軍港Ⅶ
ジョンが既に聞く体勢でいたのを認め、ジェイダは口を開いた。
「まず、あなたにはこちらから身分の保証をする書類を発行します。しかし、これはあくまで仮のもの。正式な戸籍はエリシウム降下後に役所で手続きする必要があります」
もちろん、夜中にやっているはずがないので、それは明日の朝になるまで待たなければならない。その点はアリスは両親がジョンも家に泊めてくれるから問題ないだろうと考えていた。
その後も幾つか注意点などを挙げたジェイダは、残りは役所で確認をしながら進めるように、と告げるとジョンの反応を見守る。
「――――他に、何かありますか? 例えば、俺のEMU軍における扱いについて」
「なるほど、最初からお見通しでしたか。操縦の腕だけでなく、頭の回転も早いようね」
アリスたちは何の会話が繰り広げられているか、理解できずにいた。
すると、先程、不愛想だったスキンヘッドの軍人が部屋へと戻ってきた。その両手には小さな箱があり、丁寧に運んでいる様子が伺えた。
「あなたに渡す身分を保証する書類――――いえ、身分証といった方が良いかしら?」
軍人が箱を開けると、そこにはカードと一冊の本が収められている。
ジョンは男に許可を得ると、カードを手に取った。
「よくできてますね。いつの間に写真まで?」
「コーラルとトライエースの通信時に。一応、通信が繋がっているコックピット内の様子はオペレーターが確認できるようになっているの」
気になったロンが、ジョンの後ろから肩越しにカードを覗き込む。すると、一秒と経たずして大声を上げた。
「EMU軍予備上等兵!?」
ロンの悲鳴染みた声に、アリスとシャルも急いでカードを覗き込む。青の地のカードにコックピット内にいたジョンの顔写真が印刷されている。ただし、名前の部分はネームレスと書かれていた。
驚いているアリスたちを尻目にジェイダは話を続ける。
「えぇ、これならば、あなたがどの国に所属していなくても、我々がその身分を保証する。もちろん、それ以外の問題も解決に繋がるのはわかるでしょう?」
「巡洋艦襲撃時の俺の行動ですね?」
民間人が軍同士の戦いに参加したというのは問題になる。その為、ジェイダは巡洋艦で保護した時点でジョンは軍に所属していたという体で事を進めることにしていた。
アリスはその話に耳を傾けながら箱の中にある本にも目を向けると、EMU軍の軍規や軍法について纏められている本であった。
「――――エリシウムの方にも、明朝、こちらから連絡をしておきます。軌道エレベーターでは、それを見せれば降りられるでしょう。少し、疑われて時間はかかるでしょうけどね」
「ありがとうございます。それで、俺はどのような対価を払えばいいですか?」
「既に対価なら払っていますよ。我が軍の巡洋艦とその乗組員を救ってくれたこと。命を救ったのならば、こちらも命を助けるために動くのが当然というものよ」
ジョンはじっとモニターを見つめた後、カードを胸ポケットに入れ、本を受け取った。
スキンヘッドの男は、それを見届けると箱を閉じる。役目は終えたと言わんばかりに踵を返して、部屋を無言で出て行ってしまった。
「ありがたく頂きます」
「えぇ、もし、あの機体でわからないことがあれば、また連絡を取らせてもらうかもしれません。その時には協力をしていただけると助かるわ」
「協力、ね。どこまでが、あなたの掌の上の出来事かはわかりませんが、少なくとも敵対する理由が俺にはありません。――――その時が来たら喜んで」
ジョンの返事にジェイダはにこやかに頷いた。
「ありがとう。その返事が聞けて嬉しいわ。では、みなさん。軌道エレベーターに向かう準備が出来たら、担当の者が案内します。それまでは、その部屋で寛いでいてください。では――――」
プツン、と糸が切れるようにモニターが真っ暗になった後、ゆっくりと太陽系の地図に切り替わった。




