不穏Ⅶ
アリスが二人の会話を聞いて、立ち尽くしていると目の前の扉が開き、ジョンが姿を現した。
「そんなところに立ったまま、どうしたんだ?」
「え? いや、その……久しぶりにこっちに来たから、思わずどんな味があるか気になっちゃったんです」
「あぁ、新商品とか出ると気になるよな。まぁ、俺にとっては、どの商品でも初めてだから、常に期待で胸いっぱいなんだけど。とりあえず、廊下は暑いから入りなよ」
そう告げたジョンは、アリスが入れるように道を譲る。冷房の利いた部屋の空気が肌を撫でた。
言われるがまま扉を潜ると、先程まで話をしていた響と美亜も玄関から戻って来る。ちょうど、ジョンと目が合ったらしく、響が軽く礼を言いながら、扉を潜る声が後ろから聞こえた。
「そういえば、ジョンのコートって収納できるんだよな? 何だったら、俺たちの分も閉まってくれた方が楽なんじゃ?」
「万が一、俺と別行動していたら意味がなくなるだろ? ほら、自分の分は自分で管理する」
薄手のジャケットのようになってしまったコートをひらひらとさせながら、ジョンは自分の避難バッグを早速、中へと仕舞っていく。
「今、思ったけど、それ本当に魔法だとして、避難所で出すのは無理なんじゃない?」
「その時は人目に付かない所で出すよ。それこそあの大規模なシェルター内なら、いくらでも誤魔化せる場所はありそうだからな」
軽く手を突っ込んで器用にペットボトルだけを取り出して見せるジョン。
それを香織は食いつくように見つめる。まだ、ジョンの魔法を手品だと疑っているようで、視線はかなり鋭いものになっていた。
「絶対、トリックがあるはず……というか、気付かなかったけど、その服って、あのコートと同じ能力があったのかっ!!」
「コートと同じ能力と言うか、コートを変形させてるだけだから、同じものと言う方が正しいかな」
「むー、どこまでも人を馬鹿にして―! お父さんも何か言ってやって! 人を揶揄うのはいい加減にしろって」
唐突に援護射撃を求められた響は、驚愕に目を丸くしながら香織とジョンを交互に見る。一瞬、助けを求めるように美亜へと顔を向けるも、美亜は自分が蒔いた種だとばかりに目を瞑ってしまっていた。
「えっと、まぁ、なんだ。父さんは、個人的に興味はあるが、必ず魔法を否定する立場じゃなくて、その原理を知りたいって立場でな?」
「えー、お父さんは私の味方じゃないのー?」
わざとらしい仕草で可愛い子振る香織だったが、それでも響の返答は曖昧なものしか返ってこない。埒が明かないと考えたようで、香織は立ち上がるとジョンへと人差し指を突きつけた。
「こうなったら、他の魔法を――――」
その瞬間、アリスは全身が凍るような怖気に襲われた。鳥肌が立ち、思わず上半身が震えるほどの何かを感じ取った。
「こら、人を指差さない。それと、年上の人には敬語をしっかり使う!」
固まっていた香織に美亜が両手に腰を当てて起こる。
しかし、当の本人は心ここにあらずと言った様子で、口をパクパクさせるだけだ。流石に様子がおかしいことに気付き、響と美亜が怪訝な顔をする。
固まっているのは香織だけではなく、アリスやシャル、ロンも同じだったからだ。
「――――あぁ、悪い。ちょっと気を張ってたから、思わず殺気を飛ばしてしまった」
「さ、殺気?」
ジョンの物騒な発言に、思わずシャルが頬を引き攣らせる。
「指を向けるだけで人を呪う魔法があってな。言い訳にしかならないと思うが、今朝から魔法が十分に使える状態じゃないと自覚してから、結構気を張ってたんだ。申し訳ない」
「あぁ、だから、前にあたしが指差した時も避ける動作を……?」
アリスはそれを言われて巡洋艦のコーラルで、そのような動作をジョンがしていたことを思い出す。




