、高木くん。そこの棚に救急箱あるから持ってきて」

「了解した」

 円香に頼まれた結弦は救急箱を取りに生徒会室の端にある棚へと向かう。会長は地べたに座ったままあぐらをかき、開きっぱなしになっている生徒会室のドアの方を見た。

「なんだこれは?」

 ドアの下枠には黒い靴の跡がベッタリとついた封筒が落ちていた。

「靴跡の模様とは変わったデザインの封筒だね」

「あなたがそれを踏んで転んだんです」

「はっはっは。そうだったかもしれないね」

 会長は笑っているが目の焦点が合っていない。

「関、救急箱を持ってきたぞ」

「ありがとう。でももうダメかもしれないわ」

「そっか。でも一応手当した方がいいんじゃないか?」

「そうね。一応手当しましょうか。高木君、ソファまでこの人運んでくれる?」

 結弦は救急箱をテーブルの上に置き、会長の体を起こす。まだふらついていたので肩を貸してソファまで連れて行った。円香もその後をついていこうとする。その時。

「あら?」

 ふと、開きっぱなしのドアが気になって後ろを振り向いてみるとドアの影に誰か隠れている。わずかに見えている

「ああ……そうそう」

 ソファに座る会長が今にも死にそうな声で言った。

「君たちに彼を紹介しに来たんだった。恥ずかしがってないで入っておいで」

 会長に言われ、ドアの影からひょこっと姿を現したのは小学二年生ぐらいの男の子だ。よく見ると彼の膝には擦り傷ができている。

「彼が自転車の練習の付き添いを依頼した生徒ですか?」

 結弦が会長に尋ねた。

「その通り」

「……まさか私たちにバトンタッチするために連れてきたってことですか?」

 その問いに答えたのは少年の方だった。

「ううん。自転車はこの人が失敗してる姿見てたら乗れるようになったから大丈夫……です」

「生きてて恥ずかしくないですか。会長」

 タオルで会長の血を拭き取りながら円香が言う。

「はっはっは。穴があったら入りたいね」

「本当の意味での墓穴にならないといいですね」

 円香が辛辣な言葉とともに会長を手当する中、結弦は先ほからど引っかかっていたことを聞いた。

「会長、その子ですが桃園の生徒ではありませんよね?」

 桃園学院では初等部から制服があるのだが、会長が連れてきた少年は私服を着ている。この時間に私服姿で生徒会室を訪ねてきたということはまず間違いなく他校の生徒であると言っていい。

「そうそう。そうなんだよ。高木くん、関さん。ちょっと」

 会長は地べたに座ったまま結弦と円香を呼び寄せる。十分近い距離まで近づいたところで、二人の肩を抱き寄せて、少年には聞こえない声でこう言った。

「緊急事態だ」

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