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魔動戦機トライエース  作者: 一文字 心


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不穏Ⅳ

 二人が出て行ったところで、部屋の中にテレビの音だけが響く。

 車のエンジンがかかり出て行ったことを確認すると、アリスは美亜に問いかけた。


「こんな時まで、お仕事しなきゃいけないの?」

「それが大人よ。特に愛する者がいる人は特に」


 美亜は自分が持っていたアイスの棒をごみ箱に捨てると、そのまま、流しに置かれたアイスの容器を処理する。


「でも、さっき言っていた通り、いきなり攻撃を仕掛けるなんてことをすれば、問答無用で他国からの攻撃を受ける覚悟が必要になる。少なくとも、エリシウムは地球保全連盟加盟国に技術提供をする代わりに、戦争時は助けてもらえるようになっているわけだからね。数日以内にコペルニクスの援軍はやってくるでしょう」

「でも、キンメリア軍の戦力は、この国の三倍近くあります。それに、それは公表されている分だけ。最悪、その数倍に膨れあがってもおかしくないんですよ?」


 ロンが美亜へと告げる。この戦いが起これば、かなり不利であると。


「そうね。でも、私たちができることはそれくらい。多分、この国の人の気質だと最後まで国に残る人の方が多い気がするけど」


 手を拭きながら戻って来た美亜は、テレビの画面に目を向ける。そこには相変わらず総理大臣の会見があることを知らせるテロップが流れ、その下では何度も繰り返されし表示されるキンメリア軍の映像があった。

 宇宙でも地上でも戦いが始まることを嫌でも予感させられることに、アリスは辟易としてしまい、テレビの電源を落としたくなる。


「ゲームの世界なら、ハイエンド機を操る主人公が無双するところだけど、実際の戦いじゃエース機がいても基本的には多勢に無勢でしょう。それに人間の体じゃ、慣性の力に耐えるにも限界があるし、無人機として外から操るとなると、活動範囲が狭まる。これだけ科学技術が発達しているのに、どうして、そっちの方へとシフトしなかったのかしらね」


 別に戦争がしたいわけじゃないのだけど、と断ったうえで美亜は疑問を呈した。

 戦争では人の命が奪われるが、それらを最小限にすることは継戦能力の向上や戦術の幅の拡大に繋がる。それを否定してまで、トライエースに拘る理由を美亜は理解できずにいるらしい。


「既存技術の応用の方が楽だから、というのは?」

「それこそ、小型化や機械化に進むべきよ。あなたも工業高校に進んだなら、考えたことはあるでしょう?」


 アリスは美亜に問われて、確かに、と頷いた。

 トライエースではなくとも、部品や製品は同じ性能ならば、軽ければ軽いほど、小さければ小さいほど良い。使う材料が少なければコストも下がるし、運搬時の費用もその分だけ単価が安くなる。


「それは中身の問題でしょ? 人間型のパワードスーツでトライエースと戦っても質量差では敵わないもの」

「じゃあ、質量なんて関係ない兵器を開発するべきね。それこそ、ビーム兵器を発展させて並べるだけで十分よ」


 少なくとも、トライエースを操るゲームを開発している人が言うセリフではない。

 いや、むしろ開発しているからこそ、出て来た言葉なのか、とアリスはそこで気付く。ゲームではいわゆる難所。プレイヤーが苦戦する場所を作ることもある。そして、それはある程度、世界観やストーリーに沿った形で作り出されたり、配置されたりしている。


「もしかして、最新作の砲台祭りと不評だったステージの製作者は、美亜さんだったりしますか?」


 ロンが恐る恐る聞くと、美亜は首を横に振った。


「私たち夫婦はシステムエンジニア兼プログラマーだから、そういう構成を考える立場ではなかったわ。もちろん、そこの攻撃パターンとかを組んだのは私だけど」

「あれ、滅茶苦茶いやらしい攻撃パターンでしたよね!? 俺、アレで何回もクリアできずに心折れたんですよ!?」

「誉め言葉として受け取っておくわ。因みにクリアは?」


 美亜の言葉にロンは一瞬、躊躇った後、胸を張って言い切った。


「もちろん、ノーダメでできるまでやり込みました」

「流石ね。これであなたも立派なトライエース乗りよ」


 美亜は満足気にサムズアップするが、他の女子三人組は何とも言えない表情を浮かべる。先程まで、戦争というシリアスな話題が、いつの間にかゲーム談議にすり替わってしまったのだから、無理もない話だろう。

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