確認Ⅴ
もちろん、それだけの大きな構造物を長期間、何も使わずに放置しておくのはもったいない。その為、緊急時に備えて、中には災害対策課の役人が常時勤務している。
地震や火山と言った災害の研究を専門としている教育・研究機関の人間もいることもあるほか、点検などに行くのが便利という理由で上下水道課の部署も併設されていた。
「なるほど、インフラの一部を最初から組み込んでおけば、何かあった時にもそこで動くことができる、ってことか」
「おかげで私の実家は、水道トラブルがあってもすぐに直るの」
アリスが参ったか、とでも言うように両手を腰に当てて胸を張る。
そんなアリスにシャルは感心した表情を見せていたが、次の瞬間、にやりと笑みを浮かべた。
「もしかしてだけどさ、アリス。今の件、ジョンにもやったの?」
「……何、文句ある?」
全く同じことを同じ日に二度もやったことを指摘され、どこか恥ずかしくなる。だが、それをしなければならなかったのだから、文句を言われる筋合いはないはずだ。
アリスはじと目でシャルへと視線を送ると、笑いながらシャルは親指を立てた。
「いや、それはそれで面白いから、あたし的には良いと思う」
アリスは普段通りのシャルに何と言って良いかわからず、ため息をついて、次の説明に移る。
「で、こっちが脱出用。大規模な攻撃やマグマ、溶岩の流入とかで危険が迫った時の為に別のシェルターに移動するためのもの。断層が起きても大丈夫なようにかなり余裕を持って空間が確保されてるの」
アリスの指の先には、一番大きい公園と言われていたところにまで伸びるトンネルがあった。ロンが眼鏡をかけ直しながら地図をよく見る。
「脱出って、何で?」
「多分、歩いてなんじゃないかな? 電力が落ちることも考えると大変だと思うし」
「三十分くらい歩き通しって感じか。僕たちは良いけど、お年寄りや車椅子の方とかは大変そうだ」
ここに来るまでの道のりも緩やかとはいえ坂道だった。避難では時間との勝負になることが多い。その中で、この公園の立地や構造は少しばかり悪手にも思えるのは確かだ。
「逆に津波とかであっちから避難して来ることも想定されてるんですよ。だから、この島は見えている以上に地下に都市が広がってて……。特にADエンジンが開発されてからは、安全かつ安定した発電方法も確立されてるから、今後は地下都市がもっと広がっていく予定なんです」
香織が説明をしていると、後ろから大人数の足跡が聞こえて来た。
振り返ると、エリシウム軍の制服を着た集団の姿が目に入る。紺色のスラックスに、水色の半そでのシャツ。肩や胸に階級章が記されていて、見る人が見ればどんな立場の人が来ているかを推測できたかもしれない。
先頭にいた年配の軍人が、アリスたちの姿を認めて少し目が開く。
「こんにちは、涼んでいるところ申し訳ないけれど、今からここの点検をするので、少しだけ場所を移動してもらっても構わないかな? この日陰から出て行かなくても大丈夫。そこのベンチとかに移動してくれるだけで良いんだ」
「はい、大丈夫です。でも、役所の人じゃなくて軍の方が点検するんですね?」
「ははは、この中には軍の物資もあるからね。夏の暑さで保存食が痛んでいないかとか確認するんだよ」
そう言って、彼は後ろにいる部下らしき人たちに視線を送る。ここまでは車か何かで来たのだろう。この暑さだというのに、汗はそこまでかいていないように見えた。
「お疲れ様です。お仕事頑張ってください」
「ご丁寧にありがとう。お嬢さんたち。熱中症にならないよう気を付けて」
年配軍人の言葉を受けて、アリスたちは隅の方へと移動する。その際、後ろから年配軍人の部下への指示が聞こえて来た。
「一斑は監視カメラのチェック、二班はシャッターの老朽具合の確認、三班以降は私に続け。地上班は何かあった場合に無線を入れること、以上」
「了解」
部下たちが返事をすると一カ所のシャッターが上がっていき、次々と中へと入っていく。地上に残った人たちは、あちこちに移動したり、梯子を使って監視カメラに向かったりし始めた。




