出会いⅧ
アリスは初対面の青年に「見つけた」と言われ、戸惑いと恐怖に心を侵食される。動揺して、声を出せずにいると、横にいたシャルが青年の腕に拳を振り下ろした。
「おい、シャルから手を放せ!」
鈍い音がコクピット内に響くが、うめき声が漏れたのは青年ではなくシャルの方であった。
「痛っ! どんな筋肉と骨してんだよ、お前!」
「――――そうか、いきなり驚かせてすまなかった」
青年はそう言うと、アリスから手を放して体を起こす。そして、頭を押さえながら左右を見て、訝し気な表情を浮かべた。
「ここは、どこだ?」
「何言ってんだ!? お前もコロニーの破損を見て、避難している最中じゃなかったのかよ!?」
「コロニー? 避難?」
シャルの問いかけに対し、全く言っている意味が分からないと言った様子だった。その態度にシャルはいらついて、胸倉を掴もうと腰を上げる。
「シャル、画面が付いた!」
「マジ!?」
アリスの叫びにシャルが目を丸くして、席に座り直す。
すると彼女の目に飛び込んで来たのは、最初に起動したときに似た表示だった。
――――ADエンジン始動
――――バッテリー充電中
直後、空色の淡白な背景にパソコンのような画面が映し出された。
「よし、とりあえず、コクピットを閉めるのは……これだ!」
前の席側にあるスイッチを押すと、小さな駆動音の後にゆっくりと扉が閉まる。
「やった、これで!」
「時間が稼げる!」
喜ぶ二人の傍ら、状況を理解できていない青年は改めて、周囲の機器を見て首を傾げた。
「ここは……何かの操縦席か?」
「トライエースのコクピットだよ。一体、何を見て入って来たんだ?」
呆れた口調でシャルは青年を睨みながら、座り直し、キーボードを叩き始める。
「とりあえず、そこの席に座って大人しくしててくれ。スイッチ一つでも勝手に触ったら顔面殴るからな」
「あ、あぁ、わかった」
渋々と言った感じで、青年が座ると更にシャルから指示が飛んだ。
「アリス。モニターが移動する。嫌かもしれないけど、ちょっと、そいつの上に乗っててくれ」
「わ、わかった。す、すいません。失礼しますね、って、わわわ――――」
何とか椅子の上に登ったアリスだが、手を滑らせて青年に覆いかぶさるような形になってしまう。結果として胸を押し付ける形になってしまい、アリスは顔が熱を持つのを感じた。
しかし、青年は至って冷静で、アリスの脇に両手を差し入れて、すぐに距離を離す。
「その、ごめんなさい」
「いや、こちらこそ最初に手を貸すべきだった。それより、モニターが移動して来てる。今の内に体勢を入れ替えよう」
「そ、そうですね」
そう言ってアリスは青年の前にある僅かなスペースに座る。もし、アリスが小学生だったならば、仲良くテレビを見る兄妹のような光景に見えただろう。
そんなアリスの目の前に後ろからぐるりと回って来たモニターが点灯する。モニターは真上から見るとアルファベットのCのような形になっており、外の景色を映し出していた。
更に、それに加えて、元々、壁だと思っていた部分もモニターだったらしく、そこにも外の様子が表示される。
背後から来たモニターが、最後にカチリとその壁の窪みに収まると、真後ろ以外のほぼ全てを映し出す。まるで、自分が本当に寝転がっているような錯覚を覚えてしまう程だ。
「全天周囲モニターか。後ろ以外、ほぼ全部見える」
「最新型のコックピットの中ってこんな風になってるんだ……」
二人が驚嘆する中、キーボードを叩いていたシャルが舌打ちをした。
「アリス、そっちも手伝って。データが全部初期化されてて、立ち上がることもできやしない。幸い授業でも弄ってるやつだから、多少は何とか――――」
不意にモニターに黒い影が落ちる。それを見て、アリスとシャルは息を呑んだ。
「宇宙開拓連合軍の、トライエース!?」
巨大な機体が二機、すぐ近くに着陸した。