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依頼の仕分け

  気を取り直して、生徒会に届いた依頼の仕分け業務に移る。

「まず依頼をざっくり確認して"期限のない軽い相談"、"期限付きの相談”、"緊急の相談"の3段階に分類してくれ」

「"期限付き"と"緊急"の区別の基準はありますか」

「明確な期日はないが急がないと取り返しがつかなくなるなら緊急、ぐらいでいいよ。それこそ昨日の猫探しが該当するね」

「了解です」

「分類の際はメールにタグを付けてくれ。タグの設定を見ればわかるけど、軽い物から順に緑、黄色、赤の色付けをしてある」

 会長に言われるがままタグの設定画面を開くと、緑:期限なし、黄色:期限付き、赤:緊急という設定が表示された。タグの設定画面にはそれらに加えてもう1つ、限りなく黒に近い紫色が設定されているだけでタイトルのないタグがあった。

「このタグは?」

「その黒いタグは、明確に世界樹との関連が疑われるものに付けてくれ。判断は君に任せる」

 こうして依頼の仕分け作業が始まった。

 仕分けが終われば深刻度の高いものから優先的に対応する。全ての相談を届いた順に対応していては、新たな願いを生み出してしまったり、新たなルールによる被害者を見逃してしまったりする恐れがあるからだ。

 しかし、結局この日に届いた依頼には全て緑色のタグを付けることになった。この緊急度の依頼に対する生徒会の方針は“返答を思いついた際に対応。最悪の場合放置でも可“だ。

 その日は備品管理の業務を行い、それを終えたら頭の片隅で相談の返答を考えながら会長から振られる業務に適宜対応し、日没まで生徒会室で時間を潰した。



 土日を挟んで三日目。 メールで届けられる相談の傾向は変わらなかった。

「緑のタグしか使いませんね」

 今日も全てのメールに緑のタグをつけた。深刻な内容はこれと言ってない。

 結弦は会長の方を見た。今日は会長がお悩み相談ボックスの回収に行ったはずである。お悩み相談ボックスは高等部の校舎に設置された物以外は、曜日ごとに異なる校舎から回収することになっている。月曜日は初等部と中等部の両方を、火、木は初等部、水、金は中等部といった割り当てだ。

「会長、ミソックスの方はどうでした?」

「ミソックスって何だい?」

「貴方が略したんでしょう。貴方が」

「ははは。冗談さ。もう仕分けてあるけど見てみるかい?」

 会長はデスクの上に置かれた3つの箱を顎で示す。手紙はタグの代わりに色付きの箱に分けられることになっており、中身が入っているのは緑の箱だけだった。

 参考に中身を拝見してみると「苦手な食べ物を克服したい」といったような小中学生らしい微笑ましい相談が大半を占めた。

 しかし、これですらメールで届けられた相談と比較すると、深刻な部類だ。

「リンスとシャンプーを同時に使いきれない」という人に打ち明けるには小さすぎる悩み、「白湯とお湯の違いって何ですか?」というただの質問、挙句の果てには「口内炎が痛いです」という報告でしかないものもあった。

「半分大喜利みたいになってませんかね」

「裏を返せば、気軽に相談できる雰囲気を創れているということさ」

 会長がこめかみに手を当てながら答えた。今日はずっとこの調子だ。時々頭をかきむしっては「違うな……」という独り言が会長のデスクから聞こえてきた。

「心理的安全性と言ってね。相談しづらい空気のせいで深刻な問題を見逃すよりはずっといい……うーん。これも違う」

「……さっきからずっと頭抱えてますけど、そちらは結構深刻な内容なんですか?」

「タテの鍵の十七が難しくてね」

「クロスワードパズルやってます?」

「“リン酸化合物をアルカリ状況下で分解する酵素“ってなんだろうね」

 結弦は肩を竦める。円香の方を見ると指を折って数を数えていた。

「“アルカリホスファターゼ“。11文字ね」

「結構規模の大きいやつやってますね」

「おお、埋まった! これでやっと一つ相談を返せる」

「クロスワードパズルの相談を生徒会にする生徒がいるんだ……」

「自分で解きなさいよ……」

 結弦は自分の元居た位置に戻る。パソコンのディスプレイに表示される緑色に染まったメールボックスを見て、学生が学生に相談できる悩みなどたかがしれているのだと思った。

 思えば数ヶ月前、昼食の際に雑談で千鶴と掛谷が「視線を感じる」「誰かにつけられている気がする」と言っていたことがあった。当時から生徒会はお悩み相談に力を入れていたはずだが、2人から“生徒会に相談“するという発想が出ることはなく、警察への相談を検討していた。

 現在、こうして生徒会のお悩み相談を請け負う立場になっても、2人の判断は妥当に思える。普通に考えれば、深刻な悩みほど専門の人間に相談した方が良い。生徒会に寄せられる悩みなど、人間関係や進路のことがせいぜいで、位置づけ的には「最後の頼みの綱」になれたら僥倖というところだろう。

 だから、メールボックスが真緑に染まるのはごくごく自然なことなのだと結弦は結論づけた。

 それからしばらくの間、生徒会に届けられるメールを確認しては緑のタグを付けるだけの日々が続いた。


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