出会いⅥ
横たわった黒鉄の巨人。
コクピットを守る分厚い胸板の装甲。人と同じ機能を求めながらも、ロボットらしい武骨さを感じさせる腕と脚。
各種センサーを結集した頭部は、耳の横を斜め上後方に流れるように左右一対のアンテナが伸び、目の部分はサングラスをかけたような形状のガラスが嵌っている。更に目を凝らせば、左右それぞれの人の眼球に当たる部分に、いくつかの異なるカメラのレンズがあることが分かっただろう。
これだけならば、デュオエースと呼ばれる採掘用ロボットだと思ったに違いない。
しかし、この機体の腰の部分には、明らかに採掘では使わない武器。人間が使うナイフのような物が左右に一本ずつ装備されているのが見えた。
「おいおいおい、マジかよ。宇宙開拓連合軍でも、地球保全連合軍のトライエースでもないぞ、これ」
「お前がいうなら間違いないな。生粋のトライエースオタクだし……。でも、それだったら、どこのだよ?」
ロンが呆れながらも、立ち上がって機体に所属を表すエンブレムや番号などが書いていないかを探す。
「もしかして、新型だったり、とか?」
「「――――そんなまさか」」
アリスの呟きに二人は頬を引き攣らせて否定する。
それも当然だ。新型のトライエースがこのようなニアムーンに墜落する筈がない。仮にそうだとして、そんな最高軍事機密尾の塊を見てしまった自分たちに、今後どのような運命が待っているか。想像するだけで恐ろしい。
「いや、待てよ。さっきの航宙艦のサイレン。まさか、本当に新型機の輸送中だったなんてことはないだろうな!?」
ロンが慌てて、空を見上げる。
暗黒の空の彼方に一カ所、明らかに残骸が空中を舞い、外へと放り出されていた。ロンはそこに黒煙が吸い込まれているのを発見し、その発生源を辿る。すると、市街地の方へと何かが墜落していることがわかった。
「街の方に突っ込んでるね。下手するとかなりの死者が出てるかも」
「でも、確か市街地はブロックごとに地化へ格納できるようになってるから、それが間に合ってれば大丈夫じゃない?」
シャルもロンの視線を追って、市街地の被害に気付く。思わず心配の声が漏れるが、アリスは冷静に市街地の緊急避難システムを思い出す。
人口密集地は、シェルターへの移動自体が難しくなるため、建物ごとシェルターへ格納する仕組みがある。最悪、コロニーの強化ガラス全てが砕け散るようなことがあっても、十分、その中で生存することが可能だ。
「今は自分の身を心配するべきだ。早く、ここから離れよう!」
「そうだった。万が一、空気が無くなったら大変だもんな」
「違うぞ、アホ! こんな重要機密の塊。護衛する奴がいないはずがないだろ!」
ロンが叫ぶと、微かではあるがどこからかガスバーナーを噴射するような音が聞こえてくる。
その音を聞いて、まっさきにシャルが蒼褪めた。
「トライエースのジェット噴射音だ!」
「どうしよう。こんな所にいるの見られたら……」
「どうするもこうするもない。あたしら全員、口封じであの世行きでしょ!」
エネルギー銃か実銃かは不明だが、どちらにしろアリスの頭の中には、漆黒の銃身を突きつけられ、肉片すら残さず吹き飛ぶ未来が過ぎった。
「おい、ぼーっとするな。早く学校のシェルターに行くぞ!」
ロンはアスレチックの足場を渡るように、軽々とジャンプしてコンテナの向こう側へと辿り着く。
シャルもそれに続こうとするが、はっと後ろを振り返った。
「ごめん。私、無理かも」
そこには足を震わせながら、涙目で見つめ返すアリスがいた。
ロンほどではないにしろ、機体を伝って、コンテナの壁まで近づくことは可能だ。だが、その壁に飛び移れる気がアリスにはしなかった。
その様子を見たシャルは、拳を強く握りしめた後、アリスの側まで駆け寄ってしゃがみ込んだ。