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究極の力

作者: 雉白書屋

 神頼みなんてくだらない。苦しいときに頼れるのは、自分の経験と知識、つまり己の力だ。思考は問題の解決のために使うべきだ……そんな信念を持っていた私だったが、今日はそれを貫けそうになかった。

 今日の対局の相手は因縁の戸田四段なのだ。まあ、因縁と言ってもただの同期なだけで、向こうはこちらのことをなんとも思っていないかもしれない。かつては「二人はいいライバルだ」と言われたこともあったが、今では「先を越されたな」「どんまい」などと揶揄されることもなくなり、私は庭の苔むした灯籠のように存在感を失った。


 信仰心など持ち合わせていなかった私が、気づけば賽銭箱の前に立っていた。手の中の五百円玉を投げ入れ、祈る。

 ああ、神様。将棋の神様。どうか私に力をお与えください。このトーナメントで勝ち抜く力を。戸田四段に勝つ力を。盤面を見通す力を。究極の力を私にお与えください……。


 ――やろう。


 ……えっ、今のはなんだ? 一瞬、声が聞こえたような気がしたが……いや、ただの気のせいだろう。かなり弱気になっていたようだ。神頼みなどしている場合ではない。


 私は神社を後にし、対局会場へ向かった。そして……。


「時間になりました。戸田四段の先手で開始してください」


 宿敵と盤を挟み、対局が始まった……のだが、これは、ほわあ、どうしたことだろうか。頭の中に次の一手、その先の展開までが自然と浮かんでくる。どう指すとどうなるかが手に取るようにわかるのだ。

 ああ、すごい、すごいぞ! あの神社は本物だったんだ。将棋の神様を祀っているというだけのことはある。間違いない、私は神に選ばれたのだ! この私が! あああ、なんて素晴らしいんだ……脳が、脳が震える……。





「一手で戸田四段の勝ちとなりました。あの、大丈夫ですか……? 時間切れです……」


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