確認Ⅷ
アイスを食べ終わったらジョンのマジックの鑑賞会という流れができている中、香織がおもむろにテレビをつける。表示された番組は、相変わらずEMU軍とURU軍の事件のことを話しているらしく、現在の配備されている航宙艦やトライエースの性能について、専門家が解説しているところだった。
「そういえば、シャル。さっき、公園で言おうとしてたことってなんだったの?」
「あぁ、あれか。この国の軍人は、作業するときも制服なのはおかしいなって思ってな。迷彩服とか作業服でやるのが普通だろ? 廊下の電灯を変えるなんてレベルじゃなくて、シェルターのチェックに外へわざわざ来るなら尚更な」
シャルが言うように、アリスの記憶に残っているのは半そでのシャツにスラックス。確かに梯子を上ったり、暑い外で作業したりするには違和感がある。
だが、確かにカメラ周りの清掃をしたり、コードを見たりとやっていることは不思議ではなかった。管理人の人たちも特に怪しんでいる様子は無く、むしろ待っていたような雰囲気で小屋から出て来たのをアリスは目撃していた。
「いつ有事になってもおかしくないのに、緊張感がないって言うかさ。もしかして、スパイだったりしないよな?」
「そりゃ、シャルのお父さんが軍人だから、少し敏感になっているだけなんじゃないの?」
アリスは口の中にバニラ味のアイスをスプーンで放り込む。
ある程度、気温が操作されているニアムーンコロニーと違って、暑い外気と日光に照らされて火照った体がアイスによって癒されていくのが感じる。久方振りの感覚にアリスは思わず目を閉じて、その幸せを噛み締める。
「少なくとも、管理人が怪しんでいなかったってことは、元々予定されていたことなんだから大丈夫なんじゃない? 少なくとも、他国のスパイが勝手に侵入を企ててた、なんてことはないと思うよ。多分」
アリスは苦笑いしながら、シャルの心配を一蹴する。本当に、そんなことが起きていたのだとするならば、平和ボケにもほどがありすぎる。
そんなことを話していると、香織がアリスの背後にいつの間にか忍び寄っていた。
「隙あり!」
「あ! 私のアイス!」
背後からスプーンで深々と一刺し。そのまま抉り抜いたアイスを香織は、勢いよく口の中に入れてしまう。
「うーん、こっちもおいふぃー」
「ちょっと、香織。家族でもやっていいことと悪いことがあるんだからね」
アリスが怒り心頭とばかりに香織へと詰め寄る。
しかし、当の本人は悪びれた様子はまったくなく。自身の抹茶アイスを差し出しながら微笑んだ。
「はい。じゃあ、私のも食べて」
「…………えいっ」
「あ! 私そんな取ってない!」
「利子よ。利子」
実際は香織が叫ぶほど取った量に違いはないのだが、アリスは香織のわざとらしい叫びに冗談を言い放った。
「「闇金過ぎるだろ――――」」
テーブルを挟んで反対側にいたロンとジョンは図らずも全く同じ言葉を発してしまう。そのことに互いに驚いて目が合うが、すぐにそれは笑いへと変化する。
「どうだい? 家族じゃないけど、公平な取引とやらはできると証明しようじゃないか」
「いいぞ。ほれ、こっちのイチゴ味。なかなかだ」
ジョンはイチゴ味を、ロンはミント味のアイスを差し出し、同時にスプーンを突き立てる。ちょうど、スプーンのへこんだ部分を満たす量が取れた二人は、軽く自分の前で感謝する様に上にあげてから口内に入れた。
「まだ会って二日で、よくそこまで仲良くなるな」
シャルがそれを見ながらチョコ味のアイスを食べる。どうにも男の間に芽生える友情とやらの発生条件が理解できない様子だった。
「何だろうな。何か通じ合うものがあれば、男はすぐ仲良くなれるんだ。一度でも遊んで気が合ったら友達、みたいな?」
ロンの発言に、遊ぶどころか一方的に助けてもらっただけだろう、とシャルはツッコミを入れる。アリスは、確かにと頷いていたが、その後ろから不穏な言葉が聞こえて来て、動きがピタリと止まった。
「――――番組の途中ですが、臨時ニュースをお知らせします。キンメリアの軍が大規模な南下を始めました。このままの進軍速度だと、数日後にはエリシウムとの国境に到達するとの予想です」




