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魔動戦機トライエース  作者: 一文字 心
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出会いⅦ

 いつまで経っても、来ない二人にロンが大声で叫ぶ。


「おい! 早くしろ!」

「ロン、お前は先に行ってろ!」

「なにするつもりだ!?」


 想定していなかった返答にロンの焦った声が返って来る。


「アリスの力じゃ、そのコンテナの壁を乗り越えられない。あたしたちが手を貸してもね。だから、この中に立て籠もる!」

「馬鹿を言うな! 仮にこの瞬間は助かっても、回収された後に酷い目に遭うぞ!」

「ロン。お前が最後の希望だ。シェルターまでひとっ走りして、何とか助けを呼んで来てくれ!」


 何かを手探りで探しているシャルを見て、口を何度か開けては閉じるを繰り返すロン。

 しかし、近づいて来る噴射音を聞き、ロンは聞いたことのない声で叫んだ。


「絶対に死ぬなよ! 必ず助けを呼んでくるからな!」


 コンテナの上からロンの姿が消える。

 それと同時にシャルは、探していた物を見つけたようで、冷や汗を流しながら不敵な笑みを浮かべた。


「シャル、どうしたの?」

「トライエースはさ。電源が切れた時の為に外からも開けられるようになってんだ。ここをこうやって捻ると、さ!」


 円形の窪みに取っ手が付いたハンドル。それを片手で持って、シャルが思いきり時計回りに捻ると、ゆっくりと胸部装甲の中央が動き出す。

 まず顔側に胸部装甲が跳ね上がり、次いでその下にあった部分が下半身側へと開く。今は機体が横たわっているが、実際は立った状態で乗り込むための足場部分だろう。


「アリス、中に入るよ。そしたら、これを閉めれば時間は稼げる!」

「わ、わかった!」


 最初にシャルが中へ入り、アリスが落ちないように腰を掴んで支える。

 アリスが足をバタつかせながらも、何とか足をつけることに成功すると、どちらからともなく大きく息を吐いた。

 しかし、安堵したのも束の間。すぐ近くまでトライエースが近付いていることに気付く。


「サブの席がある。メインの椅子の裏に隠れて、何とか入口を閉じないと!」


 シャルが素早く椅子の後ろへと回ると、アリスの腕を掴んで引っ張り込んだ。

 椅子の背面から左右や上部のスイッチを見回すシャルを見て、アリスは小さな声で呟く。


「操縦の仕方分かるの?」

「前に言ったよね。あたしの親父、地球保全連合軍の艦長やってるって。家にシミュレーターみたいなのがあるから、一応、出来ないことはないんだけど――――」


 舌唇を噛みながらシャルは、椅子の背面に着いている一部分を倒す。それはキーボードのようで、捲られた窪み部分は画面になっていた。シャルは画面には目もくれず、キーボードの端にある、パソコンの電源を入れるであろうボタンを押し込む。


「よし、これで――――!?」


 喜びに満ちた笑顔は即座に絶望へと変わった。

 シャルの強張った表情にアリスが画面を覗き込むと、心臓が早鐘を打ち始める。


 ――――No Engine(搭載エンジン無し)

 ――――バッテリー残存量1%


 シャルが血眼になってキーボードを打ち込むが、画面にそれが反映されるよりも早く――――電源が落ちた。

 真っ黒な画面を見たままアリスは唇を震わせて、シャルの手を握った。


「ごめん。私のせいで……」

「違う。こんなの嘘だよ」


 再びシャルは電源ボタンを押すが、反応は何もない。空虚な黒いモニターが、ただただ現実を二人に突きつけていた。

 どこかから聞こえるジェット噴射の音が、どこか別世界のように感じる。気付けば、アリスの頬を液体が伝っていた。


「誰か……助けてっ」


 ドサリッ、と重たい物が倒れたような音がすぐ横で聞こえた。


「――――だ、誰?」


 驚いて目を開くと、誰かがメインコクピットの椅子に寄り掛かっているようだった。涙を拭ってみると、黒髪の青年の顔が背もたれからはみ出て居るのが見える。

 アリスの心臓が一際大きく跳ねた。恐怖ではない、驚きでもない、何とも言い難く説明のできない感情を伴った胸の高鳴りに戸惑いを覚えながらも、青年の肩に左手を触れる。

 紺のコートの上からでもわかる筋肉質なそれをゆっくりと揺すると、青年の口から呻き声が漏れた。


「あ、あの、大丈夫、ですか?」

「こいつ、いつの間にこの中に入って来たんだ!?」


 シャルが警戒しながらも、青年の動向を見守る。

 それに対してアリスは一種の希望にも似た何かを感じ取り、少しずつ揺する強さを上げた。すると、唐突に青年の右手がアリスの左手を掴む。


「――――君は」


 うっすらと開けた黒い瞳の奥に、アリスは微かではあるが地球のような青い光を見た気がした。

 そんな青年の口が動くと、小さく、しかし、はっきりとアリスの耳にその言葉は届く。


「――――やっと、見つけた」

「――――え?」


 理解ができなかった。

 ただ、青年の表情と声音は、心の底から探し求めていたものを見つけたような、喜びと感謝に満ちていたことだけは感じ取れた。

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