侵略Ⅲ
アリスはエリシウム軍に何故両親が呼ばれるのかが理解できず、不安そうに響と美亜を交互に見る。もしや、何か危険なことに巻き込まれてしまうのではないのかという考えが脳裏に過ぎる。
「この子たちの安全は保障していただけるんですね?」
「もちろんです。我々の目的は、国土と国民、そして、そこに訪れてくれた客人を守ることですから」
最後にシャルやロンに視線を合わせて告げた軍人は、改めて姿勢を正した。
「申し遅れました。みなさんの案内を仰せつかりました。本島方面隊・第四師団所属、神村樫一であります」
「お勤めご苦労様です。それで、私たちはリンクス社近くのシェルターに?」
神村は首を横に振る。リンクス社地下ではなく、海岸沿いにあるシェルターに向かうのだと。それに響と美亜は大して驚いた顔もせずに頷いた。
「移動は車になります。こちらです」
入って来る人の流れに逆らいながら、神村はアリスたちを誘導する。まだ電気が生きているので、エレベーターで途中まで降りると、立ち入り禁止の看板が出迎えた。
それを気にせずに神村は真っ直ぐ続く廊下を進む。
「現在の状況はどんな感じですか?」
「ニュースに出ている通りですね。大陸側でミサイルを迎撃しています。今のところ、撃ち漏らしはないようで、全てキンメリア領内に残骸が落下しているとの情報が入っています」
通路に靴音が響く中、神村は表情を強張らせて答えた。
「その、ここだけの話ですが……上層部は大陸側は囮で、島側への攻撃が本命だと考えているようで……それで、御夫妻に声がかかったものと思われます」
「そうですか……」
響は残念そうに呟く。
アリスは我慢できずに、そんな響へと問いかけた。
「ねえ、お父さん。何で二人が軍に呼ばれなきゃいけないの?」
「……このことは話しても?」
響が問いかけると、神村はちょうど辿り着いた扉をカードを通して開け、そこを通りながら小さく頷いた。
その先には迷彩柄の装甲車のような車が、大きな金属質のトンネルの中に十台ほど並んでいる。近づいてみると、想像以上に大きく、中は対面式で座るような形になっていた。そこの一台に乗り込みながら、響はアリスに答えた。
「私たちの会社はトライエースをテーマにしたゲームを開発すると同時に、本物のトライエースの機体に使うシステムを開発していた。その中で次世代型のある物のシステムを軍と共同開発。その中心で動いていたのが私と美亜の所属するチームだったんだ」
エンジンがかかり、車が動き出す中、響は腕を組んで小さく唸った。
その表情は、自分の作った物が動くことを見れる喜びと兵器が役に立つ時が来てしまった悲しさが混ざった複雑なものにアリスは感じられた。
「秘密裏に開発していたものだから、動かすのも初めてになる。万が一のために、それを直せる立場の人間は必要だろう」
「じゃ、じゃあ、お父さんとお母さんは軍に所属するってこと? もしかして、戦場に出るの?」
香織が思わず、前のめりになって響と美亜に問う。子供として、親が戦争に向かうとなれば心配するのは当然だろう。
だが、響も美亜も首を横に振った。
「あくまで初期稼働の補助だけさ。軍にも私たち以上の素晴らしい人たちがいるはずだからね」
「最初だけはどうしても人数が必要になると思うの。多分、チームの他の人も呼ばれてるんじゃないかしら」
その答えを聞き、香織は渋々と言った様子で引き下がる。
しかし、誰が見ても、その顔は納得したようには見えない。それはアリスも同じであった。
「嘘じゃないよね?」
「あぁ、大体、システムは作れても、操縦技術とかは彼らの方がずっと上だ。ゲームと現実では埋めようのない差があるんだよ」
少なくとも、体を鍛えていないデスクワーカー族では、加減速の慣性の力に耐えられないだろう、と響は自分の細い二の腕を指でつまんで見せた。




